第一話 追放
それは神話の時代。
何年、何百、何千の時を超えて語り継がれた。
ある男の物語。
その男は勇者が倒す筈だった魔神王を倒し世界を救い。
『英雄』と呼ばれた男が居た。
剣の腕は凄まじく全てを斬るその実力から『剣聖』をも超える逸材だといわれた。
数々の修羅場を潜り、数多の強敵と戦い、幾たびの戦場を己の剣と魔法だけで突き進んだ。
彼はまた魔法の才にも長けていた。世界を震わせる程の魔力量。洗練された魔法。
彼がある剣を握れば世界が揺れ、剣を振れば空が割れ大地が裂けた。そして無限の剣を保持し様々な剣や剣魔術を使いこなしその力は世界中の種族にまで轟いた。
旅の終着点、魔神王との最終決戦にて、魔神王を打ち倒し世界を平和へと導いた事から英雄とまで称された。
たが、彼は忽然と姿を消したのであった。
とここまでが、語り継がれた神話。
しかし、彼らは知らない。
この神話の本当の結末を。
◆
あぁ…分かっていた…分かっていたのだ…
分かっていながらも、俺は信じ続けた…
しかし、その結果がこれだ…己の信念を夢を信じて突き進んだ…その先に得たのは絶望だけだった。
男はふと辺りを見渡す。
そこには何も無い。
元よりあった街も国も此処には無い。
あるのは、幾多の剣が突き刺さった寂しい荒野。
その景色に、悲しみ、怒り、寂しさを覚えていた…だが男はその全ての感情を殺したった一つの感情だけが体を支配していた。
それを思い出した男は、再び立ち上がり歩き出す。
無限に続く剣の突き刺さった荒野を何処に居るかも分からぬそれを探して歩き続ける。
彷徨い続けた…だが…限界はとうに来ていた。
酷使した足は腐敗し、腕の感覚はとうに消え失せ、そしてその場に崩れ落ちる。
男はそれでも、必死に体を引きずりながら進み続ける。
が、数時間後には視界が狭まり意識が薄れていく…これが俺の定めなら受け入れよう…そう思った次の瞬間ーー目の前には黒い漆黒に包まれた球体が姿を現した。
『本当にこのまま死んでいいのかい?』
ふと、頭の中に女性の声が響き渡る。
『哀れだねぇ”英雄”と呼ばれた青年はたった一人、寂しく誰からも看取られないまま生を終了する。実に哀れだよ。』
そう言って頭に鳴り響く女は馬鹿にする発言をするが嘲笑う様な態度は感じず、どこか悲しそうにさえ感じた。
『もう一度聞こうかい?君は本当にこのまま死んでいいのかい?』
いい筈が無い…まだ目的を果たしていない…俺を利用した挙句、俺を裏切り俺の大切なものを全て奪った憎き敵を殺さないまま死ねる訳がない。
『君ならそう言うと思ったよ。だから私と契約をしないかい?』
契約…?
『ああそうさ!残念ながら君が幾ら探し続けても奴らは現れないよ。次訪れるとしたら…一千年は先かな?』
道理で…世界を何度も往復しても見つからない訳だ…
『そこで私は君を数千年後の世界へと転生させる。』
転生…だと?
そんなの出来るわけが無い、神でも無い限り…!?
『ふふっ。察しの通り私は神〜とは少し違うけど同じ様な者さ。』
何故、俺にそんな提案を?
『それは簡単さ…君に私達が成し得なかった神を殺して欲しい。そして君は神を殺したいと思っている…利害は一致してるだろ?だから私達が手を貸す代わりに君が神を殺すんだ。』
少なくとも…恐らく奴と同等の力を持ったお前が出来なかった事が俺に出来るって言うのか?
『ああ。出来るさ!して貰わなくては困る!でなければ私達の費やした努力が全て無に帰る!』
ははっ、無茶苦茶だな。
『そうだとも。私はとても我儘で自分勝手で”傲慢”なのさ。さぁ、どうする?』
答えは、初めから決まっている。
『では頼んだよ。第二の生は多くの仲間と出会い共に戦い助け合う事を忘れない様にしてみると良い。さすればきっと一人では必ず成し遂げられない事が可能になるさ。私も出来る限りサポートするさ。時間だね。それじゃ期待してるよ世界最強の”英雄”レイド・アシュレイン君。』
俺は…次こそ…神を殺す。
幾たびの強敵を殺し、魔神王を倒し世界を救った”英雄”の戦いはここから始まる。
これはーーそんな男の第二の英雄譚である。
□
時は流れーー数千年後。
「レイよ。お前は今日を持ってアストレア家の縁を切り追放する。」
王座に座り偉そうに喋る男はこの世界の俺の父ガリバー・アストレア。
「理由を聞いても?」
「フン、代々我が家には騎士の家系という名を引き継ぐ事が決められる。」
「それは存じております。」
「なのに貴様は、アストレア家の長男だと言うのに剣の才能を持たず、魔法もろくに使えない我が家の恥。」
俺の家系は代々あの騎士の家系であるアストレア家の長男レイ・アストレア。
どうやら、俺の魂はこの男の肉体へと移り変わったらしい。
俺の元の名は、レイド・アシュレイン。
伝説の『英雄』と呼ばれているらしい。
英雄…か。
転生後は少し体が鈍っていたが既にその問題も解消済み。
アストレア家の家系に生まれて来る子は皆剣の才能、魔法の才能がずば抜けているだが、俺には剣の才能は愚か魔法の才能すら無いと思われている。
そんなアストレア家の汚名が流れるのを事前に防ぐ為に俺を追放するらしい。
とは言っても…転生して感じた事はこの世界の魔法や剣術はかなりレベルが下がっているようだ。
アストレア家の書庫の中にあった書物を読んだ所、数千年前では誰もが使えて当たり前の魔法がここでは伝説とされている。
「そして騎士系の後継は次男オリバーにする。異論は認めん」
「は!!フン、無能がとっとと失せろ。」
弟のオリバーが俺を嘲笑い見下した様な口調で俺に言う。
「お待ち下さい!お義父様!追放など余りにも!」
「口答えをするなと言った筈だが?カレーナ?」
白髪の女性が前に出る。
義姉のカレーナ、彼女もまた類稀なる魔法の才を持つ。
「では、我が義弟にもチャンスを!」
「条件次第では聞いてやろう。」
「レイがパラディン魔法騎士学院に入り、剣舞聖祭を優勝したら再び家族として迎え入れると言うのはどうでしょう?」
するとガリバーは大声を上げて笑った。
「ふっはっはっはっ!!面白い!良いだろう!ではレイがパラディン騎士学院に入り剣舞聖祭で優勝し、無事に卒業出来たのならまた家族として認めてやろう!では、明日丁度、試験がある手配をしてやるから受けてみよ。精々己の無能さを理解し絶望するがいい。」
そう言ってガリバーは俺を嘲笑う。
自分の部屋に戻ろうとすると後ろからカレーナが追いかけて来た。
そして俺に頭を下げて来た。
「ごめんなさい、レイ!私があんな無茶を言ったばかりに!」
謝る姉…カレーナの頭に手をポンと置きそのまま撫でる。
「気にするな姉さん。ありがとう」
「決して無理をせずに、嫌になったら直ぐに私の別邸に訪れて!そこでレイを匿うわ!!お母様もレイが大好きなの!」
「頑張って来るさ。俺は本当に優しい姉を持ったな。」
「帰って来たら沢山、甘やかしてあげる!」
「あぁ。」
カレーナは、部屋に戻って行った。
さてと…これで晴れて自由の身だ。
明日から通う魔法騎士学院には数々の強者達がいると聞いた事がある。
とても楽しみです。
俺は予め纏めていた荷物を持ってアストレア邸を後にしようと外へ出るとひとりの凛とした顔をした灰色の長髪のメイドが目の前に立つ。
「行ってしまわれるのですか?」
「うん。世話になったなメイード。」
「いえメイドとして当然の事をしたまでです。もし居場所が無くなったらいつでも手紙を下さいませ。」
「分かった。カレーナの事は頼んだぞ。何かあったら知らせてくれ。」
「かしこまりました。」
メイードは深々と礼をして俺を送り出す。
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今回が初作品という事で頑張ります。