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魔女と王都と金色の猫  作者: 鈴宮(すずみや)
王都に戻った魔女、幸せの意味を知る
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次期皇太子妃を守護するもの

「やっぱりミシェルは何を着ても似合うな」


 穏やかな昼下がり。ルカは目を細めて微笑みながら、美しい婚約者を見つめていた。ミシェルは頬を紅く染めながらも、嬉しそうに微笑む。側でドレスの裾を調整している侍女たちが、自分のことのように誇らしげに笑っていた。


「本当に良く似合っているね。すごく綺麗だよ」


 うんうん、と嬉しそうに頷くのは他でもない。この国の王であり、ミシェルの実父であるヘリオスだ。

 ヘリオスはウェディングドレスを纏うミシェルを眺め、ルカと顔を見合わせながら幸せそうに笑っている。


「ありがとうございます」


 そう言ってミシェルはヘリオスへと笑いかけた。

 王都へ戻って来てからというもの、ミシェルはできる限り父と顔を合わせるようにしている。顔を合わせるといっても、一緒に食事をしたり、息抜きの散歩に出掛けたりといった些細なことだが、その度にヘリオスは本当に嬉しそうに笑ってくれる。

 王であるヘリオスにも、ルカの婚約者となったミシェルにも常に従者が付いているため、基本的に二人きりになることは無い。だから、踏み込んだ会話ができるわけではないが、十五年間の溝を埋めるかのように、互いのことを話すのが楽しかった。


「Aラインも捨てがたいですが、ミシェルにはやっぱりプリンセスラインが一番ですかね!?可憐さが引き立ちますし、とにかく可愛いですから。いえ、どれを選んだって絶対絶対可愛いんですけれども!」

「A……?プリンセス……?」


 身を乗り出し興奮したように捲し立てるのは、今回ミシェルの護衛を任じられたクリスだ。最近いつも持ち歩いている分厚い本に目を通しながら、何やら力説を続けている。どうやらドレスの種類のことを言っているらしい。

 クリスの解説の半分も理解できずに首を傾げるミシェルを、ルカはそっと抱き締めた。


「お前……どうしてそんなにウェディングドレスに詳しいんだ?」

「そんなの当然でしょう。私はずっとずっと、ミシェルがウェディングドレスを着る日を夢見ていたのですから!ドレスの種類やトレンドについて、とっくの昔に予習済みなんですよ」


 若干不機嫌なルカに対し、クリスは得意顔で笑う。ミシェルは困ったように笑いながら、ルカとクリスを交互に見つめた。


(しかし、まさかクリスが私の護衛に就くなんて思ってませんでした)


 尚もミシェルのドレスを巡って激論を交わすルカとクリスを、トネールがジト目で睨む。ミシェルは小さくため息を吐きながらそっと目を瞑った。




『奴を牢屋に叩き込んだのはルカ様です。一番に狙われるのは当然ルカ様でしょう。……ですが、私はミシェルも同じかそれ以上に危ないと思っています』


 男の脱獄が分かった翌日、クリスは神妙な面持ちでミシェル達の前へやって来た。クリスの言葉に、ディーナやアリソンも顔を見合わせて頷いている。二人の不安げな表情に、ミシェルは隣に座るルカをチラリと見た。


『直接的でないとはいえ、あの男が投獄される理由を作ったのはミシェル――――あいつがそんな風に逆恨みをしている可能性があるからです』


 ルカはミシェルの手を握りながら、眉間に皺を寄せた。恨むならば自分を恨むべきだと……ルカはそう考えているのだろう。けれどミシェルはニコリと微笑みながら、首を横に振った。


『状況は分かりました。けれど私は大丈夫です。これでも魔女ですし、自分の身は自分で守れますよ』


 ドンと胸を叩きながら、ミシェルは笑う。けれどその瞬間、ルカとクリスが身を乗り出し、ブンブンと首を横に振った。


『ダメだ!万が一ミシェルに何かあったら私が耐えられない!』

『で……でも』

『ルカ様のおっしゃる通りですよ、ミシェル。だからこそ、私がここに来たのです』


 クリスはそう言ってミシェルに笑いかけた。


(どういうことでしょう?)


 チラリとルカを見ると、彼は穏やかに微笑んだ。


『しばらくの間、クリスはミシェルの護衛に付ける』

『えっ!?でも、それじゃルカ様が……』


 クリスはルカの優秀な側近だ。普段クリスがどれほどルカの力になっているか、ミシェルはよく知っている。


(大丈夫なのでしょうか)


 ミシェルの不安が伝わったのだろう。ルカはミシェルを撫でながらチラリとクリスを顧みた。


『本当は私がずっと側にいて、ミシェルのことを護りたいんだ。でも、ずっとミシェルの護衛だけをしているわけにもいかない。公務の中には私でなければならないものもあるし、私の行動は敵方に監視されていると思った方が良い。四六時中ミシェルを護るに終始していれば、私を攻撃するための材料を相手に与えるようなものだろう。クリスだったら立場的にも力量的にも、適任だから』

『でも、ルカ様のお仕事は大丈夫なのですか?

『私の仕事はアランと二人で何とかする。心配しなくて大丈夫だよ。その分私も、ミシェルのことはクリスに任せるから』

『そうです!そしてミシェルがルカ様より私の方が良いと思ったら、いつでも乗り換えていただければ……』

『任せるのは私が仕事中だけだ。それ以外は譲らん』


 ウットリとどこかを見つめるクリスに、ルカがピシャリと言い放つ。


(本当に、良いのでしょうか?)


 そっと顔を上げ、ルカの表情を伺う。するとルカは迷いなど微塵も見えない表情で笑った。ならばミシェルの選ぶ道は一つだけだ。

 

『よろしくお願いします』


 そう言ってミシェルが頭を下げる。


『お任せください。私が必ずミシェルをお守りします』


 クリスは穏やかに微笑みながら跪くと、そっとミシェルの手の甲に口づけた。




「ミシェルはどう思う?」

「へ?」


 ルカに呼びかけられて、ミシェルは唐突に現実に立ち戻る。


「えっ……えっと」


 目の前にはルカとクリスが二人、興奮した面持ちでミシェルを見つめていた。


「何のお話でしたっけ?」

「ウェディングドレスです!どんなドレスが……いえ、お色直しは何回が理想ですか?」


 側に控えていたデザイナーが描いたらしいウェディングドレスの画を引っ手繰りながら、クリスが身を乗り出す。


「そうだねぇ。一着でなければならない、という決まりはないし、あれこれ着てみて選ぶのが良いだろう」


 そう口にするのは国王ヘリオスだ。ニコニコと人当たりの良い笑顔を浮かべながら、ルカと頷き合っている。


(あの、私は一着で十分です……)


 そう思うえども、とてもそんな意見が許されそうな雰囲気ではない。冷や汗を掻きながら、ミシェルは曖昧に笑ったのだった。

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