表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女と王都と金色の猫  作者: 鈴宮(すずみや)
森を出た魔女、王都に生きる
46/98

恋バナ!

「突然ですがミシェル!」

「はっ……はい」

「ミシェルは……どうやったら赤ちゃんができるか知ってる?」

「赤ちゃん……ですか?」


 夕食と湯浴みを終えた三人は、広々としたアリソンの部屋にいた。各々パジャマに身を包み、クッションを抱えて座っている。


「直球だなぁ」


 そう言ってディーナが片眉を上げる。


「しょうがないでしょうっ!何から話せば良いか分かんないしっ!そんなこと言うならディーナ変わってくれるの?」

「それは勘弁!このままお願いします」


 興奮したように捲し立てるアリソンに、ディーナがペコリと頭を下げた。二人のやり取りを眺めながら、ミシェルは首を傾げる。


(二人は一体何を揉めているのでしょう?)


 そんなことを考えていると、ミシェルの隣でトネールが大きな欠伸をした。既に深夜と呼べる時刻である。


(今日の研修もハードでしたからねぇ)


 ミシェルも一緒になって大きく口を開けた。


「と、いうわけでミシェル!知ってるの?知らないの?どっち?」


 気づけばミシェルの間近に、アリソンとディーナが迫っていた。二人の瞳は、何やらギラギラと輝いている。


(ふたりとも、圧が凄いです)


 ミシェルは両手を広げて二人を宥めながら、苦笑いを浮かべた。


「えっと、……正直考えたことがありませんでした。クリスの街にいたときに、何人か赤ちゃんを見たことはありますが、あんまりマジマジと見たことはありませんし。何だか私には遠い存在で」


 そう言ってミシェルは、ウトウトと舟を漕ぐトネールを撫でた。

 社会から隔絶されていたミシェルにとって、赤ちゃんと触れ合う機会は殆どなかった。同年代のクリスや、祖母達大人が彼女の全てだし、書物はすべての知識を与えてくれるわけではない。人が成長していく過程を知識として知っていても、赤ちゃんというのが、どんな存在なのかも、どうやって生まれてくるのかもよく分からないのだ。


「母親と赤ちゃんの結びつきが大きいらしいことは分かるんですが、物心がついた時には私には母がいませんでしたし……。そんな風に考えると、私は鳥か何かから、祖母の元に運ばれてきたと考えるとしっくりくるなぁなんて」


 ふと顔を上げると、ディーナとアリソンが悲し気に表情を歪ませていた。


(どっ、どうしたのでしょう?)


 先ほどまでの雰囲気とはまるで異なる二人に、ミシェルは目を丸くする。すっかり眠ってしまったトネールを布団へ移してやりながら、ミシェルはそっと身を乗り出した。


「あの、お二人とも……」

「なんか……ごめんね。辛いこと思い出させたよね」

「え?」


 ディーナがミシェルを撫でながら、ぎゅぅと抱きしめる。ミシェルは何が何だか分からないまま、ディーナを抱き返した。


(辛いこと?………あっ、母親がいないことでしょうか?)


 ミシェルとしては辛いことなど何もないのだが、傍から見るとそう感じるのだろうか。ミシェルはひっそりと首を傾げた。


「あの、私は何も辛くないですよ?祖母もクリスもいましたし、今はこうしてディーナ達と一緒にいられますから」


 今にも泣きだしそうな勢いのディーナに向かって、ミシェルは言う。けれどディーナはふるふると首を横に振った。


「ごめんなさい、ミシェル。どう切り出したらいいか分からなくて、私……。それもこれも、ルカがムッツリスケベなのが悪いんだけど」


 そう口にしたのはアリソンだった。最後の方は辛うじて聞き取れるほどの小声で、腹立たし気に言葉を紡いでいる。


「ムッツリ?」


 ミシェルが聞き返すと、アリソンはムスッと唇を尖らせた。

 アリソンはしばらく、何事かを考え込んでいるようだったが、ややしてミシェルに向き直ると、大きく息を吸い込んだ。


「……ミシェルはさ、ルカとその…………キスしたことある?」

「えぇ!?」


 先程までとはあまりにも違う質問内容に、ミシェルはパッと頬を染める。


(な、なにを言い出すかと思えば……!)


 ディーナにも想定外の質問だったらしく、クルリとアリソンの方を振り返ると、ほんのりと頬を染めていた。


「私は、あるよ。幼馴染の……婚約者と。初めてキスされたときはスッゴクびっくりして……だけど、嬉しかった」


 アリソンはそう言って、愛し気に自身の唇を撫でる。ミシェルの心臓はドキドキと高鳴った。


「ミシェルはどうだった?嬉しかった?それ以外にも何か感じた?」


 まるで記憶の扉を叩くようにして、アリソンが畳みかける。


(どっ、どうしてそんなことを……)


 未だ戸惑いはぬぐえないものの、アリソンの表情は真剣そのものだ。

 気恥ずかしさを感じながらも、ミシェルはそっと目を瞑ると、自分の記憶と向き合った。


「私は……すごくドキドキしました。嬉しくて、恥ずかしくて、それから全身が熱くて。自分が自分じゃ無くなったみたいで怖くもなって。でも、もっと触れていたい……そんな感覚でし、た」


 顔から火が出そうだった。誰かに打ち明けるにはあまりにも恥ずかしく、拙い説明。けれど、アリソンやディーナなら受け止めてくれる。そんな気がしていた。


「……あのね、ミシェル。多分なんだけど、私たちの身体はさ、誰かを好きになると、その人に触れたいって思うように造られてるの」


 アリソンはそう言って微笑むと、ミシェルの隣へと腰掛ける。ようやくミシェルを開放したディーナも、アリソンの反対側へと座った。


「身体が熱くなるのもそう。触れ合ってたらね、互いをもっともっと知りたくなるの。ギュッてしてるだけじゃ足りなくなっちゃう。そんな時にどうしたら良いのかってことを、私たちは生まれる前から身体に刻み込まれてるんだと思う。まるで魔法みたいにね」


 何故だかミシェルの身体はほんのりと熱を帯びていた。普段は存在を感じない身体の一部が疼くような感覚に、ミシェルは身を捩る。それはルカと触れ合っているときに感じた熱と、とても良く似ていた。


「アリソンは……その…………」


 ミシェルが躊躇いがちに尋ねる。ディーナも興味津々でアリソンを覗き込んでいた。


「うん。キスだけじゃ足りなくなっちゃった。普段何考えてるか全然分からない奴なのにさ、触れ合ってると何だか安心するんだよね。想われてる気がして、それが何だか嬉しくて。…………なーーんて、まだ一回しかしてないんだけど」


 照れたように頭を掻きながら、アリソンが笑う。普段のあどけない表情ではなく、どこか大人なびたアリソンのその表情は、ミシェル達を惹きつけた。


「ミシェルもこれからさ、ルカとそういう局面を迎える日が来ると思う。多分滅茶苦茶ビックリするし、痛いし、ヤバいくらい恥ずかしいんだけど!でも、その分すっごく嬉しいと思うから」

「アリソン……ディーナ…………」


 ミシェルは二人を抱き寄せながら、目を細めた。


(二人は私のこと、心配してくれてたんですね……)


 今日の昼、ルカからの手紙が届いて以降の二人の様子を思い返しながら、ミシェルは笑う。

 ミシェルがそうであったように、アリソンもきっと、自身の恋人とのことを話すのは気恥ずかしかっただろう。けれど、ミシェルが傷つかないように、事前に心構えができるように、とても気を揉んでくれているのだと、良く分かった。


(アリソンの言う局面というのが明日……来るのでしょうか?)


 たった一行に込められたルカの想いを、ミシェルにはまだ読み取ることができない。けれど、ミシェル自身のルカへの想いは十分に大きなものだ。


(まだ十分に自信があるとは言い難いけど)


 ルカが好きで、ずっと側にいたい。その気持ちは揺ぎ無いものへと変わっていた。


「良かったらもっと、教えてもらえませんか?その……話せる範囲で構わないので」


 チラリとアリソンを見上げながらミシェルが言う。アリソンは恥ずかしそうに頬を染めながらも、コクリと頷いた。


「っていうかアリソンの相手……幼馴染って言ってたけど、もしかして」

「……!」


 そう言ってディーナがニヤリと笑う。アリソンはビクッと身体を震わせながら真っ赤に頬を染めた。


「そうかそうかぁ~~アラン様ねぇ。意外だったなぁ~~~~!ふふふふっ」


 ディーナの瞳は揶揄するようにキラキラと輝いている。ミシェルも一緒になってクスクスと小さく笑った。

 アリソンはしばらく頬を膨らませていたが、やがてニカッと笑うと、ミシェルとディーナを抱き寄せた。


「こうなったら今夜はとことん恋バナするわよ!特にディーナ!覚悟してよねっ」


 アリソンの言葉に三人は顔を見合わせると、声を上げて笑った。

 女同士の話題は尽きることがなく。空が朝日を浴びて白むまでずっと、アリソンの部屋から笑い声が絶えることは無かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ