第六話 開戦
ーーーーーーガキンッーーーーー
金属音が鳴り響く。
「ふっ、所詮ただの剣士ね。やっぱり私の思い違いだっーーー」
俺はエリスの声を遮り声を掛ける。
「勝手に終わらせてくれるなよ。」
「……ッ!?嘘!?」
エリスは少し驚きつつ直ぐに離れて体制を整える。
いい判断力だった。
「驚いた。今の一撃、決めに行ったのに。」
エリスが、剣の先を俺に向けながら喋る。
「俺も驚いた。ここまで速いなんて。ただ者では無いと思ったけどここまでなんて」
この時代にも少しマシな者はいるようで安心したぞ。
「たかが一撃防いだぐらいで油断しないことね。」
そう言ってエリスは再び構えの姿勢を取る。
俺も、構える。
地面を蹴り上げて、エリスが動き出したのと同時に俺も地面を蹴り上げる。
ーーーーーーガキンッーーーーーー
互いの剣がぶつかり金属の音が鳴り響く。
そして一撃で止まらずにエリスが剣撃を何度も繰り出す。
俺もそれを防ぎ続ける。
剣と魔力の衝突が、訓練場全体を包む。俺はエリスの実力に調整している。
時に防ぎ時に攻撃を繰り返してエリスの実力を測る…と言っても恐らく彼女もこの攻防は牽制だと思っていると思うが。
エリスが俺の一撃を剣で受け流す、そして手の平に魔力を込めて突き出す。
「終わりよ!ーー【火炎弾】ーー」
そう唱えた瞬間に彼女の手の平から赤い円状の炎の玉が放たれる。
俺は咄嗟に体制を立て直して手を突き上げる。
「ーー【防御盾】ーー】
「ーーッ!?」
すると目の前に、盾が出現し火炎玉を防いだ。
…これが火炎弾?やはり思った通り魔法の能力が圧倒的に低すぎる。
俺が目を離したたった一瞬で彼女は目の前に現れた。
「取った!」
そう言って長剣を横に薙ぎ払う。
俺はその一閃を身を捻り回避する。
俺は、地面に着地すると距離を取る。
俺の思った通り彼女は剣の才と魔法の才が、一年生の中でズバ抜けている。
さすが首席。
だが、まだ足りない…これじゃ戦力になりそうも無い。
「今のも避けるなんて。貴方本当に何者?」
「さぁね。それを明かす義理はない。」
少し互いに様子を見合い、再び斬り合う
斬り合う度に。
彼女の努力の布石が、誰よりも強さを追い求め鍛錬して来た事が。
彼女は、斬り合う中でずっと不可解な気分に苛まれていた。
(何よコイツ。私がいくら速度を上げても必ず追いついて来る。)
彼女の手の内が全て見透かされている様な感覚。
本気を出していないとはいえ、彼女はあの時の一撃で決めたつもりだった。
「まさかここまでやるとは思わなかった。」
「俺も君がここまで強いのは想定外だった。」
エリスが手を挙げる。すると空中に魔法陣が出現する。
「喰らいなさい!ーー【炎の弓雨】ーー」
魔法陣から無数の炎の弓が出現し、豪雨の様に俺に向かって放たれ降り注ぐ。
俺も両手を前に出して唱える。
「ーー【氷盾】ーー」
すると何もない地面から氷の壁が現れて炎弓の雨を防ぐ。
氷の壁で防いでる内に俺は詠唱を終える。
そして氷の壁が砕けた瞬間に唱える。
「ーー【風刃】ーー」
その瞬間ーー透明の風の刃がエリスに襲いかかる。
「ーークッ!」
エリスが咄嗟に剣でウィンドを防いだが反動を受けて後ずさる。
「普通の風刃より強力!?やっぱり魔眼でみた通りだわ。」
魔眼…ああ、彼女の右目の事か。
あの眼帯は…
「その右目の眼帯は魔眼の暴走を防ぐ為みたいだな。」
「そうーーねッ!!」
ーーーーーーガキンーーーーーー
言葉の途中で繰り出された剣撃を余裕で受ける。
そして斬撃を受け流し体制を崩したエリスの腹を蹴り上げる。
だが、その瞬間エリスは腹に剣を添えて衝撃を柔らげた。
ドスッ!
バキン!
エリスの持っていた剣が折れる。
「…ヴッ!」
エリスが苦しそうな声を上げながら少し体を浮かせて後ろに飛ばされる。
「…やっぱり、一筋縄では行かないわね。」
「君は本気を出していないじゃないか。」
「そうね。そして分かった事が一つ。」
「なんだ?」
「本気でやらなければ勝てないって事が。貴方への敬意を表し本気を出して上げる。」
そう言って彼女は、両手を広げる。
「ついにお披露目か。『雷火姫』が。」
イザエラに続いて隣に居た生徒が喋る。
「彼は大丈夫でしょうか?流石に無事では済まないかもしれません。」
「心配するな。私が知っている奴はエリス・ヴァレンタインに遅れを取るような男ではない。」
そして目を閉じて、こう言い放つ。
「ーー【現出せよ】ーー」
エリスがそう呟く。
空気が騒めく…研ぎ澄まされた魔力が彼女を覆う。
すると片方から激しい火柱が現れ、もう片方に激しい豪雷が現れる。
同時に激しい魔力の風圧が訓練場を包み込む。
やがて火柱と豪雷が収まると、エリスの手には先程までなかった筈の剣が現れる。
片方は刀身が赤く染まり炎を纏う剣。
もう片方は刀身が金色に輝き凄まじい電撃を纏う剣。
俺はずっと気になってたことを聞いた。
「イザエラ先生から聞いたんだが、何故君はヴァレンタイン家の中では忌み子と呼ばれているんだ?」
「教えて上げる。私が『忌み子』と呼ばれている理由。」
そう言って彼女は静かに語り始めた。