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魔女と王都と金色の猫  作者: 鈴宮(すずみや)
森を出た魔女、王都に生きる
41/98

謝罪とハグ

(少し不安でしたが……)


 ミシェルはそんなことを考えながら、チラリと隣を見遣る。

 先程まではどこかぎこちない様子のアリソンだったが、今は瞳に力が宿っている。どうやらもう、心配はいらないらしい。ミシェルはほっと胸を撫でおろしながら、繋がれたままの手のひらに力を込めた。


「良い?貴族なんて、十中八九、既得権益が大事な連中なの!それを王命だからっていきなり手放すなんてあり得ない!絶対にあり得ないわ!そんなことしたら革命が起きちゃうでしょ」


 これぞアリソン、と呼ぶべき勢いで彼女は捲し立てた。クリスもディーナも目を丸くし、感心したように息を呑んでいる。けれどアリソンは、もう怯むことは無かった。


「では、どのようにするのが良いと?」


 クリスが尋ねると、アリソンは不敵な笑みを浮かべた。


「時間稼ぎをするのよ。そうね……制度は二~三段構えぐらいで組むの。例えばだけど」


 アリソンはそう言って、徐に筆ペンを握りしめた。ミシェルは持っていた羊皮紙をアリソンへと差し出す。


「初めはね、領地制度を廃止するところから始めるの。その代わりに、貴族にはそれに見合うだけの仕事を与える。でも、そのポジションは世襲制じゃなくって、徐々に別の人に変われるよう設計する」


 羊皮紙に書き連ねていきながら、アリソンはそう説明した。他の3人は、アリソンの書いた図を上から覗き込んでいる。


「領地制に代わる仕事やポジションって、例えば?」

「……私が良いなって思ってるのは、領地の代わりに役場を置くこと。ようは、この城みたいに、地方を治める場所を作るってわけ。それで、貴族にはそこを治める長になってもらう」


 これまで温め続けていた思いなのだろうか。アリソンの瞳は、キラキラと輝きに満ちていた。

 それに呼応するように、ディーナの頬も紅く染まっていく。これまで女性政務官はディーナだけで、こうしてこういったことについて語り合える相手はあまりいなかったのだろう。興奮に身を震わせる親友の姿が、ミシェルはとても嬉しかった。


「なるほど……実質的には現状と変わらないとなると、貴族たちも反対しづらい。そこをうまく突くということですね」


 クリスがそう言うと、アリソンはコクリと頷いた。どことなく誇らしげな表情だ。


「領地制度って不透明な部分が多いですものね。地方の実態はあまり把握できていないって、先輩も話していたし」


 ディーナがそう言ってアリソンに笑いかけた。少しだけ恥ずかしそうに視線を逸らしながら、アリソンはまた小さく頷いた。


「領地から得られた税は一度中央に集約して、再配分するの。そうしたら、土地柄お金が集まりづらいところにも、融通することができるし。役場を作れば地方の雇用創出にもつながる。まぁ、最初は元々貴族の所で働いていた人とか、そういう人しか集まらないだろうけど。徐々に制度として確立されていけば、きっと人は入れ替わっていくから」


 社会から隔絶されていたミシェルは、三人の会話について行くのが精いっぱいだった。けれど、それが本筋を離れておらず、とても建設的な意見だということはわかる。おまけに、三人のうち二人が自分たちの地位を揺るがされる当事者だ。感心せずにはいられなかった。


「でも、三段構えっていうのは?まだ他にも案があるの?」


 ディーナが尋ねると、アリソンは小さく唇を尖らせた。


「そこがまだ上手く組めてないんだけど。今、貴族たちは領地だけじゃなくて国政にも大きくかかわってるでしょう?だから、そこの部分でも何かしら反発があるんじゃないかなぁって思ってて」

「そうですね。例えばアランやアリソン殿のお父上はこの国の大臣でいらっしゃいますし」


 貴族と一口に言っても、あり方にはそれぞれ違いがあるらしい。クリスが補足説明してくれる内容を、ミシェルは必死にメモを取った。


「世襲制じゃなくしてしまえば、その辺もクリアできる気もするんだけど」

「そうねぇ……でも、それじゃ少し弱いかも」


 ミシェルはこの城で働き始めてから見聞きした、いろんなことを思い返していた。

 ルカやディーナ、クリスが教えてくれたこの国の現状は、決して悪いわけではない。ミシェルが王都に出てきて、暮らしに不便を感じたことも無いし、不満の声を聴いたことは無い。


(でも、ルカ様はいつも……)


 その時、ミシェルの頭に一つの考えが過る。議論を交わすアリソン達を見ながら、ミシェルは小さく手を挙げた。


「あの、一つ思ったことがあるんです」

「ミシェル!聞かせてください」


 クリスが微笑みながら先を促す。ディーナもアリソンも同じだ。


(的外れになるかもしれないけど)


 この先、ルカのために働くならば、ただ魔女としてそこにいるだけではいけない。ミシェルは迷いながらではあるが、口を開いた。


「例えばですけど、大臣や地方の代表者を、国民が選ぶようにしたらどうでしょう?」

「国民が選ぶ?」


 ミシェルの考えを聞いても、まだ三人はピンと来ていないらしい。頭の中を整理しながら、ミシェルは身を乗り出した。


「ルカ様がいつも仰っていること……民意の反映を貴族制度の廃止と絡められないかなって考えたんです。今のポジションに留まっていただくにしても、皆に選ばれたという形をとる。さっきのアリソンさんが仰ったみたいに、最初は貴族の方たちばかりが選ばれるでしょうが、徐々に他の方たちも選ばれるようになっていくんじゃないかなぁって」

「なるほど。そうすれば元貴族たちは体面も経済面も保たれるし、結局貴族だけが国政に幅を利かせることも無くなる……か」

「あっ、そう!経済面なんですが、たとえばしばらくは国が何かしらの補償をして、徐々にそれを撤廃していくことが必要なのではと思ってるんですが」


 4人はその後、与えられた制限時間ぎりぎりまで議論を白熱させていた。時に真剣に、時に笑い声を上げながら、屈託なく自身の意見を投げかけていく。研修が終わる頃には、アリソンはすっかりミシェル達と打ち解けていた。


「正直私は、あなたのことを誤解していました。ルカ様やアランは、あなたが政治には興味がないと話していましたから」


そう切り出したのはクリスだった。バツが悪そうに、ポリポリと頭を掻いている。アリソンはクスクスと笑いながら、小さくため息を吐いた。


「知っているわ、あの二人が私のことをそんな風に見てたこと。……本当に嬉しかったのよ?女性政務官が採用されるって聞いた時。だから、その想いを打ち明けに行ったっていうのにルカの奴……!」


 どうやらミシェルとアリソンが初めて会った時のことを話しているらしい。悔しそうに歯噛みしながら、アリソンはあらぬ方向を睨みつけた。


「でもね、女性政務官を採用するって、そう変えたのはルカだって知ってるから。そこはちゃんと感謝してる。色々と腹は立つけどね」


 そう言ってトネールを撫でながら笑うアリソンは、すっかり角が取れた可愛らしい少女だった。アリソンと同じ志を持ったディーナはコクコクと激しく頷いている。ミシェルはクスリと小さく笑い声をあげた。


「……そういえば私、あなたに謝らないといけないことがあるの」


 ふと何事かを思い出したかのように、アリソンは唐突に切り出す。アリソンはミシェルのことを気づかわし気に見上げながら、唇を震わせていた。


「私、ですか?」


 ミシェルが問い返すと、アリソンは首を縦に振る。


「初対面の時、私、あなたが女性初の政務官だ、って勘違いしてたの」


 そう言ってアリソンはバツが悪そうに俯く。ミシェルとアリソンが互いに顔を見合わせた。つまりアリソンは、ミシェルを王室専属魔女ではなく、女性政務官――――ディーナと勘違いしていたらしい。


「先を越されたことが悔しくて、つい、あんなことを……。次に会った時に、勘違いだって気づいたんだけど、私こんな性格だし、今更謝るのもって思って、更に憎まれ口を…………」


 真っ赤に頬を染めながら顔をクシャクシャにするアリソンは大層可愛らしい。ミシェルは微笑みを浮かべながら、思わずアリソンを抱き締めた。


「……ちょっ!何よ、いきなりっ」

「す、すみません。何だか可愛くって、つい」

「なっ、可愛いって……!私の方が年上よ!年上なんだからね!」


 そう言ってアリソンは、先ほどよりも頬を真っ赤に染め上げた。口調はきつくとも、ミシェルにはむしろ可愛らしく感じられる。クスクス笑い声を上げながらディーナが立ち上がると、ミシェルとアリソンの二人を抱き締めた。


「ホント、私も可愛いと思う」

「なっ、あんたまで!」

「あんたじゃなくて、ミシェルとディーナですよ、アリソン殿」


 クリスが困ったように笑いながら、そう口にした。

 その途端、アリソンはビクリと身体を震わせながら、ミシェル達を見遣る。何やら逡巡しているらしい。ダラダラと汗を流しながら緊張した面持ちを浮かべるアリソンを、二人は静かに見守った。


「ミシェル……」

「はいっ」

「ディーナ……」

「はい」


 唇を尖らせながら、アリソンがそっと二人を呼ぶ。ミシェルも、ディーナも、ニコニコと屈託なく笑いながら返事をした。


「…………ありがと。あと、これからよろしくね」


 そう言ってアリソンは満面の笑みを浮かべた。

 ミシェルの友人が、また一人増えた。

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