選択の結果
ちょっとした検討の後、俺が選んだ選択肢は、
1.出口へ向かって逃げる
「こっちへ!」
俺は悲鳴に怯える彼女の手を掴み、出口へと引っ張っていく。
ただし・・・逃げるのは通常の顧客用の出入り口ではなく、従業員用の専用出入り口だ。
これが正しい選択かは分からない。
当然こんな所に入ったことは無いし、店の外へどうつながっているかも知らない。
ただ、大量の悲鳴が聞こえる方向よりは、マシだと思うしかなかった。
バン!と体をぶつけるようにして開けた、従業員用の専用ドア、その先には・・・、良い事と悪い事があった。
良い事は、丁度精肉作業をする場所だったようで、手ごろな包丁が幾つか並んでいたことだ。
この状況で手ぶらはまずかったし、比較的殺傷能力の高い武器になる包丁はかなり助かる。
更に、どうも出口と隣接していた様で、精肉作業場所の奥には、大きな扉が付いていた。
悪い事は・・・男性の従業員に笑いながら被りについている、緑色の肌をした例の怪物たちが、3匹もいたことだった。
出来るだけ怪物たちから距離を取りながら、包丁の方へと走る。
「一緒に戦えるか?」
包丁を3つ手に取り彼女に問いかけるが、ガクガクと体中を震わせながら、彼女は首を横に振った。
「・・・分かった。だがとにかく持つだけは持っておいた方がいい」
無理やり包丁を彼女にも握らせ、自分自身は両手に包丁を握りながら、怪物たちの方を見る。
奴らは、新しい獲物を歓迎するように、奥の扉を背にしてゆっくりと立ち上がる。
改めて奴らを見てみると全員が同じ装備という訳ではなく、素手の奴、棍棒を持っている奴、ボロボロの槍を持っている奴と、バリエーションに富んでいるようだ。
奴らを迂回して、奥の扉へ進むのは不可能だし、時間かければ、不利になるのはこちらだ。
やるしかない。
ただ、武器を持っている奴、特にあの槍持ちが厄介だ。
あれをくらってしまっては、一撃でやられてしまうだろう。
槍持ちが中央のやや奥に、武器なしと棍棒が左右に立っており、一番近いのは棍棒になる。
3対1、ヒーロー達なら苦も無く倒せるだろうシーンではあるが、現実では凄まじく厄介だ。
槍を倒そうとすれば左右から襲い掛かられ、左右の敵に気を取られれば、槍で一撃で殺される。
(一か八か・・・やってみるか)
右手に握っていた包丁の柄を、親指と人差し指で摘まむ様に持ち直す。
そのままおおきく振りかぶり、ピッチャーをイメージしながら、棍棒持ちに思いっきり投げつけた。
(とにかく当たればよし!刺さらなくても仕方がない)
そう思いながら投げた包丁は、丁度良い形に棍棒持ちの胸に刺さってくれた!
もう10回やっても成功しないだろう、強運に感謝しながら棍棒持ちの横をすり抜け、槍持ちに走り寄る。
奴は慌てて槍先をこちらに向ける。
こうなればもう行くしかない。槍を避けられれば俺の勝ち、出来なければ死ぬだけだ。
槍の避け方など分からない、とにかく突いてくると決め打ちし、奴が動いた瞬間左へと身を傾ける。
・・・良し!これまた幸運にも読み通りの動きをしてくれた。
そのまま体当たりの様に、包丁を奴の腹部に突き刺す。
この距離なら槍は怖くない。そのまま包丁を引き抜き、今度は首筋に包丁を突き刺すと、
血を吹き出しながら奴は倒れていった。
(よし、いけるぞ!)
今度は素手の奴の方に、身を向ける。
すると。『ゴン!』という音と共に、背中に激しい痛みが襲い、包丁を手放してしまう。
痛みに気が狂いそうだったが、地面に倒れこみながらも、何とか視線だけを向けると、
棍棒を持った怪物が、忌々しそうにこちらを睨みつけていた。
(畜生、やっていなかったか)
見ると、胸部に包丁は未だ刺さっているが、出血量はそこまで多くない。
恐らく肋骨で止まっており、大きなダメージは無いのだろう。
幾ら幸運が重なったとはいえ、俺みたいな素人が投げたもので、致命傷など追わせられる訳がなかったのだ。
完全に失敗した、痛みが強く、まだ起き上がることも出来ない。
おまけに、無傷の素手の奴も残っており、正直絶望しかない状態だ。
何とか無様に後ずさりして、少しでも距離を稼ごうと試みるが、あっという間に追いつかれる。
だが何故か奴らは武器を使おうとせず、交互に俺を蹴り飛ばして来るのだった。
交互に来る痛みに何とか耐えながら、奴らの顔を見てみると、ニタニタと奴らは笑っていた。
(玩具にされている・・・もう敵とすら見られていない)
怒りでぶち切れそうになるが、どうにもならないこともある。
必死で防御をし、少しでもダメージを減らそうとするが、儚い抵抗でしかなかった。
逆転は出来ないのだろうか。
俺は半ば転がるようにしながら、少しずつ出口の方へ近づいていく。
そして・・・
「お願いします!どうか命だけは助けてください!」
無様に土下座をし、奴らに必死に命乞いをする。
それを見たやつらは、言葉も通じてないだろうに、実に楽し気に大きな笑い声を上げるのであった。