売れるもの売れないもの
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「さあ、もうそろそろ着くわよ・・・って、なにやってるの?」
声が聞こえて顔を上げると、ちょっと見ぬ間に先に進んでいた夜見さんがこちらを振り返るのが見えた。いつの間にこんなに離れていたのか。危ない危ない。
「夜見さん。これ見てください!」
いつもより少し声を張って、抱えている物をこぼさないようにとことこと近づき、おそるおそるリュックいっぱいの木の実やら植物の類を彼女に見せる。
「少しでも、そのぅ、冒険の足しになればと思ったのですが・・・」
ちらりと上目遣いに彼女の顔を窺う。
すると、これは・・・とその量に驚くや否や、一つ一つ手に持っては値踏みするように私の持ってきたそれらを見つめる。
「ちょこちょこ離れてると思ったら、こういうことだったのね。」
呆れるような、でもちょっと安心したような彼女の表情を見て、やはり、「顔は少し怖いけど面倒見の良いお姉さん」という私の見立ては間違ってなかったように思う。
「どうでしょうか」
私の問いに真摯に答えるべく、リュックをひょいと取り上げ地面に置くと、彼女もまた地べたに座り込んで本格的な品定めタイムが始まった。土地勘のない私が彼女の目の届かないところまで離れて探索、というわけにもいかないので、内心そわそわしつつも、私も座ってそれを見て待つことにした。
そして20分程経った頃、最後の一つであるいかにも硬そうな木の実を地面に置いて、ふうと一息ついた。どうやら品定めは終わったようだ。
「うーん、言いにくいけれど、お金になりそうなのはこの三つだけね。」
指さしたのは澄んだ琥珀色の石と、硬く、杖状に巻かれた謎の植物、それから中央に人の顔のようなものが烙印された楕円形の金属だった。
「といってもうち一つは、お金そのもの。この楕円のやつね。それから、こういう石は魔法石っていって魔力を補うのに使えるの。中を見てみて。」
言われた通りよく見てみると、なるほど、石の中央あたりにキラリと光る何かがある。
「これが、魔力ですか」
「正確にはそれを入れる器ってところかしらね。この中には微々たる量しか入ってなさそうだわ。」
そう言いながら彼女は石を太陽に透かして見る。
なるほど、こういう物を使って魔法が使えるように…なるだろうか。自分の未来にあまり期待はし過ぎないでおこう。
「最後にこの植物、特殊な技法で中のエキスを抽出すると、それが治癒効果をもたらす薬となるの。回復薬の素材ってことね。」
「ははあ。それって、自分達では出来ないんですか?」
「さっきも言ったけど特殊なスキルが必要なの。そういうのが得意な人がいないうちは、完成品を道具屋で買う他ないわね。」
「ううん…残念です。」
あれだけ集めて収穫はこれだけか。この先が思いやられるなあ。
私の落ち込み様が顔に出ていたのか、夜見さんはフォローするように笑いかけてきた。
「まあ、そんなに落ち込まないで。他に見つけてくれた物の多くが食べれる物だし、せっかくだからちょっと休憩しましょう。」
「そのまま食べれるんですか?」
「大体わね。それに、この子がいれば大抵は食べれるようにしてくれるわ。」
この子?と、首を傾げると、今まで夜見さんの後ろに隠れていたらしいその子が鏡合わせのように首を捻り、その半身が覗く。あれ、デジャヴ?
「ポコロン!!」
「着いてきちゃったみたいね。持ち主がいないのかしら。」
「ふむ、野生のポコロンだったんですね。」
「その表現が合っているかはわからないけど、とりあえずいたらかなり助かることも多いし、このまま連れていこうと思ってるんだけど、どう?」
「もちろん!大歓迎です!ポコロン、よろしくね。」
こうして仲間?が増えた私たちパーティは、少々の腹ごしらえを済ませ、また町へ向かって歩き出した。