連続予告殺人事件 前編
「おはようございます。お嬢様」
執事の高橋樹は主人、黒川千花に頭を下げる。
「おはよう」
彼女は多重人格。彼女の中には十人の人格が入っていた。それにより、樹は毎朝、彼女が今、誰なのかを確認している。
「今は、どなたのお嬢様でしょうか?」
「頼流」
どうやら、今朝は彼女の夫、黒川頼流のパートナーの人格らしい。彼女にはそれぞれ人格に合わせて、パートナーが存在する。
「では、朝食にいたしましょう」
樹は朝食を取りに行った。千花はいつも通り、テーブルへ着く。
「おはよう、千花」
すると、隣の席の籟流が笑顔で声をかけて来た。彼は千花の法律婚の相手だ。そして、民間警備会社を経営する社長でもある。
「おはよう」
千花も笑顔で答えた。
「今は、私の千花?」
彼は今、千花が自分のパートナーの千花なのかを確認した。
「もちろん」
彼女は笑顔でそう答えた。すると、後方から声がした。
「おはよう、千花?」
上松一也が起きて来たのだった。彼は千花の事実婚のパートナー。いつもは保護猫のボランティア活動をしている。
「今朝は籟流のなんだ」
千花は少し申し訳なさそうに答える。
「あ。ごめん」
一也は少し困惑しているようだった。
「相変わらず、慣れないね? 君」
すると、そこへ木々戸帝三がやって来た。彼も千花の事実婚のパートナーだ。彼は世界中に展開するホテルグループの社長でもある。
「愛してるよ。レディー」
彼は千花の手のこうにキスをした。
「ああああぁぁぁぁ!」
すると、それを見ていた全員が声を上げた。
「何、勝手にスイッチングしてんの!?」
一也は声を荒げ言う。人格が入れ替わるスイッチングは千花の場合、手の甲へのキスなのだ。
「今日の朝は、俺のだったのに!」
籟流はショックあまり、テーブルに顔を伏せた。
「何だ? 騒がしい」
すると、そこへ土肥信吾が現れた。彼も千花の事実婚のパートナーである。彼は元検事の弁護士であり、大手弁護士事務所のエースでもある。
「そうだ。信吾君のいう通りだぞ」
「お義父さん!」
この大モメの現場に、なんと千花の父、黒川恭介が現れた。彼は財閥の会長をしており、共働きの妻、黒川和咲にも理解があった。妻とは喧嘩をしたことがないというより、彼女が怒っても、好きすぎて笑顔になってしまい、喧嘩が成立しないのだ。
「今日もお義母様は不在ですか?」
古井咲哉が聞く。彼も千花の事実婚のパートナーであり、普段は格闘家をしている。
「気にするな、いつもの事だろう?」
恭介は苦笑する。
「確かにそのようですが」
――娘の結婚式にも来なかった人だし、仕方がないのかもしれませんね。
千花の母は、別の財閥の会長を務める、富豪一族でもあった。そのため、千花が幼い頃から忙しく、学校行事は一回も行ったことがない。もちろん、結婚式にも。
「今日は、頼流様のお嬢様をお呼び下さい」
樹が朝食を運んで来た。
「え? 何で?」
一也が少し、不満そうに言う。
「今日は、警視庁への出勤日です」
「あ、そうか。忘れてた」
一也は樹の言葉を聞いて、思い出した。
「よし! 俺の出番だな」
籟流は千花の手のこうにキスをする。
「あれ?」
どうやら、千花のスイッチングが完了したようだ。
「お嬢様、これを」
樹は千花へ眼鏡を渡す。
「あ、忘れてた。ありがとう」
千花はそれを受け取り、かける。この眼鏡は眠っていた人格に今までの経緯を伝えるためのものである。眼鏡をかけると、脳内へ直接、今までのデータが入って来るのだ。
「なるほど、そういうことか」
千花は一人で納得していた。
「さ、朝食も終わったし、出勤して来ます!」
千花は笑顔で敬礼をする。
「いってらっしゃい」
皆は笑顔で彼女を送り出した。
警視庁
「おはようございます」
千花がいつもの部屋に入って行く。ここは警視庁捜査一課の部屋だ。
「おはよう」
捜査一課課長の佐藤宗一郎がいた。彼は彼女の挨拶に微笑む。
「おはよう」
人工知能が立体映像で姿を現した。彼はKOGA。千花の相棒である。彼は実体のない人工知能である。それにより、視界は防犯、監視カメラの映像が頼りである。その映像がないと、機能不全を起こし、フリーズしてしまうのだ。
「もうすぐ、捜査会議が始まるぞ」
課長の佐藤は頬杖をつき、知らせる。
「え? 何かあったんですか?」
千花はきょとんとする。
「予告殺人があったんだ」
佐藤は頬杖で傾いた虹彩を光らせる。
「分かりました。すぐに会議室へ向かいます」
「あぁ、頼む」
捜査会議。
「今から、捜査会議を始める」
刑事部長の佐久間龍爾がそう宣言する。
「まず、報告から」
刑事部参事官のSEKIが話を進める。彼は人工知能である。KOGAと同様、実体のない人工知能である。
「はい」
刑事、岩田一治が席を立ち、報告する。
「今回、殺害されたのは、林田財閥の幹部、伊藤英一氏です」
「次!」
「はい」
今度は別の刑事、AZUMAが答える。彼は岩田の相棒であり、実体のある人工知能である。実体があるので、視界ゼロの機能不全は起こさないが、物理的攻撃を受けるリスクがある。
「殺害方法は撲殺です。犯人は被害者をロープで縛り、死ぬまで殴っています」
「次!」
「はい」
今度は刑事、久保田が答える。
「殺害時刻は、昨日の23時から、未明にかけてです。殺害現場は、死体遺棄現場とは別と考えています。以上です」
「分かった」
――なるほど。撲殺かぁ。
千花は頬杖をしていた。
「以上、散会!」
刑事たちはそれぞれ、捜査に向かった。
「どこから、聞き込みに行く?」
KOGAは千花に聞く。
「うーん。どうしようかな」
千花が悩んでいると、目の前に黒塗りの車が止まった。
「お嬢様、次の予定が入っております」
中から、執事の樹が下りて来た。
「え!? 今日? 今日は警視庁じゃ」
千花は驚いているようだ。
「今日は、華道の教室がある日でございます」
「あ」
どうやら、樹の説明に千花は思い出したようだった。
「では、お嬢様」
「スイッチング出来るかな?」
「へ?」
隣で聞いていたKOGAがきょとんと首を傾げる。
「大丈夫でございます。七瀬青葉様も会場に来ております」
「あぁ! でも、嫌だぁ! 捜査がしたいぃ!」
千花は渋る。
「ダメでございます。お嬢様」
「どうしてよ!」
「お嬢様は華道の師範代でございます。そして、生徒の皆さんもお待ちです」
「ぷー」
千花は子供っぽく、頬を膨らました。
「では、行きましょう」
「ちぇえ」
千花は渋々従った。
「え!? え!? ちょ!?」
隣でそれを見ていたKOGAは現状把握をして、途端に焦り出した。しかし、時既に遅し。黒塗りの車は走り去っていった。
「何で、俺一人ぃぃぃ!?」
華道教室会場。
「着物なんて、嫌だ」
千花は文句を言う。
「お嬢様!」
それを聞いた樹は千花を叱る。同じ歳だが、全然違う。樹はしっかり者だ。
「えー」
「おう! いたいた。ここだったか」
一人の少年が現れた。彼は七瀬青葉。千花の恋人である。しかし、まだ高校生である。将来の夢は警察官という千花と同じ職種を希望している。
「早く、スイッチングを」
樹は華道教室に間に合うように、ものごとをサクサクと進めようとする。
「OK」
青葉はそう言うと、千花の手のこうにキスをした。
「あら?」
「お嬢様、眼鏡のデータを更新して下さい」
「そうね」
ピ。更新完了。電子音と共に眼鏡のレンズにその文字が浮かび上がった。
「私は、捜査をしていたのですね」
「その様でございます。お嬢様」
「ま、俺がいるから、安心しろよ?」
青葉は千花の肩に手を回す。
「え?」
千花は青葉の顔を見る。
「華道教室が終わるまで、誰にもスイッチング出来ないように見ててやるよ」
青葉は爽やかな笑顔でそう言った。
「ありがとう」
千花は優しく微笑んだ。
「おう! 任せな!」
青葉は照れながら、右手でブイサインをした。
華道教室中
「お嬢様が不憫です」
「どうしたんだよ、急に」
樹の突然の言葉に青葉は驚いた。
「前から、思っていたことです」
「そうなんだ。初耳。で? 何だよ」
青葉は腕組みをしながら、彼、樹の方を向いた。
「お嬢様は解離性同一性障害、つまり多重人格です」
「おう。知ってるよ」
「しかも、十人」
「あぁ」
青葉は目を合わせずに話す樹をじっと見て、話を聞いていた。
「原因かどうかは分かりませんが、あのことが余程、傷ついているということでしょうか」
「何だよ。もったいぶんな」
青葉は話を先へ進めようとする。
「お嬢様は、自分の母親の笑顔を見たことがないのです」
「へぇ」
「驚かないので?」
樹はこの話の中で初めて青葉を見た。
「まぁな。俺は母親に会ったこともないからな」
「そうだったのですね」
「だからといって、あいつの症状に偏見はねぇよ」
青葉は笑顔で答えてみせる。
「ありがとうございます」
「で、続き」
「お嬢様は、母親に愛されていないと思っているのでしょう」
「そうなのか?」
「えぇ。奥様は彼女の学校行事に一度も出席したことがないのです。彼女の結婚式にも、参加出来ない程、多忙ですから」
樹は悲しそうに言う。
「へぇ。財閥のトップも大変だね」
「お疲れ様でした」
「では、ごきげんよう」
「どうやら、終わった様だな」
青葉は彼女らの方を見て言う。
「そのようですね」
「じゃ、俺もそろそろ」
青葉は寄りかかっていた壁から、身を離す。
「どちらへ?」
樹は尋ねる。
「図書館でテスト勉強だよ」
青葉は手を振り、去って行った。
「樹、青葉君は?」
ちょうどそこへ華道の師範代の千花がやって来た。
「図書館へ向かわれました。テスト勉強だそうで」
「そうだったの」
「華道の師範代の仕事も終わりましたので、刑事の仕事に戻りましょう」
「そうですわね。ただ、最後に彼、青葉君に会いたかったですわ」
千花は残念そうにしていた。
「大丈夫です。また、会えます。安心して下さい」
樹は微笑んだ。
「警視庁へ向かうのかしら?」
師範代の千花は話を変えた。
「まず、頼流様のところへ。スイッチングをしましょう」
樹が誘導する。
「それもそうね」
二人は彼のもとへ向かった。
警備会社社長室
「失礼します。千花様と執事の方がお見えです」
「分かった。通してくれ」
籟流は秘書の報告に答えた。
「失礼します」
樹と千花が入って来た。
「おぉ、どうしたんだ? 会社まで来るとは」
籟流は微笑みかける。
「スイッチングをお願いします」
樹は淡々と答える。
「今は?」
「青葉様のです」
「分かった」
籟流は千花の手の甲にキスをする。
「あれ?」
スイッチングが完了した。そして、千花は特殊眼鏡のボタンを押す。すると、脳内に今までの人格で体験した記憶(=データ)が入って来た。
「成程ね」
刑事の千花は頷く。
「お嬢様、お車へ。警視庁まで、お送り致します」
樹は車まで案内しようとする。が、千花は断る。
「大丈夫よ。聞き込みをしながら、向かうから」
「分かりました。失礼致します」
樹は頭を下げてから、部屋を出て行った。
「じゃ、行くね?」
千花は笑顔で籟流に手を振る。
「今、捜査している事件って、昨夜、起きた事件だろう?」
籟流が引き留める。
「知ってるの?」
千花は振り返る。
「朝、ニュースでやってたからな」
「そっか。わざわざその話題を出すからには、何か、情報でも?」
「いい返答だ。さっき、私の警備会社に警備の依頼が来たんだ」
「もしかして、第二の事件?」
「早く、警視庁へ戻った方がいい」
「ありがとう。それじゃ」
千花は手を振り、部屋から出て行った。
――まさか、第二の予告があったなんて!
警視庁
「千花! どこ行ってたんだよぉ!」
KOGAは立体映像で頬を膨らます。
「ごめん! 野暮用!」
千花は手を合わせて謝った。
「ったくぅ。おかげで地域部の駐在に手伝ってもらっちゃったよ」
「地域部に!?」
千花は驚いて、顔を上げた。
「だって、刑事は二人一組での行動だろう?」
「本当に申し訳ない」
千花は再び、頭を下げる。
「その駐在さんは誰と誰?」
「山本さんとHOSHINOさんだよ、もう!」
「分かった、あとで謝っとく!」
「よろしくどうぞ」
KOGAは少し下を見て、丁寧に言った。
「ところで、第二の殺人予告があったんだよね?」
千花が話を変える。
「何だ、もう知っていたのか。そうだよ」
KOGAは認める。
「会議は?」
「もう、終わった」
「え!?」
千花は焦る。
「仕方ないよ。野暮用だろう?」
KOGAは千花に理解を示していた。
「うん」
千花はそう言い、俯く。
「今日は、誰だったの?」
KOGAは興味本位で聞いてみる。
「華道の師範代」
「今日、華道だったの!? 華道!?」
KOGAには意外だったようで、とても驚いていた。
「あれ? 知らなかったっけ?」
千花はきょとんとする。
「カジノ女王と格闘家ぐらいしか知らないかも。つまり」
「一応、十人」
「そうか。覚えとく」
KOGAは少し、困惑して、言った。
「よろしくどうぞ」
千花は頭を下げた。
「あ、そうだ。第二の殺人予告の対象者の警護に俺たちともう一組選ばれたよ」
KOGAは突然、話題を変えた。
「もう一組って?」
「岩田とAZUMAの二人だよ」
「そうなんだ」
二人が話していると、後方から、声が聞こえた。
「おい! 行くぞ!」
岩田だった。遠くから、呼んでいる。
「はい!」
KOGAは手を軽く上げ、合図した。
「行こう」
「はい」
第二の予告殺人の対象者のいる会社のオフィス
「今回、あなたを警護することとなった岩田と申します。今回は四人体制で警護に当たらせてもらいます」
「そうだったのか。助かるよ。あと、こちらはこちらで対策を打ってあるよ」
今回の警護対象、中村順次は椅子に座って、そう言う。
「と、申しますと?」
岩田は聞き返す。すると、中村は答える。
「彼だ」
岩田たちは手の指し示す方を見る。すると、出入り口であるドアが開いた。そこからは、頼流が入って来た。
「あれ?」
千花は小さく首を傾げる。
「あ、あれ? あの人は……」
KOGAも気付く。
「どなたです?」
岩田は中村に聞く。
「今回、民間の警備会社へ警護の依頼をしていたんだ」
「初めまして」
籟流は笑顔を向けると、彼、岩田と握手をしようと手を差し出す。
「こちらこそ、初めまして」
岩田は握手をしながら、軽く頭を下げる。
「もしかして、……」
千花は言葉に詰まる。
「彼は、依頼した警備会社の社長でして」
「え!? 社長直々に?」
AZUMAは驚く。
「私は、警視庁警備部警護課のSPをしていた時期がありまして」
籟流は笑顔で答える。
「元SP!?」
AZUMAはまだ、驚いていた。
「ちょっと」
千花は籟流に近づき、小声でささやく。
「どうした?」
籟流は彼女に歩み寄る。
「部下の人に頼んだのだとばかり思ってたよ。何で?」
「君と一緒に仕事が出来るんじゃないかって思って」
彼は笑顔を見せる。
「まさか、そういう理由だとは……」
千花は少し困惑した。
「あの、さっきから何の?」
岩田は、ひそひそと会話をしている二人に気が付いた。
「これは失礼。彼女は私の妻でして」
籟流は笑顔で答える。
「え!?」
「え!?」
千花と岩田は二人同時に驚く。
「妻だったの?」
KOGAは思い出したような顔だったのに、まだ、思い出していなかったようだ。
「ちょっと、何で言うの!?」
一方、千花は怒る。
「何を心配する、法律婚だろう?」
籟流は満足そうに言う。
「そりゃそうだけど」
千花は頬を膨らます。
「君のパートナーだったのか。警察官だとは頼もしい」
中村が会話に入って来る。彼は表情が明るい。
「では、早速、警護にあたらせてもらいます」
岩田は会話の軌道修正をした。
「よろしくどうぞ」
中村は笑顔で言った。
「で、ちなみになんですが、そちらは一人体制ですか?」
岩田は少し、敵意を見せて、頼流に話しかける。
「えぇ。最強なのが一名ということにしといて下さい」
「すごい自信……」
AZUMAは困惑した。
「私が一人体制でよろしくと言ったんだ。警察の方から警護が数人来ると連絡があったから、急遽ね。警察官の方には悪いが民間にも警護をね」
中村が説明した。
「分かりました。それでは、私たち警察は部屋の外で警護にあたります」
「よろしくどうぞ」
中村は再び、そう言う。
「君は中にいるのかな? 黒川さん」
中村は籟流に笑顔を向ける。
「いいえ。外にいようと思います。業務の邪魔にならないようにと」
「そうか。あとは頼む」
「かしこまりました」
籟流と刑事たちは部屋を出た。そして、ドアが閉まった。
「まさか、あの民間社長がお前のご主人だったとはな」
岩田は呟くように言う。
「何か?」
千花は少し、不機嫌そうに聞き返す。
「やいてるだけですよ。岩田さん、最近、娘から嫌われているらしいですから。ま、父親の通る道ですよね」
AZUMAが暴露する。それを聞いて、岩田は焦る。
「何で知ってるんだ!」
「え? みんな知ってますよ」
「何!?」
彼は困惑した。
「にぎやかだね」
籟流は笑顔で和んでいた。
「失礼」
岩田はバツが悪そうに一言そう言った。
「対象者の今後のご予定とか、聞いていますか?」
岩田は話を変える。
「えぇ。確か、取引先での会議への参加ぐらいでしょうか」
籟流はそう答える。
「そうですか。助かります」
岩田はそれを聞くと、礼儀正しく言った。
一時間後
「静かですね」
AZUMAがぽつりと呟く。
「確かに」
岩田は彼に同意する。
「まさか、中で!?」
「確認するぞ!」
岩田はドアを開ける。すると。
「どうしたというんだ? いきなり。何かあったのかい?」
中村は何事もなく、仕事をしていた。
「あ、いえ。あまりにも静かだったもので」
岩田は少し、気まずくする。
「大丈夫だよ。死んでない」
「失礼しました」
岩田は頭を下げた。すると、中村は彼らに依頼する。
「ちょうど、良かった。今から、取引先へ出かけるところだよ。警護してもらえるかな?」
「はい。もちろんです。AZUMA、行くぞ」
「はい」
地下駐車場
「車両の確認をするので、少々」
「分かった」
岩田の説明に中村はしばし、待つ。
「AZUMAどうだ?」
岩田はAZUMAに問う。
「もしかして、これって!」
彼は車体の裏に爆発物を見つけていた。
「車両からはなれるぞ!」
岩田のその声に、皆は走る。すると、後方から巨大な爆発音が響いて来た。
後ろを走っていたAZUMAは巻き込まれて、意識不明。実体ありの人工知能(=アンドロイド)ということもあり、物理的ダメージを受けるのだ。一方、岩田は頭部からの流血で意識がもうろうとしていた。
「先、へ、行け……」
岩田は言葉を振り絞る。
「急ぐぞ」
「はい」
籟流の指示に残りの者も地下駐車場を走る。すると、目の前に複数の黒い影が。
――誰だ?
目の前のそれは、黒装束のフードに白い面をつけていた。
――まさか!
「やっちまえ!」
その声と共に、その人物たちは金属バットで襲って来た。
「先に行け!」
籟流が叫ぶ。が、千花はKOGAに中村を任せて、一緒に応戦した。しかし、多勢に無勢、彼らは全身打撲で意識不明の重体になった。
一方、立体映像の人工知能のKOGAは中村を連れて逃げるが、防犯カメラを全部壊され、視界ゼロになり、機能不全でフリーズした。とうとう、中村は犯人に誘拐されてしまった。