連続誘拐事件 後編
警視庁
「どう? 怪しい人いる?」
千花とKOGAは駅の防犯カメラの映像を再確認していた。
「いや、いない。特殊カメラの赤枠の人物も全て、空振りだった」
「そっか」
千花は残念そうにする。すると、背後から声が聞こえて来た。
「お嬢様」
二人は振り返る。
「あ」
――またか!
KOGAは声の主を見て、机に顔を伏せた。
「今度は何?」
千花は少し、不機嫌そうに聞く。
「カジノのオーナーのお仕事が溜まって来ております」
樹は淡々と答える。
「カジノかぁ」
「えぇ」
千花は頭を抱えた。しかし、千花は言い返す。
「でも、こっちは人命がかかっているんだよね」
「こちらのお仕事も、倒産すれば、従業員たちの命にかかわります」
「う」
千花は言い負けた。
「では」
「え?」
「やぁ! マイハニー!」
隣にいた帝三は笑顔でそう言う。そして、彼は千花の手の甲にキスをする。
「ふえ?」
千花のスイッチングが完了した。そして、眼鏡のデータ更新もだ。
「なるほど。カジノがピンチね」
「左様でございます。お嬢様」
「では、参りましょう」
「はい」
樹はカジノ女王の千花のあとに続く。
「マイハニー。今夜は私の日本支部のホテルでディナーショーを見よう」
「えぇ。もちろん」
千花は帝三の誘いに笑顔で答える。
――何でだよぉぉぉ!
KOGAは顔は机に伏せたまま、心の中で叫んだ。
日本支部のホテル
千花はここにもカジノを経営している。
「今日も繁盛だね。ハニー」
「ありがとう」
千花は帝三に笑顔で言う。
「私のホテルも栄えるというものだよ」
「そうね」
「最近は科学が進んで、小型化できるものが増えたから、いかさまも多いんじゃないか?」
帝三はウィンクをする。
「まぁ、そうね。この間はアメリカで十億やられたわ」
千花はさらっと言う。
「そうだったんだね。でも、君なら半日でそれくらい取り戻せるだろう」
「一時間よ」
「相変わらず、ビッグマウスだね、ハニー」
「ふふっ。ありがとう」
千花は微笑み返した。
「まるで、マジックのようだね」
「え?」
「いかさまも。あったものがない。なかったものがある」
「なるほど。種も仕掛けもあるということね」
「そうだとも」
帝三も微笑む。
「さぁ、もうすぐディナーショーの時間だ。行こう」
「えぇ。もちろん」
次の日
「おはようございます。お嬢様」
樹はいつも通り、千花に朝の挨拶をする。
「おはよう」
千花は眠そうに答える。
「おはよう」
籟流は千花に話しかける。
「おはよう」
千花は眠そう。
「おはよう」
今度は一也が挨拶をする。
「おはよう」
千花は眠そうだ。
「おはよう」
信吾も挨拶をする。
「おはよう! いぇーい!」
千花は満面の笑みで、少しジャンプする。
「あぁぁぁぁぁ!」
一同は悲しむ。
「今日も俺じゃなかった!」
一也は悔しがる。
「マイハニー」
帝三は涙を流す。
「こればかりはしょうがないですね」
咲哉はすっぱりと諦める。
「だな。諦めろ。俺も含めて」
籟流も涙を光らせる。
「今日は信吾様のお嬢様でしたか」
「そうだよ!」
千花は樹にも笑顔を向ける。
「今日は、警視庁へ登庁日です」
「ちぇえ。分かったよ。籟流さん、スイッチングよろしく」
千花は籟流へ右手の甲を指し出す。そして、頼流は千花の手の甲にキスをする。
「あれ?」
千花のスイッチングが完了。ピっと眼鏡の更新も完了した。
「……」
すると、千花は黙る。
「どうされましたか? お嬢様」
「……マジック」
千花はぽつりと呟く。
「もしや、昨日の?」
帝三は少し、意外そうだった。
「帝三さん、ありがとうございます!」
千花は頭を下げ、走り出す。
「お嬢様! どちらへ!?」
樹はあとを追いかける。
「警視庁!」
樹も走るが、千花はそのまま、全速力で走り去る。
警視庁
「おはようございます!」
千花はドアを勢いよく開ける。
「わぁ! どうしたんだよ!」
KOGAは驚き、怒った。
「駅の防犯カメラの映像、もう一度、見直そう!」
「え? 何で?」
「何でもいいから!」
「理由ぐらい、言えよぉ」
KOGAは困惑する。
「実はね、気付いたことがあって」
「気付いたこと?」
KOGAは首を傾げる。
「三上晃が駅の中では身代金の入ったバッグを持っていたけど、駅の外では持っていなかったの!」
「何ぃ!?」
「だから、どこでカバンをなくしたか、もしくは誰かに渡したか、を調べたいの!」
千花は身を乗り出す。
「よし! やろう!」
「ありがとう!」
やる気を出したKOGAに千花は笑顔でお礼を言った。
十分後、データ分析完了。
「どうだった?」
千花は画面を覗き込む。
「ここ見て、この男性用トイレに入ったあと、カバンを持っていない」
KOGAは画面を指さす。
「ということは」
「次にこの人、同じカバンを持っている」
「ということは」
「この人物がもう一人の犯人」
KOGAは千花を見て、微笑む。
「ありがとう! 上に報告して来るね」
「おう! よろしく!」
KOGAは千花に敬礼する。千花はそれを背中に走って行く。
――あとは人質が無事ならいいのだけれど。
捜査会議
「街中の防犯カメラを顔認証システムで分析したところ、最後の一人、斉藤卓司がこの廃病院に潜伏しているということが分かった。人質もここにいる可能性が高い。必ず、助け出すように! 以上、散会!」
「はい!」
刑事たちは現場へ向かった。
廃病院
《こちら突入班、準備OKです》
《分かった。突入の合図を待て》
《了解しました》
千花とKOGAは別場所で、その無線からの報告を聞いていた。
「本当にここに?」
千花は廃病院を見上げる。
「あぁ、いるはずだよ」
「だよね」
――どうか、人質が無事で!
《突入!》
突入班の突入が始まった。
《人質を保護しました》
《犯人は?》
《いません。犯人の姿が見当たりません!》
「何で!?」
千花も焦る。
「防犯カメラをかいくぐって、どこかへ逃げたとしか」
KOGAはそう言う。
「もう一度、防犯カメラ映像、捜索して!」
千花はそう叫ぶ。
「えぇ!? 今、ここで?」
KOGAが驚く。
「見逃しているかもしれないでしょ!?」
「というか、二度もやらなくても、結果は見えてるよ。あの人工知能が間違うはずないし」
「ということは、本当に見逃してない?」
「ないない」
「にしても、どこへ向かうのか。防犯カメラがあるから日本中どこでも無理じゃ」
千花は考え込む。
「それだよ」
「え!? どれ?」
「日本中どこでも無理なんだよ」
「うんうん」
千花は相槌をうつ。
「ということは海外だよ」
「え!? 高飛びってこと?」
千花は驚く。
「僕らだけでも空港に向かおう」
「え!? うん」
国際空港
「どこにいるかなんてわかるの?」
千花は辺りを見渡す。
「防犯カメラの映像を見て行くしかないかもな」
「それじゃ、……」
「まずは、警備室!」
「おう!」
千花もKOGAのあとを追い、走り出す。
警備室
「すみません! 警視庁のものですが!」
千花は警察手帳を見せる。
「防犯カメラの映像を見せてもらえませんか?」
KOGAも手帳を見せる。
「はい。分かりました」
警備員は承諾する。
「ここから、ここまでが出国ターミナルです」
「ありがとうございます」
千花は礼を言う。
「黒川は一応、上に報告して来い。確保の時は二人では逃げられるかもしれない。応援を呼ぶんだ」
「はい」
千花はKOGAの指示に従う。
「俺は、防犯カメラの映像を分析する」
「分かった。連絡する」
「頼んだ」
――俺も一応、人工知能だ。顔認認証システムも使えるはずだ!
KOGA作業を開始する。
――どこだ。斉藤!
――この人物は!
「黒川! 見つけた! 斉藤だ!」
KOGAは叫ぶ。
「どこ?」
千花は画面を覗き込む。
「第三ゲートだ」
「分かった。行こう」
第三ゲート
「あ! いた!」
千花はいち早く見つける。
「待て! 斉藤! ここまでだ!」
――あの荷物、まさか身代金!?
「邪魔はさせねぇ!」
斉藤は刃物を取り出し、人質を取る。
「助けて!」
人質は叫ぶ。
「動くな! 俺は日本を出る!」
斉藤も叫ぶ。
「無理だ! 無駄に抵抗するな!」
「うるせぇ!」
斉藤は千花に襲い掛かろうとする。すると、無線から指示が聞こえて来た。
《黒川、KOGA、その場を動くな》
――え?
次の瞬間。血が舞った。
――そんな! 狙撃。
斉藤は地面に倒れた。
《狙撃、完了》
その無線が聞こえて来た。
――まさか。
《黒川、KOGA、よく報告してくれた》
「はい」
千花とKOGAは応援が到着したのを確認すると、あとを任せた。
警視庁
「人質だった学生たちは、警察病院?」
千花はKOGAに尋ねる。
「もう、親元に帰ったんじゃないかな」
「そっか」
すると、背後から声が聞こえて来た。
「お嬢様」
「え?」
「あ」
二人は振り返る。そこには樹の姿があった。
「お迎えに参りました」
「今日、何かあった?」
「一也様とボランティア活動の時間でございます」
樹は淡々と説明する。
「え!? お前、ボランティア活動もやってるの!?」
KOGAは驚く。
「ま、まぁ」
千花はKOGAの驚きように困惑した。
「そっか。で、一体」
「保護猫のお世話でございます」
千花の代わりに樹が答える。
「……そっか。それは仕方ないな」
「申し訳ない」
千花は頭を下げる。
「いや、いいんだ。報告書は俺が書く。それに」
「それに?」
千花は首を傾げる。
「命は大事だ。行ってこい」
KOGAは笑顔で送り出す。
「ありがとうございます」
千花は頭を下げた。
「では、お嬢様。スイッチングをして下さい」
樹は千花に淡々と言う。
「あ。そうか」
「千花?」
一也がやって来た。
「一也君、よろしく」
一也は千花の手の甲にキスをする。
「あへ?」
千花はスイッチングを完了させた。そして、眼鏡のデータも更新する。
「一也、行きましょう」
千花は微笑む。
「うん」
一也も笑顔で頷く。
「では、失礼いたします」
樹はKOGAに頭を下げる。
「あぁ、行ってらっしゃい」
KOGAは敬礼する。
――さてと、報告書を仕上げよう。