戦闘の行く末
土下座を続け、奴らの笑い声を受け続ける。
つくづく上手くいかない、少し頑張ってみたら、この有様だ。
やはり自分はヒーローなんてものには縁が無いのだろう。
少なくとも追いつめられて、土下座するヒーローなんて聞いたこともない。
奴らは一しきり笑い終わった後、ゆっくりと近づいてくる。
今度こそ止めを差すつもりだろう、奴らの勝利は確定的。
ここからの逆転などあり得ない、後は棍棒でも振り下ろせば、それでお終いだ。
ニタニタとした笑いを浮かべ、棍棒を振り上げた。
「・・・それを待っていた」
棍棒持ちの足が止まり、大量の血を吐き出して崩れ落ちる。
その後ろには、真っ赤に染まった包丁を手にした彼女が立っていた。
そう、最初は戦いに怯えていた彼女だが、
実は俺が奴らに痛めつけられているとき、何とか助けようと近づいて来てくれていたのだ。
俺は彼女が奴らの視界から外れるように、扉の方へ少しずつ移動し、奴らの視線を誘導したうえで、時間稼ぎをしていたという訳だ。
勇気のある女性だ、ヒーローどうこう言うなら、彼女の方がよっぽど相応しいだろう。
だがここで油断はできない。
俺は最後の力を振り絞って、最後に残った素手の奴にしがみつく。
「グァア!」
彼女は意外(と言っては失礼か)に素早い動きで、そのまま包丁を突き刺し、最後の怪物も倒してくれた。
「ありがとう、お陰で命拾いをしました」
「そんな、こちらこそ遅くなってしまって、すいません」
彼女に肩を貸してもらい、ようやく外へと出ることが出来た。
何とか助かるかもしれない、そう思い息を吐いたその時
「グゥアアアアアアアアアア!!!」。
店内から凄まじいうなり声が響き渡った。
心臓を掴まれたかのような息苦しさと、寒気が全身を駆け巡る。
これはやばい。生物としての格が格段に上の何かが、間違いなくいる。
全身に鳥肌が立ち、震えてしまう。
「すぐに逃げよう、ここにいちゃ駄目だ」
「なら、近くに私のマンションがあります」
「いやいや、いくら何で・・・」
「今は!・・・今はそういう時では無いと思います。
優先順位を間違えては駄目なんです。
こうやって言い合っているこの時間が、本当に危険なんです。」
参った。何がといえば、自分の駄目さ加減にだ。
生きるか死ぬかという状況で、日常的な当たり前の考え方にとらわれた自分と、
とっくに覚悟を決めて開き直っている彼女。
どちらが正しいのかは言うまでもない・・・。
「すいませんが、よろしくお願いします。」
彼女はこくりと頷いてくれて、その後俺は黙って彼女に支えられながら歩くのだった。