第十五話 アステロイド・ワン③
2023年元旦。あけましておめでとうございます。
興味を持っていただき、感謝しています。今後ともよろしくお願いします。
稚拙な文章表現ですがご容赦ください。
この作品は不定期投稿です。一話二千文字から三千文字くらいを予定しています。
SFもので物理法則は無視しています。言葉の選択も映画やドラマで聞く表現を常識の範囲で並べています。勉強不足で申し訳ありませんが、お付き合いいただき、楽しんでいただければ幸いです。
アステロイド・ワンの船内は心配そうな警告音が至る所で鳴り響いているが、爆発音はさらに大きく船全体を揺らす。
船長のグリークマンは機能カーゴブロックのシートからずり落ちたところで踏みとどまっていた。
彼のいる艦橋からトラスと呼ばれる構造体で連結され、居住モジュールや実験室モジュールにつながる通路は煙が充満していて、一定量に達すると強制的に排気された。
通路を塞ぐ、剥がれ落ちたアルミ板に遮られ腹立たしく感じる。
「エイムズ!ジョージ!ブレンダ!生きているか?今から行くぞ」通路の障害物を避けつつ、居住モジュールに進む。
トラスにはロボットアームが付いていて、いつもは補給物資の移動や保守の支援に使用されているが、今は障害物の除去に活躍している。
居住モジュールは与圧空間で1気圧に設定されているため、通常の服装でも生活できるようになっているが、もし外装の破損が起これば人間は生きることができなくなる。
そう思った矢先、通路のハッチが閉ざされていているのが見えた。
宇宙服越しに内部を探るもモニターに反応はない。
ただ中には酸素があり、火災が発生している可能性もある。
とにかくその問題自体を解決しなくてはならない。つまりこれは危機的状況なのだ。仲間の生存者がいるか、いないかのどちらかを確認しなければならない。
管理してきた保安ファイル、居住区画の火災の対処マニュアルを思い返してみるが、現在起きている事態が、宇宙ステーションそのものの重大事故にもとづくものではなく、外部から修理不能のダメージを受けたとわかるまで十五分もかかっていた。
照明が切れて、非常灯と時おり火の付いた基盤がショートして周囲を明るく発光しては照らし出す。
大きくて暗い通路を無意識に突き進むグリークマンは、意を決して居住モジュールにその身を投げるように扉まで移動する。
開閉扉の横にあるコンソールのパネルで警告のランプが点滅している。先ほどまでは通常の服装で居住できるように1気圧で与圧された独立空間のはずだった。
それが今では高真空状態の曝露部と同じ気圧になっていて100億分の1の環境にあり、酸素の残量計もおかしくなったらしいと知らせている。
これは当然酸素タンクの異常ではなく、居住空間の外殻が裂けて、空気と気圧の両方を失ったと思うのが当然だろう。
搭乗員のシフトで必ず一人は休憩時間になっていて、誰かはそこにいたはずであった。
宇宙ステーションに搭載された無線機器を試したが不調とパネルが伝える。それが真実だとしても、サッカー場のコートの広さぐらいあるアステロイド・ワン、つまり自分以外の誰かは生きていて、自分以上に厳しい状況にいるのは間違いない。
ただグリークマンはそれ以上突き進むことができず、理解に困窮する。ここから先に行くには船外活動ができる与圧服が必要だった。
船長として彼は最善を尽くそうと努力をしていた。もう一度機能カーゴブロックまで艦橋を引き返し、非常用に置いてあった与圧服を装着する。
ただ一人孤立感を覚えたが、それでもこの苦境から抜け出さないといけない。それはすぐに、つまり仲間を見つけ出さなければならないのだ。
ここの艦橋には二つの与圧服があり、もう一つを四輪キャリーカートに入れた。仲間の誰かが生きていれば、高真空状態でも活動は可能になる装備だ。
カーゴブロックからつながるもう一つの通路にグリークマンは出た。
アステロイド・ワンは円筒形のドッキングブロックを中心にして、四つの区画がある。司令室を含むカーゴブロックと居住モジュール、その反対側に実験室モジュールがあって、最後に運動施設やリハビリを行う場所があった。
円を描くように曲がる通路の脇を手で支えながら、振動に耐えながら進むとようやく扉に突き当たる。
コンソールのモニターは正常に作動していて、与圧服は必要ない状態だった。ドッキング部の扉を開けると、トラスの与圧空間が広がり、その先に実験室モジュールが見える。
居住モジュールの時のような、怖いと思う感覚はなかった。それでもモニターの無線機器は不調を示しており、中との会話はできそうにもない。
グリークマンは手すりから手を伸ばし、コンソールの開閉ボタンを押した。実験室の中は爆発の衝撃を受けて、実験ラックから装置類が落ちて、床に散乱していた。細胞の培養装置などガラス製のものは落ちて、砕けていた。宇宙ステーションの回転軸に異常があり、傾いたせいで散乱したゴミが転がり、傾いた先に流れ込んだ。
傾きがさらにひどくなると、今までその位置を動かなかったものさえ、流れ出る。
グリークマンの足元には、海の入江に潮の流れによってできた波間に漂う漂着物のように、落ちて散乱した装置類が流れ着いた。
漂着物の一つ一つを注意深く観察する。一きわ目を引く漂着物を発見した。
不用意に拾いあげたものは、女性ものの運動靴。手に取った瞬間にそれが同僚の女性研究者のものだとわかった。
靴は彼女が爆発時にここにいたことを証明している。ただ、その姿を確認できない状況に身の毛のよだつ思いを想像し、駆り立てられる。
実験室には大型の機械や燃焼装置まであって、五本指の手の平が見えて、それが千切れた手首のように感じたが、ただのゴム手袋だったりする。
通常なら姿勢制御が必要な状況になると、宇宙ステーションの誘導コンピューターが、中心にあるドッキングベイの外側に取り付けられた小さな姿勢制御システムがスラスターの小型ロケットを噴射して、自動的に傾きを直しているはずが、その傾きが増大している気さえする。
彼の靴底は磁石が内蔵されていて、ヒールコンタクトが始まると磁力が働いて、床に与圧服を固定する。
フットフラットからトゥーオフで磁力が消失して、一歩前に進む。傾いた上方がふと気になり、グリークマンは顔を上げて、目を凝らす。下から覗き込むようにしたり、顔の位置を横にずらしたりして、ゆっくりと見ると、微かに何か動いているものが見てとれた。
何かの機械に掴まって、耐えていたのか、もともとそこにいたのかわからないが、片方の運動靴しか履いてない、女性の姿が見えた。
ようやく見つけたと思い、声をかけようとして戸惑った。
「危ない!」と、グリークマンが全身硬らせて顔をしかめ、叫ぶ。
彼女のさらに上方で荷崩れが起きようとしていたのが見えたのだ。何か重たいものが入っていそうな装置が棚からずれた。
彼女は金星圏のコロニー出身でロボット技術や宇宙の輸送技術を研究していた。名前はブレンダ、このアステロイド・ワンに配属されて、まだ三ヶ月程度だったと思う。
彼女の方言は妙な温かみがあって、とても愛嬌があった。ロボットアームの操縦がピカイチで、優秀な人材だった。
ブレンダも近づく、人影を見つけて顔をほころばせた。
再度、爆発音が響くと、ついに棚が崩れて。人にぶつかれば、間違いなく死に直結すると思う重量物が、彼女がいる場所に落ちた。
衝撃音とともにその場所は潰れて、ひしゃげていた。
「そんなに興奮しなくても」グリークマンは即座に彼女の身体を摑むと、顔を近づけ、ヘルメットのバイザー越しに、気持ちの高ぶったブレンダを優しく介抱した。
彼女も衝撃でその場から落ちたのだ。そして、その瞳から大粒の涙が溢れていた。
* *
火星のシドニア平原にある天文観測基地では太陽フレアの光が噴き上がりながら急速に膨張し、数分後には三十万キロメートル近くの上空に強力な磁気嵐を受けて、周辺の観測装置は機能を停止した。
上空には太陽風のプラズマが光や磁力線、熱に反応してオーロラの筋を何重にも発生させて、その規模の大きさを映し出していた。
(第十五話おわり)
アステロイド・ワンとジェニファーの話を続けていきます。次話も楽しんでいただければ幸いです。
作者は心があまり強くないので、あたたかく見守っていただければ幸いです。
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