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この世界は何が為に  作者: 秋坂優
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初めての町




「はあー、おなかいっぱい!」



あの後、私たちは拾い集めた果実やら植物やらを調理して、町の少し手前で一息ついた。

もっとも、調理したのは私でも夜見さんでもなくこの万能タヌキロボットなのだが。



「ぽむぅ。」


「本当、何でも出来るんですねえ、ポコロンは。」



おかげで今度は食休憩が欲しいくらいだ。

少し膨らんだお腹をなでる。



「その感じだと、町で食事をとる必要はなさそうね」



ええ、それもそれで惜しいような・・・?



「不満そうな顔しないの。私も手持ちは少ないし、アリスはほぼ無一文。出来るところは節約していきましょう。」



わかってます。わかってますとも。

頭ではわかっていても、反射的にむぅ、と頬を膨らませてしまう。



「ほら、せっかくアリスが色々拾ってくれたおかげでおいしい物が食べれたんじゃない。これは幸福なことよ。」



褒められると、弱いなあ。わかりやすく持ち上げられた私は、降参の意志として先ほど膨らました頬から空気をふしゅーと抜いて、黙り込む。


その姿がおかしかったのか、夜見さんは呆れた顔をして笑う。



「さ、行きましょう。」


「ま、待ってください!ちょ、ちょっと休憩したいなあ、なんて」


「馬鹿なこと言ってないの。たったの今まで休憩してたじゃない。」


「それもそうなんですけど、別で休憩が必要になったというかなんというか」



ごにょごにょと口ごもる私を無視して、夜見さんは歩き始めた。町は目の前とはいえ、こんなところで一人にされたらたまったもんじゃない。私はしぶしぶ、しかし見失わない程度の牛歩で、彼女の後ろをついて行くことにした。



***



「ついたあーーーーっ」


「何とか日が落ちる前にたどり着いてよかったわね。」



アリスのペースに合わせていたらきっと明日になっていたわ、と釘を刺されたが、気にしない、気にしない。何はともあれ、無事に町にたどり着いたのだ。



「ところで夜見さん、商屋さんはどこでしょうか」


「そこそこ大きな町だから、この魔法石を売れるお店も、もちろん買うためのお店もあるでしょうけど、もうこんな時間だしねえ。」



前方に見える大きな時計台はちょうど午後6時を指しており、町中に穏やかな音楽が流れている。



「なんだか眠くなるメロディーですねえ。」


「もしかしたら店じまいの合図かも。旅も急いでる訳じゃないし、今日のところは宿探し、ね。」


「宿…お金…」



がくりとうなだれる。何を隠そう一文無しなのだ。そんな人間を泊めてくれる優しい宿はあるのだろうか。野宿も覚悟しておくべきかもしれない。そんなことを頭にめぐらせていると


「安心して。二人分の宿代くらいは出せるわよ。」


不安が顔に出ていたのか、そんなことを言ってくれた。ああ、まさに女神様…



「何から何まで本当…申し訳ない、です。」


「違うでしょ。ありがとう、よ。こういうときは。」


「あ、ありがとう…」


照れ臭くなってしまいえへへと濁すと、

夜見さんもどういたしまして、とこれまた少し照れくさそうに顎をかき、言葉を続ける。



「で、肝心の宿屋なんだけど…」



聞けば宿屋は今いる時計台から西と東に一つずつ宿屋があるらしい。



「とりあえず両方行ってみて、それから決めましょうか。」


「そうですね、賛成です!」



二つの宿屋は少し離れているが、多少の疲労は今さらだ。明日以降の活動のためにもどうせなら良い方に泊まりたい。


こうして我々は、まずはここから少し近い、西の宿屋を目指すことになった。




***



「駄目だ。二人合わせて一番安い部屋でも200リン。それ以上はまけられないね。」


「そんなあ!か弱い女の子が野宿で襲われてもいいんですか!」


「んなこと言われても、こっちも商売なんでねえ。それに、見るからによわっちそうなあんたはともかく、そっちの姉ちゃんは防具も武器もそれなりに良いもの使ってるし、腕っ節もよさそうだ。早々にやられはせんだろう。」




ガタイの良い店主は、そのたくましい二の腕を見せつけるように腕を組み、こいつをどうにかしろと言わんばかりに後ろの夜見さんに目を向ける。




「はいはい、そこまで。店主が言うならこれ以上の交渉は諦めましょう。」


「むぅ」




夜見さんが言うならもう引き際なんだろう。私は最後のあがきとして店主をにらみつけながら彼女の後ろに下がる。すると彼女が今度は店主に向かって話しかける。




「そこで聞きたいんだけど、この町には宿屋が2つあると聞いたわ。もう片方の宿屋はここより安いの?」


「ああ、東の宿屋か。あそこは安いぜ。何せボロだからな。」




だが、と口を開きかけたところで店主のいるカウンターに何かの手がかかったのが見えた。




「お願い!ミサを助けて!」


「お、おい、リーシア。仕事中に出てくんなって何度も・・・」


「お父さんは黙ってて!」




その声の主は、ふんぬと声をあげると見えていた小さな手に力が入るのがわかり、ついにその顔が見えたかと思うとかわいらしい女の子がカウンターの上に乗り出し私たちの方を見つめ、先刻と同じ台詞を述べた。




「お願い。ミサを、助けて欲しいの。」




***




「それで、我々は今どこに向かってるのでしょう・・・」



あの後少女は、お姉ちゃん強いんでしょ?お父さんが言うんだから間違いないもん。ね?と言って強引に夜見さんの手を取り、そのまま宿屋を出て駆け足で引っ張っていくもんで、私も後ろに着いて歩いているところである。

宿屋を出てからそれなりに歩いただろう。途中見た時計台では夕飯時を過ぎていたのを確認している。目的地はまだ先だろうか。




「あとどれくらいで着くんですかー?」




少し距離があるが、前を歩く二人にダメもとで声をかけてみる。


案の定返事はなかったが、何やら目的地にたどり着いたようで、前の二人が足を止めた。




「ここは……」


「この町のもう一つの宿屋。ローレンの宿屋だよ。」


「ここが東の宿屋……あちらとは随分様相が違うようね。」




夜見さんが言う。これでもオブラートに包んだんだろう。私も正直同じ感想だ。ここは、西の宿屋“フィレーユ”と比べ、かなり古そうな建物で、今にも崩れそうだ。



少女が入り口のドアを開け、中に入っていくので私たちもそれに続く。




「ローレンおじさん、こんばんは。」


「おお、リーシアちゃん。」


「ミサを連れ戻す助っ人を呼んできたよ!」



えっへんと威張る少女を見ると、まだいいですよとは言ってませんが。なんて、言えなくなる。




「あまり状況がわかっていないので、とりあえず詳しくお話を聞きたいのですが…」




おそるおそるそう言うと、ローレンおじさんなる人はリーシアちゃんからこちらに目を移し、ぽつりぽつりと語り出した。







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