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魔女と王都と金色の猫  作者: 鈴宮(すずみや)
王都に戻った魔女、幸せの意味を知る
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忍び寄る影

「脱獄……ですか」

「そう。しかも逃げたのは『あの男』だって」


 ルカがクリス達と部屋を後にしてから数時間後、ようやくアリソン達政務官にも状況が共有されるようになった。

 とはいえ、今の段階で分かっていることは少ないらしい。

 現時点で確かなのは、脱獄したのがルカの逆鱗に触れた元重臣であること、それから鍵がこじ開けられたような跡はなく、共犯者がいるらしいことだった。


「門番は?どうしてあの男や共犯者を見てないの?」

「それが、事前に薬か何かで眠らされていたらしいの。だけどね、門番は元々牢の鍵を持っていなかったんだって。……鍵の在処を知る人間は限られているっていう話よ」

「一体だれがあの男を逃がしたんだろう?」


 唇を尖らせたアリソンがそう言って首を傾げる。ディーナも怪訝な表情を浮かべ、ため息を吐いた。


「わからないわ……だって、あの男の手のものは国から追い出されたって話でしょう?それなのに手を貸すような人間がいるなんて信じられない。皆、国王様やルカ様を敬愛しているのに」

「そうね。もしも『あの男』の親族や手下以外で脱獄に手を貸したものがいるとすればきっと、あの男を利用して国に反旗を翻そうと考えている人間――――反逆者……ってことになるわよね」


 先ほど、夜の散歩から戻って来たばかりのトネールを腕に抱きながら、ミシェルは不安に顔を曇らせる。あまりにも物騒な話題にミシェルの背筋がブルりと震えた。


「あの……ルカ様、大丈夫なのでしょうか?」


 ついつい不安が口を吐く。ディーナとアリソンは顔を見合わせながら眉を下げた。


「当然、一番に狙われるのはルカでしょうね。あいつを牢屋にぶち込んだ張本人だもの。まぁ、あの男が裏でやってたことを思えば遅すぎるぐらいだけど!」

「やっぱり、そうなのですね……」


 ミシェルの心臓は不安で張り裂けそうだった。ルカにはクリスやアラン、他にも護衛の騎士がついているため、早々危ない状態にはならないのかもしれない。それでも、彼を脅かす可能性のある何かがあるということは、ミシェルの心に暗い影を落とした。


「言っとくけどミシェル、あんただって危ないんだからね!」

「……!私、ですか?」

「そうよ!だって、ミシェルとルカの結婚話がキッカケで、あの男は掴まったわけでしょ?」


 ミシェルは半年ほど前、一度会っただけの中年男の顔を思い浮かべる。あの直後、男はルカの手によって投獄された。確かにアリソンの言う通り、ミシェルがキッカケといえばそうなのだろう。


「そんなの、逆恨みも甚だしい気がするけど」

「でも、ああいうタイプってそんな奴ばっかりよ。そうだと断定して警戒しといた方が良いって。ルカのことだからきっとすぐに警備を強化してくれると思うけど」


 今だって部屋の外には数人の騎士がいて、ミシェル達を警護してくれている。主が不在時でもルカの部屋には常に警護が付いているらしいが、普段よりも人数は多いという。


「でも、私は一応まだ見つかっていないことになってますし……」


 そもそもミシェルは魔女であり、自分で自分の身を守ることができる。それに、そうとは知らされぬまま、命を狙われるような人間の警護の任に付けられる騎士たちが、少し気の毒に思えた。


「あっ、その話なんだけど、あの男の脱獄話と合わせて、一週間後には公表する予定だってさ。そっちの方がミシェルがいなくなった理由とか見つかった経緯を深く詮索されないだろうからってルカ様が」


 ディーナは手元の資料を読みながら、ミシェル達にそう説明した。


「なるほどねぇ。でもミシェルの安全を思えば、もう少し見つかってないことにしとく、って手もある気がするんだけどなぁ」

「まぁまぁ。きっとルカ様も早くミシェルと結婚したいのよ。見つかった、って発表しないと結婚式の話とか進められないでしょ?」

「そうか……それはそうかも」


 二人は意見を交わしながら楽しそうに笑う。


(変わらないなぁ、二人とも)


 ミシェルはそんなことを考えながら小さく笑った。まるで半年間のブランクが嘘のように、二人はミシェルに接してくれる。理由を聞くことも、突然いなくなったのを責めることもせず、ミシェルを迎えてくれた。


(このまま、甘えてしまって良いのでしょうか)


 そんな疑問がミシェルを不安にさせる。ディーナ達を騙しているような、裏切っているかのような感覚。当然そんなつもりはないのだけれど、ミシェルは何やら居心地が悪かった。


「あの……お二人とも、聞かないんですか?どうして私がいなくなったのか」


 ポツリとミシェルが口にする。するとディーナやアリソンは目を丸くして、ピタリと止まった。


「いえ、その……全部をお話しできるわけじゃないんですけれども」


 一歩間違えれば王家の秘密を洗いざらい話す必要が生じるかもしれない。けれど、この二人が望むならば、ほんの少しでも良い。ミシェルがいなくなった理由を打ち明けるべきなのではないか。そうミシェルは思っていた。


「別に良いわよ。話さなくって」


 けれどディーナはそう言ってニカッと笑った。思わぬ言葉にミシェルは目を丸くする。


「そうそう。あんたが姿を消すぐらいだもの。余程の理由があったんでしょ?」


 トネールを抱き上げながら、アリソンも笑う。


「いつかさ、ミシェルが一人で抱えきれなくなったとき……本当に話したくなった時に話してくれたらそれで良いから。そっちの方が私たちは嬉しい」


 ディーナの言葉にミシェルの目頭が熱くなった。

 この半年間、ルカに会えないことと同じぐらい辛かったのが、この二人と話ができないことだった。ご飯が美味しいとか、天気が良いだとか、傍から見たらどうでも良いことを共有できる誰かがいる。それがどれほど幸せなことだったのか、ミシェルは身を以て自覚していた。


「二人とも……ありがとうございます」


 ミシェルは満面の笑みを浮かべながら、ディーナ達を抱き締めた。

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