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11話:インフラ投資、新型インフルエンザ、不景気

 化学賞は下村脩・元米ウッズホール海洋生物学研究所上席研究員に贈られた。日本人受賞は6年ぶりで日本中が明るいニュースに沸いた。南部、下村両氏は約50年前に渡米。米国での研究成果が認められた。南部氏は米国籍を取得した。日本にも優れた才能を呼び込む施策の充実が必要との声が上がった。政府は11月、基礎科学力の充実を目指し歴代ノーベル賞受賞者に意見を求める懇談会の初会合を開いた。


 ストックホルムでの授賞式には妻の健康を理由に欠席した南部氏を除き3人が出席した。中国、インドなどの成長著しい新興国からの需要拡大や投機的取引により原油、穀物、金属などあらゆる商品の価格が今年夏場にかけて急騰した。これに伴い、ガソリン価格、航空運賃、電気・ガス料金、食品価格が上昇し、国民生活に多大な影響を与えた。


 食品の値上がりは、石油の代替燃料としてエタノールなどバイオ燃料の需要が高まり、原料のトウモロコシなどが飼料・食料用からバイオ燃料用に振り向けられたことも要因となった。ニューヨーク市場の原油先物相場は7月に史上最高値となる1バレル、147.27ドルまで上げた。それでも、その後、米国発の金融危機の拡大で需要が減退するとの見方から約3分の1の水準まで急落した。


 他の商品価格も同様に下落し物価全般は落ち着きを取り戻した。2009年、大恐慌以来の深刻な景気後退に見舞われた米国で2月、過去最大の7872億ドル規模の景気対策法が成立した。家計、企業向けの減税に加え1200億ドルを投じてブロードバンド「高速大容量」インターネットなどのインフラ整備を推進する計画への投資が決まった。


 地球温暖化防止に向けて環境、エネルギー分野に重点投資の「緑のニューディール」の目玉事業も盛り込まれた。景気対策の効果もあり、米国経済は7~9月期にプラス成長に回復した。オバマ大統領は、景気対策を通じて2年間で350万人以上の雇用維持、創出を目指すと言った。しかし、11月の失業率は10%と高止まりのままであった。


2009年、二番底懸念がくすぶる中、経済の7割を占める個人消費を中心とした本格的な景気回復への道のりは、厳しかった。20世紀の米産業界をリードしてきたビッグスリーのクライスラーが4月30日、ゼネラル・モーターズ「GM」が6月1日、それぞれ連邦破産法11条「日本の民事再生法に相当」に基づく会社更生手続きの適用を申請、経営破綻した。


 環境対応車など新時代への取り組みの遅れや金融危機とその後の景気後退に見舞われたのが原因で米国経済の地位低下を示す出来事となった。クライスラーはイタリアの自動車大手フィアットと包括提携し6月10日、新会社クライスラーグループが誕生。米製造業では資産規模で最大の倒産劇となったGMも7月10日「シボレー」の優良ブランドを引き継ぎ政府が過半数株を握る「新生GM」として再出発を果たした。


 メキシコや米国で豚に由来する新型インフルエンザが発生、多くの死者を含む感染者が出ていることが4月に明らかになり、感染は瞬く間に世界中に拡大した。世界保健機関「WHO」は同月末、新型インフルエンザに対する6段階の警戒レベルを「フェーズ3」から「4」「5」に立て続けに引き上げ、さらに6月11日には世界的な大流行「パンデミック」を意味する「フェーズ6」を宣言した。


 WHOの発表によれば、11月29日時点での世界全体の累計死者数は8768人。ただ、個別の感染件数算定作業を停止した国が多く、実際の死者数はもっと多いとみられる。今回の新型は比較的症状の軽い弱毒型で、各国でのワクチン接種も10月ごろから本格化したが、北半球が流行期の冬本番を迎え、感染者急増が懸念される。金融危機に端を発した世界同時不況が、電機や自動車など輸出企業の業績を直撃した。


 需要の激減が響き2009年3月期の連結決算で電機大手8社は合計2兆円超の純損失を計上。トヨタ自動車も純損益が2兆円以上悪化し約4369億円の赤字に転落した。各社は過剰な在庫の絞り込みに加え経費の圧縮を迫られた。ソニーが1万6千人の削減に踏み切るなど雇用不安は非正規労働者にとどまらず正社員にも波及。春闘では未曽有の危機を乗り切るためベースアップを見送る。


 それだけでなく電機大手のように定期昇給を凍結する動きも広がった。急激な業績悪化の責任を取り大手企業のトップ交代も相次いだ。トヨタでは豊田章男社長が誕生、創業家の求心力に再生を託した。日本航空は昨秋の金融危機後に業績が一段と悪化し経営危機に陥った。政権交代後、鳩山内閣は自主再建路線から政府主導による再建に方針転換した。


 前原誠司国土交通相は就任直後の9月、直轄の専門家らを送り込み抜本的な再建策を検討させた。しかし、日航の財務状況は想定以上に悪化しており、再建の主導権はその後、公的組織「企業再生支援機構」に移った。同機構は年明けにも支援の可否を決断する見通しだが、収益低迷が続く中、手厚い企業年金などの「レガシーコスト『負の遺産』」は重く、再建の道筋を確定するまで曲折が続きそうだ。

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