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 億劫だ。


 僕は二人だけしか居ない電車の中でそう思う。勿論、駅員さんは省いて計算している。とどのつまり僕と親友の花森谷地(はなもりやつし)だけが乗員となっている。


「しかしまあ、鈴木さんは何を思ってお前に弁当を渡したのか……やっぱ、分からんなー」


 僕はその一言を聞いた。だが、僕にも真実は分からない。


「何でだろ……」


「何でだろうな」


 その会話が終わった時、いつもの急ブレーキがあった。そう、一つの駅に着いたのである。谷地と恋波幸太郎(れんはこうたろう)(僕)が降りる駅はあと五つ先。


 いつもなら何ら変哲のない駅。だが……そこに居たのだ。カラオケ帰りの一人の女が。


「なっ!」


 思いがけないタイミングで谷地が声を上げた。


「ど、どうしたの?谷地……」


「いや、まさかな……」


 僕の声が聞こえない程に谷地の意識は窓の外にあった。


 そして、扉は開く。


「ご乗車くださーい」


 入ってきたのは老若男女の沢山の人々だった。沢山と言っても精々五、六人。だが田舎ではこれでも驚きなのだ。


 その時入ってきた一人の少女。高校生くらいだろうか?その少女は他校の制服を着ていた。


「よーす!」


 その少女はこちらな声を掛けてきた。詳しく言うと、こちらに居る谷地に声を掛けた。


「よお……驚いた」


「えへへ、そうなんだー」


 その少女の声から嬉しさが嫌と言うほど伝わってくる。


 この子は多分……


「谷地、彼女さん?」


 十中八九そうである。……多分。


「……そう!紹介する、彼女の——」


吉良星未来(きらぼしみらい)でーす!」


 めんどくさそうに語る谷地を退(しりぞ)けて、まさかの彼女さんが乗り出してきた。


「んで、あんたは?」


「ああ、僕は恋歌幸太郎と言います。よろしく」


「ん!よろー!」


 そして会話は終了した。


 僕が黙ってた事もあって谷地は未来さんと喋り出した。


 しかし、こうして見ると本当に恋人同士なんだなーと思う。


 羨ましい……。


「ん?どうかしたか?」


 僕がまじまじと見つめていた事が気づかれたのか、谷地は僕に喋り掛けた。


「いやー本当に恋人同士なんだなって」


「……恋人」


 不思議と二人が赤面になった。


「別に見せびらかしている訳じゃないぞ!見るなぁ!」


 と谷地が言う。


「えへへ、そんなにベストカップルに見えるぅ?」


 と未来さんが言う。


 流石、付き合って一年を超えた恋人同士とは思えない程の熱々カップル。


 少し引く……親友の見てはいけない面を見た気がする……


「ああ、そうだ!聞いてくれよ未来!」


「どかした?」


「それがさ、俺の親友が初めて恋したらしくて……



 その後、僕の恋事情を暴露しまくった谷地。



「というわけだ。未来はどう思う?」


「付き合っちゃえば、弁当渡すなんてそーと好きだよ。もし好きでも無いのに弁当そのまま渡すやつなら、気狂いとしか思えん」


 その言葉を聞き、僕は激怒した。


「ッ!いくら親友の彼女でも……鈴木さんの悪口は許さない!」


「はいはい。そう思うなら好きだと思いなよ。怒るって事は、少しでも鈴木さんはキチガイだと思ってる証拠だよ」


「ッ!」


 確かに……彼女の言う通りな気もする。だが、なんか違う気もする……複雑な気分だ。何とも形容しがたい。


「ほならね理論になるけど、怒る気持ちを彼女への愛に向けたら?キチガイじゃないとしたら好きな事になるし!ポジティブに考えようよ!ポジティーブ!」


「……はい」


 気落とされた。凄まじい圧力だ。


「あっ!私ここの駅で降りるの!」


 ……いつの間にか二駅を超えていた。


「じゃーな、未来」


「ばいちぃー!」


「未来さん!」


「どかしたー?」


「ありがとう」


 僕の勘違いかも知れないが、未来さんは笑った。それは侮辱する笑いではなく、頑張れと応援する笑顔だった。


「二人ともバイバイ!」


 そしてまた、僕は億劫な気分になる。


 会話が無いまま目的地に着いた。


「降りるか」


「うん」


 そして、電車を降りた。


「よし!——俺の家コッチだから、じゃあな!」


「ああ」


 そして、別れる。その時、谷地は声を上げてこう言った。


「チー牛!じゃねーな、幸太郎!電車での俺との会話は全部忘れろぉー!じゃあ、明日期待してるぞぉー!明日ここに七時集合だぁー!」


 内心嬉しかった。その言葉を聞けて。


「了解ー!」


 その声を谷地が聞いたかは分からない。だけど、僕の気持ちは決まった。


 未来さんと谷地が背中を押してくれたのだ。


「……さて、帰って弁当洗うか」


 話のきっかけを作るために。


 くどいかも知れないがもう一度言う。


「僕は……鈴木さんが好きだ——どうしようも無く好きだぁぁぁぁあ!!はあ……はあ……」


(決意は決まった)


 明日……明日絶対に話しかける!


 絶対に!



「よし!」


 僕は収まりきれない気持ちを押さえつけ家に帰った。



 ……これは、奥手な人間が好きな子に話しかけるだけのお話しである。

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