第七話 忌み子
「教えてあげる。私が『忌み子』と呼ばれた理由。」
そう言って彼女は静かに語り出す。
自身の過去を。
「ヴァレンタイン家がアストレア家と同じく騎士の家系なのは知ってるわよね。」
「ああ。」
「ヴァレンタイン家には他の騎士の家系の中でもかなり特殊なの。」
「それは?」
「ヴァレンタイン家に生まれた子は皆んなある剣を抜く事が出来る。それが『聖剣』。『聖剣』の大半は代々ヴァレンタイン家が大切に保管している。『聖剣』に選ばれた者だけがその剣を抜く事が許される。当然私も抜けると思っていた。でも私はどの『聖剣』にも選ばれなかった。それでも私は必死に剣の鍛錬をしたの。努力すれば必ず『聖剣』が自分を選んでくれると信じて。」
その悔しさが今の彼女の実力を生んだのか。
辛い思いをしただろうに何処となく俺と似ている…
「ある日私は、屋敷にある財宝庫に忍び込んだ。そこである二本の剣を見つけた。その剣は私が近づくと美しく光ったの、私はやっと『聖剣』に選ばれたと思って嬉しくて手に取ったの。姉様と髪の毛が違うのは剣の影響。私は嬉しくなって直ぐにお父様やお母様に報告しに行ったの。」
「……」
「報告に行くと突然お父様が血相を変えて私を殴り飛ばして言ったの、『その剣に選ばれたのがどうゆう意味か分かっているのか!!』ってでもその後の発言で私は驚いた。『それは聖剣ではない!それはーー』魔剣だって言われた。ヴァレンタイン家の子が『聖剣』ではなく『魔剣』に選ばれた前例はなかった故に私は呪われた忌み子として家族に邪険にされた。しかも魔剣を所持して間もない頃、魔剣から流れる魔力の制御が出来きなかった。今はもう問題ないけど、その時は絶望していた。」
『聖剣』に選ばれず『魔剣』に選ばれた末路か、、、
「もう生きる希望を失っていた。何故私はこの『魔剣』に選ばれたんだろうって何度も死のうと思った。でも家族の中で唯一姉様達が私に優しくしてくれた。それが嬉しかった本当に救われた。と同時に姉様達の様な最高の騎士に勝ちたい。そして私はこの『魔剣』で剣舞聖祭で頂点に立ちたい。そして私の努力を私を認めなかった人達に認めさせる!その為だけに私は誰よりも強くなろうと努力した。そしてこの学院で首席を手に入れた。」
「ーーでも、首席を取れた程度じゃ満足出来ない。この学院は騎士育成の最高峰。私より強い剣士は姉様意外に何人も居る。だから私はこんな所で負けていられない。貴方にも勝って、もう一人の姉様。この学院の姉様に次ぐ『三剣姫』をも超えて剣舞聖祭の決勝に出場して優勝する。例え私一人でも。」
「一人で何でも出来ると思っているのか?」
「ええ。今までそうやって生きてきた。だから出来る。誰かの力を借りなくても。」
そうか彼女は俺が思ったよりも随分強い女の子らしい…が覚悟だけじゃどうにもならない事もある。
「無理だ。一人じゃどうにもならない事がある。」
「そう。貴方が此処まで話の通じない男なんて思わなかった。貴方なら理解してくれると思ったんだけど。」
「残念。俺はそこまで頭のいい人間じゃないんだよ。」
「最後にこの『魔剣』の事を教えてあげる。」
そうするとエリスは赤く染まった剣と金色の刀身の剣を掲げた。
「魔剣:レーヴァテイン…あらゆる物を焼き斬る事が出来る。傷を負った場所が燃えてしまう。かすり傷でも致命傷になる。
魔剣:ライオット剣に宿った雷が敵を穿つ。この剣を持つ事で雷魔法による攻撃の耐性が上がる。
この2本の『魔剣』が有れば私は絶対に負けない。貴方も早く愛用している武器を出したら?そんなヒョロイ剣じゃ死ぬわよ。」
エリスは片方の剣を俺の方に向ける。
「あぁ。言われなくても準備するさ。」
「…?何処にあるのよ?」
「今、準備する。」
「躊躇してるのかしら?それとも私の事舐めてるの?」
エリスは少し苛立った様子で此方を睨む。
彼女は本気で俺と戦うつもりなんだ惜しむ必要は無い。
「ーー【現出せよ】ーー」
俺がそう唱えると小さな円状の異空間から一本の漆黒の禍々しい剣が姿を現す。
「そんな剣見たことない…」
驚くのも当然だろう、この剣は世界でたった一つの剣。
しかし、その中で2人落ち着きがある人がいた。
「学園長、やはりあの剣は。」
「ふふふ。あぁ。あの男だ。」
二人は互いに顔を見合わせて意味深な会話をしている。
「喜ぶがいいエリス・ヴァレンタイン。お前は俺がこの剣を抜くべき相手に選ばれた。」
「……?」
「君はこの剣を抜くに値する相手と認めよう。」
そう本当に誇るべきだ、この剣を抜いたのは片指で数え切れる程度。
決して情けで抜いた訳では無い…最上の敬意を表した相手には最上の敬意を持って対応しなければならない。
「そ、その剣の名前を聞いてもいいかしら…」
「あぁ。この剣の名前はーーーー」