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今日は久しぶりに鈴木さんと話した。
その後の五時間目も六時間目すらも、鈴木さんの事ばかり考えていた。鈴木さんの綺麗なショートの髪。少しムチムチした太もも。こんな僕に話しかけてくれる優しさ。鈴木さんの事を考える時の気持ちは形容し難いものだった。
昼休みから帰りの挨拶まで僕はずっと鈴木さんの事を考えていた。
そして学校は終わる。
いつも通り、鈴木さんは教室に残っていた。
僕は鈴木さんが放課後何をしているのかは知らない。話しかけたかった、聞きたかった。だけど僕は……教室を出た。
胸の奥深くが抉られているような感覚。
(気持ち悪い)
鈴木さんと違って……僕は勇気が無いらしい。
そして僕は下駄箱に手を入れる。
「ッ!」
悔しい。何も出来ない自分が嫌いになりそうだ……
それでも僕は帰ろうとしない。
そして靴を履き、昇降口を出た。その時だった……手を差し伸べてくれたのは。
「おい、幸太郎!」
そこに居たのは旧友であり親友の……花森谷地だった。
「谷地……」
「おい……いつも一緒に帰ってる仲間だろ!置いてくなよぉー」
僕は自分が惨めだと思う。
鈴木さんに声を掛けれなかった事もそうだけど……一番愚かだったのは——親友を疑っていた事だ。
「……ごめん。でも決して忘れていた訳では無い事は伝えとく」
「なんだよそれー。絶対嘘じゃん」
「ははっ!ごめん」
「まあいいや。帰ろーぜ!」
僕は笑顔で相槌を打った。
周りの景色はまた一段と冬に近づいた。周りの木々は葉っぱを落とし、周りの生徒は冬服になってきている。
「でもさー意外だったわ、お前が鈴木さんと仲良いなんて…….どんな手使ったの?」
「がめついなー。でも協力を仰ぐ上で絶対通る道だから、しょうがないか」
そして僕は鈴木さんとの思い出を語った。
「……それだけなのか?」
「ムッ!流石の僕でも今のは怒るよ」
「悪りぃな。でもよーそれだとさ、今日の鈴木の行動の意味が判らなくなるのだが」
「行動の意味?」
「ああ、異性にお弁当を渡すなんて——それこそ恋人とか好きな人だけだろ」
「……え!?それってつまり……」
「いや違う」
「辛辣ー」
「はいはい。つまり俺が言いたいのは何故、対して関わりのないお前にお弁当を渡したか……だ!とどのつまり……誰でも良かったのでは?」
「おい……それ以上鈴木さんを侮辱するなよ!」
仮令親友の谷地でも鈴木さんの侮辱は許さない。
「おいおい!そんなキレるなよ」
「ムー!」
言葉にならない怒りが湧き出てくる。
「……悪かった。今のは俺が悪かったよ」
「分かればよろしい」
この台詞を後にして、僕達は駅に着いた。
「あと十五分後だ」
「了解」
この電車の時刻が鈴木さんから逃げた免罪符になりそうで怖い。でも逃げたのは事実だ。その現実は変わらない。