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魔女と王都と金色の猫  作者: 鈴宮(すずみや)
王室専属魔女、ロイヤルウェディングへの道
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侍女の告げ口

 それから、ミシェルの毎日は、少しだけ以前のような落ち着きを取り戻した。

 マロンが常に付き従うという部分はサリバンとの約束通りだが、彼女は必要以上に手を出すことも、干渉することも無い。


「美味しいですねぇ、マロン」


 ミシェルの向かいに腰掛け、マロンはコクコクと頷く。


(おまけにお茶のお相手まで出来て、私は嬉しい限りです)


 鼻歌交じりに紅茶を啜っていると、気づかわし気なマロンの表情が目に飛び込んだ。マロンはパクパクと口を動かしながら、チラチラと背後のドアを振り返る。


「大丈夫ですよ~~。鍵はしっかりかけていますし、誰か来たら分かるようにしていますから」


 ホッとしたように胸を撫でおろし、マロンは朗らかに笑った。


(それにしても)


 ミシェルはトネールを撫でながら、目の前の小さな少女に目を遣った。

 本来ならば親の庇護下にあるべき幼い少女は、普段は立派過ぎるほど、精力的に仕事をこなしている。ミシェルの着替えの手伝いや部屋の掃除、食事の準備等、他の侍女と比べて何ら遜色ない働きっぷりだ。


(たまには、こうして息抜きの時間も持ってもらわないと)


 ウキウキとケーキを頬張る姿は、普段の大人びた表情とは違い、年齢相応だ。ミシェルは穏やかに微笑みながら、マロンを見つめ続けた。


(それに、可愛いものを愛でていると、心が安らぎますし)


 栗色の髪の毛に、耳の辺りで緩くまとめられたお団子頭。大きな瞳に整った顔立ち。マロンは王都でもめったにお目に掛かれない程、可愛らしい顔立ちをしていた。


(本当に、眼福とはこういうことですね)


 ミシェルはウキウキと心を弾ませながら、つかの間のティータイムを楽しんだ。



「マロンの様子はどうだ?」


 夕食の席でルカはそう尋ねた。

 最近のルカは、時間が許せばミシェルと一緒に食事をとるようにしてくれている。食事をしながら、婚約や結婚の打ち合わせができるということもあるし、ルカに一人で食事をさせると、片手で食べるものに変更を強いられたり、ものの数分で平らげられて、シェフが泣くのが理由らしい。二人のスケジュールを調整してくれているアランがそっと教えてくれた。


「頑張ってくれてますよ!お茶を淹れるのも上手で、とても助かっています」

「そうか。良かった」


 ミシェル専属になったとはいえ、マロンにも休憩は必要だ。今夜はルカと食事をするということで、早めに休むように伝えてある。

 ルカは穏やかに微笑みながら、ミシェルを見つめた。優しく、熱く。美しい紫の瞳がウットリと細められる。

 まるで視線だけで撫でられているような、愛でられているような、こそばゆい感覚。けれどミシェルは、とても幸せだった。


「なぁ、このテーブル、少し大きすぎないか?」


 後ろに控える侍女に呟きながら、ルカが眉を顰める。


「これでも小さなものにお取替えしたのですが」


 ある程度ベテランらしい侍女は、困ったように笑いながら、そっとミシェルを見る。ミシェルは何が何だか分からないまま、小さく首を傾げた。


「私は王家はもっと節制するべきだと思っているし、庶民とのギャップも埋めていくべきだと思う。もっと小さなものに替えた方が良い」


 ルカはそう言ってチラリとミシェルの方を見た。トクンと跳ねる心臓に気づかない振りをしながら、ミシェルは食事を続ける。


(私ったら……こんなにイチイチ反応していては身がもちませんのに)


 いつもミシェルばかりがドキドキさせられている。それが何だかとても悔しかった。まるでミシェルばかりが、ルカのことを想っているようで居たたまれない。


(いや、もう仕方ないんですけどね……。こんなに好きなんですもの)


 想いが通じ合っているとはいえ、まだ、この気持ちを言葉にしてルカに伝えたことは無い。けれど、つまるところミシェルは、ルカにべた惚れなのである。


「……そんなこと仰ってますけど、ルカ様?テーブルを新しく買い直す方がよっぽど不経済です。今あるものを使い続けた方が良いに決まってます。それに」


 侍女は意味ありげな視線をミシェルへ向けると、クスクスと笑い声をあげた。


「別にお食事中にミシェル様に触れられずとも、その後でいくらでもお時間が取れますでしょう?本当に愛情深くいらっしゃるのだから」

「……バレたか」


 ルカは困ったように、けれど幸せそうに笑う。気恥ずかしさと嬉しさを感じながら、ミシェルも一緒になって笑った。

 こうして距離が近づいてから気づいたこと。それは、ルカは存外侍女たちを含めた色んな人に気を許していることだった。

 先日のサリバンとのやり取りもそうだったが、一国の王子が侍女に対してこんなセリフを許すのは中々に珍しいらしい。国によっては首が飛びかねないことなのだと、先日同期の侍女が教えてくれた。


(まぁ、お相手に私を選ぶような懐の広い方ですし)


 ルカが度々話してくれる、これからの国の目指す方向や理想を考えるに、彼はこれまでもずっと、こうして身近なところから国民へと歩み寄る努力を続けていたのだろう。

 そんな風に結論付けながら、今は少し離れた位置にいるルカを見つめる。


「ミシェル様がいらっしゃってからですよ」

「え?」


 ミシェルの後ろに控えていた侍女が、コソコソと耳元に囁きかける。すぐには意図が読み取れず、ミシェルが聞き返すと、侍女は楽しそうに目を細めた。


「以前のルカ様は私たちに対してこんな風に軽口を叩くどころか、口を開こうともなさいませんでした。ミシェル様がお城にいらっしゃった頃から、少しずつ態度が和らいでいって、ようやくこんな風に会話ができるようになったのです」


 何やら生温かい視線がミシェルへと集まっていることに気づく。


(もしかして、侍女さんたちが最初から私に優しかったのって……)


 本来ならば、いきなり現れた主人の婚約者候補。邪険にされたって仕方がない。

 けれど、同期を除いた侍女たちは皆、ミシェルに対してとても好意的だった。

 侍女の声が聞こえていたのだろう。ルカが少し恥ずかしそうに頬を染める。


(私も、もっと小さなテーブルが良かったなんて)


 とても口にはできないけれど、そんなことを考えるミシェルだった。

次辺りから予定していた大きな波に向けて、話を動かしていきたい……!

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