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魔女と王都と金色の猫  作者: 鈴宮(すずみや)
森を出た魔女、王都に生きる
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アランとアリソン

「あぁ~~あ!研修もあと2日で終わりかぁ」


 昼食をつつきながらディーナが天を仰ぐ。その表情はどこか寂し気だ。


「長かったような短かったような……しかし、とても濃い一か月でした。ミシェルともガッツリ一緒にいれましたしね」


 そう口にしたのはクリスだ。ミシェルの膝の上で、トネールが忌々し気にフンと鼻を鳴らす。どんなに長い時間を共に過ごしても、この二人はどうしても相容れないらしい。ミシェルは苦笑を漏らした。


「正直私は緊張してるわ。来週から現場に出て働くわけでしょう?実際にうまく働けるか……」


 徐に口を開いたのはアリソンだった。

 あの研修のあと、アリソンはすっかりミシェル達と打ち解け、今では昼食や移動時間等、殆どの研修を共にしている。それに、ミシェル達以外の他の研修生たちとも、徐々にではあるが会話ができるようになっていた。


「アリソンならきっと大丈夫ですよ。ディーナも付いていますし」

「そうそう!リラックスして行きましょう?」


 ディーナがそう言って胸を叩くと、アリソンははにかむ様に笑いながら、コクリと頷いた。


「それにしても、寂しくなりますね」


 意図せず口を吐いた言葉に、ミシェルは口を押えた。

 ミシェルやクリスはディーナ達とは職種が違う。執務室も離れているため、研修が終われば今のように会うことはできなくなる。

 見ればミシェルだけではない。アリソンやディーナもしんみりした様子で俯いている。


(あぁ、口にするつもりはなかったのに……!)


 言葉にしてしまえば、より寂しくなる。そう分かっていたから気を付けていたものの、心からの想いを無視することは難しい。ミシェルは密かに頭を抱えた。


「お食事中にスミマセン」


 すると、ミシェルの耳元でクリスとは別の男性の声が響いた。聞き覚えのある男性のものだ。

 ミシェルが顔を上げると、そこには柔和な笑みが特徴の男性、ルカの側近の一人であるアランが佇んでいた。


「アラン!お久しぶりです。忙しいあなたが、一体どうなさったのですか?」


 アランと会うのは最後にルカとに会った日以来。魔女政策について話をした日が最後だった。

 クリスとアランは、ルカが忙しければ忙しいほど仕事が増える。その上、今のアランはクリスが日中不在な分の仕事をカバーしており、多忙を極めているらしい。以前クリスがそう話していた。


「ふふっ、最近は大分落ち着いたのですよ。随分長く掛かりましたけどね」

「アランには面倒を掛けました。私のワガママでスミマセン」


 そう口にしたのはクリスだった。真っすぐにアランを見つめてから、深々と頭を下げている。


「元々、クリスが来るまでは私が一人でやっていた仕事ですよ。全然平気です。それに、クリスは研修後も仕事をこなしてくれていたじゃありませんか」


 アランはそう言って、ニコニコと人当たりの良い笑みを浮かべ続けていた。


(本当に、アランは穏やかな良い人ですね)


 ミシェルはほぅと感嘆のため息を漏らす。

 常に笑顔を絶やさないアランは、かなり希少価値の高い人物だとミシェルは思っていた。研修で知り合いが増えても、アランのような人物は中々いない。

 ルカが側近として重用している理由が、ミシェルにも分かる気がした。


「そ・れ・で?あなたは何故、こんなところで油を売っているの?」


 久々に棘のあるアリソンの声が響いて、ミシェルとクリスが思わず振り返った。

 見るとアリソンは、不機嫌そうに眉を吊り上げ、口の端をピクピクと震わせている。


(そうか。アリソンとアランは幼馴染でしたね)


 以前アランから聞いた話を思い返しながら、ミシェルはポンと手を叩く。けれど、二人の関係性がどんなものなのか詳しくは聞いていない。


(う~~ん、あまり仲が宜しくないんでしょうか?)


 アリソンの纏う不穏な空気に、ディーナもクリスも苦笑いを浮かべている。

 けれど、アランだけは、にこやかに微笑みながら、ひざを折った。


「これも公務の一環ですよ。ルカ様のお遣いです」


 そう言ってアランは一通の封筒を取り出し、ミシェルへと差し出した。


(ルカ様からのお手紙……!)


 『ミシェルへ』と書かれた、美しく端正なその文字は、紛れもなくルカのものだ。ミシェルの心臓が小さく跳ねた。


「今日中……できるだけ早めに目を通してほしいとルカ様は仰っていました」

「はっ、はい!分かりました」


 コクコクと頷きながら、ミシェルが笑う。本当は今すぐにでも開封したいところだが、さすがにここで開封するのは人目もあってよろしくない。ミシェルは封筒をギュッと抱き締めてから、大事に仕舞いこんだ。


「それからクリス」

「はい、何でしょう」

「今日の研修が終わったら、執務室に来てほしいとルカ様が仰っていました」


 アランの言葉にクリスは少しだけ首を傾げた。

 研修期間の初めの方は、研修が終わる度にルカの執務室に顔を出していたクリスだが、中盤からは呼ばれたときだけ足を運ぶスタンスへと変わっていた。それも、研修後に呼び出しが掛かるパターンはなく、日中研修の合間をぬって……という形を取っていたのである。


「……わかりました」


 怪訝な表情を浮かべながらも、クリスはそう言った。


「では、また後程」


 そう言ってアランは満足げな笑みを浮かべると、チラリとアリソンの方を流し見た。


「っ……!」


 すると、アリソンはビクリと身体を震わせ、アランの方を睨みつける。先程までの不機嫌はどうやら未だ継続しているらしい。ディーナとクリスが困ったように顔を見合わせたその時だった。


(えっ!?)


 ミシェルは驚きに目を見開いた。普段柔和な笑みしか浮かべることのないアランの表情が動いたからだ。

 口の端は意地悪に吊り上がり、目は怪しく光っている。時間にしてほんの数秒。けれど、普段の表情とはあまりに違うため、きっとミシェルの見間違いではない。

 ミシェルが我に返ったその時には、アランの姿は既になく。


(何だったのでしょう、あの感じ)


 頬を紅く染め、唇を尖らせたアリソンを見つめながら、ミシェルはそっと首を傾げた。


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