☆クエスト1~パーティを組もう~
と、意気込んではみたものの、この果てしない緑はいつ終わるのだろうか。出発から数時間は経ったであろうに、一向に町らしきものは見あたらない。私のやる気ゲージはみるみる下がり、ついに地べたに座り込んで深くため息をつく。
そもそもこの世界に町とかあるの?実は私以外ヒトなんていなかったりする?そんなネガティヴな思考が頭の中をぐるぐる回る。
ああ、ぐるぐる回ってるのは、頭だけじゃなさそうだ。そういえばこっち来てから何も食べてない。いつの間にか目の前にいるたぬきもどきもおいしそうに見える・・・うん?
「ぽむぅ?」
私の動きを真似てきょとんと首をかしげる仕草にいつもならきゅんと癒されるものだが、今はそれどころではなかった。何故なら可愛い可愛いたぬきもどきさんの爪はぎゅんぎゅんに伸びていて、素人目にも”狩る者”のそれだったからだ。そして本来ぽんぽこりんでまん丸としているはずのお腹はぽっかりと開いていて、真っ暗なために中は見えない。きっと”お食事”を納めるブラックホール的な何かなんだろう。私は本能的に感じた。食べられる、と。
「ごめんなさい許してください命だけは!命だけは!!」
武器も魔法もない冒険初心者にはこれしかないとふみ、私は正座をして両手を合わせ、必死の思いで命乞いをした。たぬきもどき相手に効いているかは微妙なところだが。
「本当、おいしくないですよ!私!」
「何やってんの、収穫祭?」
「・・・へ?」
後ろからヒトの声がして、振り向くとそこには黒い髪を耳より高い位置のポニーテールで結った、凛とした顔立ちのお姉さんが半ば呆れたような顔をして立っていた。腰にかけている黒い鞘には、物騒な武器がしまってあるに違いない。いやはやそんなことより、
「お姉さん、あぶ、危ないです。まま魔物が・・・ここは私に任せて逃げてくだっひゃい!!!」
「よくその状況で私に任せてとか言えたわね。それに、」
お姉さんはちょいちょいとたぬきもどきを指さす。つられて私ももう一度そちらをゆっくり見る。
「ぴゃあ!?」
変わらぬ不気味な様相につい悲鳴を上げてしまったが、落ち着いてよく見ると、気づいたことがある。
「襲って、こない?」
「当たり前。何、あなた、新参者?」
新参者とは失礼な。こちらの世界に来たのはみんな同じタイミングなんじゃないんだろうか。
「失礼な、って顔してるわね。一応教えておくと、どうやらここに送られたタイミングはヒトそれぞれみたいなの。どういう原理かは知らないけど、それだけ負荷が大きかったってことでしょうね。」
「な、なるほど。」
納得いくような、だがしかし不公平な感は否めない。
「私が来た頃にはもう小さな町の一つや二つは出来ていて、生活基盤が作られ始めていたし、もうゆったりスローライフを始めているヒトもいるんじゃないかしら。」
完全に私は出遅れをとったということですか。さいですか。そして私はもう一つ、目の前の謎の真相を確かめるべく、質問をした。
「ところでこれは何でしょうか。」
ああ、と気づいたようにまたたぬきもどきに近づくと、あろうことかしゃがんでその頭に手を置き、にこりと笑ってこういった。
「これはね、農作業代行マシーン「ポコロン」
っていうの。」
ポコロン?農作業代行マシーン?ということは、
「ロボット、ですか。これ。」
「そうよ。今は稲刈りのモードね。とっても高性能で、ボタン一つでこの手の部分は切り替えが可能なの。」
ほら、と言うとお姉さんはヒトでいうところの肘の辺りを触った。すると、キュイーンと音が鳴り腕の形が変化した。うん、それはもう立派な桑の形をしている。
「かなり普及している物だから、知らないってことは本当に最近来たのね。安心した?」
こくこくと頷く。なるほど、つまりこのたぬきもどき改め「ポコロン」は”狩る者”ではなく”刈る者”だったわけですね。ははあ、この世界の技術の発展のスピードはすごい。私はまだ来たばかりだというのに。ずるい。そう思わずを得ない。
とはいえ、これはかなーりチャンスなのではなかろうか。
「あのぅ、お姉さん。つかぬことをお伺いしますが、今、旅のお仲間は募集してませんか?」
「してないけれど、いいわよ、別に。近くの町まで案内くらいならしてあげる。」
「で、出来ればもう少し長く・・・」
「何か旅の目的でもあるの?」
「目的、といいますか。とりあえず生きて、クエストを進めていきたいなあ、と」
「それは、随分長い旅になりそうね。」
ちょっと無理言ってしまっただろうか。でもお姉さん、私なんかよりずっとこの世界のこと知ってそうだし、今後のためにもぜひともお仲間になっていただきたいところだ。
肝心のお姉さんはというと、右手を顎に当ててうーん、と唸って早五分程。随分悩ませてしまっているようで、申し訳ない気持ちが募る。
「決めたわ。着いてく。」
「!?あ、ありがとうございます!」
「ただし、私にも旅の中でやらなくちゃいけないことがあるから、その時は手を借りるわよ。」
「もももちろんです!お姉さま!」
目をらんらんとさせ、たったいま仲間になった彼女を見上げる。
「お姉さまって・・・私の名前は月影夜見。夜見って呼んで。」
「夜見さん。私は、私の名前は有栖川雪兎です。これからよろしくお願いします。」
「よろしくね、アリス。」
そこ、とるんだ?とツッコミそうになったが、初めてこちらで出来た仲間がつけてくれたあだ名だ。大事にしよう。と思い、複雑な気持ちは一旦胸にしまった。
こうして順調に一人目の仲間、月影夜見と出会い、ほくほくとした心持ちで歩き出す。
これは、素敵な冒険になる予感。
「そっちは、森。町はあっちよ。」
全くもう、と怒られてしまったけど、ちょっぴり姉妹みたいなやりとりが出来てそれもまたうれしい。パーティは三人かららしいから、この調子で良い仲間と出会えるといいなあ。
「行きましょう、夜見さん!早く早く!」
はぐれないように夜見さんの手をとって走り出す。
町とはどんな出会いが待っているだろう。胸に期待を抱きながら冒険は、続くのだ。