表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

3

 今日は久しぶりに鈴木さんと話した。


 その後の五時間目も六時間目すらも、鈴木さんの事ばかり考えていた。鈴木さんの綺麗なショートの髪。少しムチムチした太もも。こんな僕に話しかけてくれる優しさ。鈴木さんの事を考える時の気持ちは形容し難いものだった。


 昼休みから帰りの挨拶まで僕はずっと鈴木さんの事を考えていた。


 そして学校は終わる。


 いつも通り、鈴木さんは教室に残っていた。


 僕は鈴木さんが放課後何をしているのかは知らない。話しかけたかった、聞きたかった。だけど僕は……教室を出た(逃げた)


 胸の奥深くが(えぐ)られているような感覚。


(気持ち悪い)


 鈴木さんと違って……僕は勇気が無いらしい。


 そして僕は下駄箱に手を入れる。


「ッ!」


 悔しい。何も出来ない自分が嫌いになりそうだ……


 それでも僕は帰ろうとしない。


 そして靴を履き、昇降口を出た。その時だった……手を差し伸べてくれたのは。


「おい、幸太郎(こうたろう)!」


 そこに居たのは旧友であり親友の……花森谷地(はなもりやつし)だった。


「谷地……」


「おい……いつも一緒に帰ってる仲間だろ!置いてくなよぉー」


 僕は自分が惨めだと思う。


 鈴木さんに声を掛けれなかった事もそうだけど……一番愚かだったのは——親友を疑っていた事だ。


「……ごめん。でも決して忘れていた訳では無い事は伝えとく」


「なんだよそれー。絶対嘘じゃん」


「ははっ!ごめん」


「まあいいや。帰ろーぜ!」


 僕は笑顔で相槌を打った。


 周りの景色はまた一段と冬に近づいた。周りの木々は葉っぱを落とし、周りの生徒は冬服になってきている。


「でもさー意外だったわ、お前が鈴木さんと仲良いなんて…….どんな手使ったの?」


「がめついなー。でも協力を仰ぐ上で絶対通る道だから、しょうがないか」


 そして僕は鈴木さんとの思い出を語った。


「……それだけなのか?」


「ムッ!流石の僕でも今のは怒るよ」


「悪りぃな。でもよーそれだとさ、今日の鈴木の行動の意味が判らなくなるのだが」


「行動の意味?」


「ああ、異性にお弁当を渡すなんて——それこそ恋人とか好きな人だけだろ」


「……え!?それってつまり……」


「いや違う」


「辛辣ー」


「はいはい。つまり俺が言いたいのは何故、対して関わりのないお前にお弁当を渡したか……だ!とどのつまり……誰でも良かったのでは?」


「おい……それ以上鈴木さんを侮辱するなよ!」


 仮令(たとえ)親友の谷地でも鈴木さんの侮辱は許さない。


「おいおい!そんなキレるなよ」


「ムー!」


 言葉にならない怒りが湧き出てくる。


「……悪かった。今のは俺が悪かったよ」


「分かればよろしい」


 この台詞を後にして、僕達は駅に着いた。


「あと十五分後だ」


「了解」


 この電車の時刻が鈴木さんから逃げた免罪符になりそうで怖い。でも逃げたのは事実だ。その現実は変わらない。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ