プロローグ 『猛火』
真っ赤に燃え盛る猛火。崩れた壁を覆うように広がり盛るそれは一人の少年を取り囲むかのようにあった。
真っ暗な空にただひとつの光るものは赤と橙が混合した色あざやかなもので、炎は勢いを衰えることなく増していった。
その中で少年は思う。
自分に何ができたのか、自分はなぜここにいるのか、自分は何かやるべきことがあったんじゃないか。
思い出は崩れる壁のように簡単に儚く散っていき、記憶という曖昧なもので紡がれた。
「はは、はははっ!」
状況を受け入れたくなくて無意識に笑いがこみ上げる。同時に涙が瞳からこぼれ落ち、笑いはいつしか大きな泣き声へと変わっていった。
ところどころ息が突っかかり咳き込む。それでも涙は止まらず、悔しさと憎悪だけが込み上がった。
みんなが死んだ。この一瞬で
学校にいた親友も、幼馴染みも、全て奴に殺された。
「なんで、こうなったんだよ…。」
言うなら負け犬の遠吠え。今の少年の無様な姿は滑稽だ、とあざ笑うかのように炎は少年へと唸りをあげて近づいて行く。
人が死ぬのとはこうも簡単なことなのか思い知らされた今日、少年は誓う。
もうこのような惨事が起きないようにと、自分がすべきことを考えた。考えて考えて考え尽くして、泣いて泣いて泣き喚いて、少年は天を見上げて言った。
「俺ってーー弱いんだな。」
五月十四日、大阪にある勇者の候補生が住む寮が怪物の襲撃にあいほぼ全壊。候補生三十人のうち二人が生存。
ティメレは一人であり、赤色の頭髪で怪物とは言い難い人間に近い形をしていた。
勇者と怪物、言い換えるなら人間と侵略者。二つの関係がこの日、色濃く親密になった。
我々軍部の者達は、この日をこう呼ぶ。
ーー悪夢の始まりの日
よろしくです!
久々の投稿になりました!