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英雄を夢見た僕のギフトではとても英雄になんてなれそうにない

作者: 干支猫

僕の夢は英雄になることだ。


夢の為に毎日こうやって剣を振っている。いつか英雄になるために・・・。魔王を倒し、世界に平和をもたらせる。そして・・・。


僕は今日14歳になった。

来年15歳になればギフトを貰える。


『ギフト』、それは神からの贈り物だ。


人間誰もが必ず貰える神からの贈り物、それがギフト。

それは15歳になった時に掲示される。自分にしかその内容はわからないギフト。


ギフトは人間がたった1つだけ貰える特別な力。

世の中には色々なギフトがある。



例えば・・・。


『料理』…料理の能力があり、このギフトがあれば大概の人は料理人になる。

『剣士』…剣の能力があり、剣を扱えば相手が剣士でない剣の戦いならばほとんど打ち負かせる。このギフトがあれば騎士団に入団するか、冒険者になっている場合が多い。

『魔法士』…魔法の才能があり、強力な魔法を扱える。このギフトがあれば魔法師団に入るか、同じく冒険者になっている人が多い。

『鍛冶』…鍛冶の才能があり、このギフトがあれば一流の武具が打てる。


けれども、あくまでもギフトは才能が特化しているだけであり、ギフトに応じた人生を必ずしも送らなければならないわけではない。人生を決めるのは自分だ。

剣士のギフトを持っている人が別に魔法士になってもいい。けれども、それはその人には向かない。ただそれだけの話だ。


僕のギフトはきっと英雄になるために必要な物のはずだ。必ずそうなるだろう。だから俺はこうして毎日剣を振っている。正確にはそう信じているのだ。


英雄になるためのギフトをもらってから鍛錬していたら遅いだろう。だからこうして今の内に目一杯鍛錬しておく。


「カイーン!」

「おお、ナナ!」

「ほら、お昼ご飯!…もう!今日も懲りずに剣の稽古ばっかり!」

「だって、僕の夢は知っての通り、英雄になることだからね!ああもう来年が楽しみで仕方ないよ!僕はどんなギフトが貰えるのだろう!?」

「ふふっ、カインは昔っからそればっかりだね!」


僕の夢は、英雄になることだ。………そして、英雄になった後は、ナナと結婚する。


ナナは言った。幼い頃に。


「いつかカインが英雄になったら、私をお嫁さんにしてね!」

「当り前じゃないか!僕に任せて!!きっと英雄になって、ナナちゃんを迎えに行くよ!」

「うん、楽しみに待ってる!」


幼い頃に交わしたその約束。


ナナと僕とのその約束だけど、ナナは僕のことを好きだ。


それはあれから8年。こうしてナナとの関係は変わっていない。ナナのお願いを聞いてから僕は鍛錬に勤しんでいた。


もう何年もナナからは言わないけれど、ナナは僕が鍛錬を始めたあの時から「私の為に頑張ってね!」と何度も何度も何度も僕の鍛錬を見ながら言っていた。そのナナの笑顔を見る度に僕はナナの為に頑張れた。


そうして、迎えた運命の日。


僕はギフトを貰えた。例え『勇者』のギフトではなくても、『剣士』や『戦士』のギフトなら僕は魔王を倒す為に進んでいく。


「えっ?」


僕はその感覚をもう一度感じ取る。


「えっ?えっ??なにこれ??」


やっぱり間違いはないみたいだった。

僕のギフト、それは・・・。


「・・・・・サポート・・・」


そう、僕は神様から『サポート』のギフトを受け取ったのだった。


「・・・サポート、これで英雄になれるのかな?」


そのギフトは他者の能力を格段に引き上げるといったもの。およそ主役級の活躍は期待できそうもない。


「どうしよう・・・。いや、けどこれで勇者のサポートをすればいいんだよ!」


僕は思いついた。

主役になれなくても、勇者の隣でサポートすればいいんだよ!


それから僕は勇者の横に立てるように鍛錬した。


それから3年・・・・・・・。


僕は王都の酒場で働いていた。

料理長の料理のサポートしていたのだった。


「カイン!お前が来てくれてから俺の料理の評判は鰻登りだぜ!!すげえな!そのサポートのギフト!!!」

「親父さんの力になれて僕も嬉しいです」


そう。

僕はこのサポートのギフトを使って、料理長の料理をサポートしていた。そして僕のサポートのギフトで料理長はその料理のギフトを飛躍的に向上させている。結果、王都で評判の酒場になっていた。


僕は決して諦めていたわけじゃなかった。

そう、この3年間は・・・。


魔王を倒す勇者をサポートするために剣の鍛錬を積んでいた。


そして一年後、剣の腕試しに王都の武闘大会に出場した。必死に鍛錬した結果、2回勝てた。けれども、そのあとはボコボコにされて負けた。惨敗だった。


諦めずに二年後、剣の腕は向上した。もう一度武闘大会に出た。次は3回勝てた。けれどもボコボコにされた。よし、1つ上がった。来年こそは!


意気込んで臨んだ三年目。僕は一回戦で負けた。僕に勝った相手は二回戦で負けた。


諦めた。もう諦めた。頑張って、頑張って、頑張った結果がこれじゃあ勇者の横になんて到底立てない。仮に立っていたとしても僕なんてすぐに殺されて終わりだろう。


そう思った僕は村に帰らず、王都の酒場でこうして働いていた。料理長の料理のサポートをして。


そんな人、いっぱいいるさ。僕だけじゃない。希望通りのギフトを貰えなかったとしても、夢を持ってギフトを活かせない職に就いている人は一杯いる。


僕はサポートのギフトを活かせている。そしてこうやって王都で評判も良くなって給金を貰っている。それでいいじゃないか。


・・・・・そうした生活が半年続いた。


そして、いつもの様に酒場で料理長の料理のサポートをして、店の裏の路地にゴミ捨てをしていた。


「やっと…、やっと見つけたわ!カイン!!!」

「えっ!?」


呼ばれたので声がする方を振り向いた。

そこに立っていたのは幼馴染のナナだった。


「もう!王都の武闘大会に出るって言って出て行ったきり全く帰って来ないから心配したじゃない!」


ナナはそう言って不安そうな顔をして涙を流して僕に抱き着いた。僕はナナの背中に腕を回そうかと思ったのだけれど、踏みとどまった。


「・・・ごめん、ナナ。僕は英雄になんてなれないよ。3年、必死に英雄になれるように頑張ったのに、全く結果が出なかった。こんなんじゃナナに会わせる顔なんてないよ。とても村に帰ることなんてできなかった」


僕はナナに抱き着かれるまま、そう答えた。


「いいよ!別に英雄になんてならなくたっていいよ!!カインがいればそれでいいよ!!!!!」


ナナは顔を上げ、僕を見上げていた。その顔はぐしゃぐしゃに崩れていた。綺麗なナナの顔が・・・。


「・・・僕は帰れないよ」

「どうして!?」

「僕の夢を知っているだろう?僕は英雄になりたかったんだよ」

「知ってる!いつも見ていたから知っていたよ!!」


「・・・だから、帰れない」


そこでナナの僕を見る表情が変わった。僕が変な意地を張っていることがわかったのだろう。


パチンッ!!


痛烈な鋭い破裂音が路地裏に鳴り響いた。


「っ!」

「このバカカイン!!もう知らない!!!」


ナナは僕に回していた腕を離して路地裏から大通りに向かって走っていた。そして一度だけ振り返り、その表情は寂し気に僕を見ていて、大粒の涙を落して雑踏の中に消えて行った。


「これで・・・、良かったんだよ・・・・・」


僕はナナの期待に応えられなかった。サポートという地味なギフトで僕の人生は変わってしまった。


そしてナナのいない大通りを見つめながら店の中に戻る。


「おい、カイン!早くサポートしてくれ!!お前がいないと追い付かねぇや!」

「…はい、親父さん、今行きます」


僕はナナのことを引きずりながらも仕事に戻った。これで良かったと自分に言い聞かせながら。

僕のサポートがなければ料理長の親父さんは今の店を回せるだけのスキルが届かない。僕のサポートは対象のギフトを飛躍的に向上させるようだった。


「おやおや、暗い顔してどうしたんじゃ?」


店に戻った僕に話し掛けて来たのは老人だった。老人にしては眼光鋭く、どこか見透かされているような不思議な感じがした。


「いえ、僕には夢があったんですが・・・」


何故か僕はその老人に、これまでのことを全て話した。普段なら話さなかったかもしれないけれども、その日はナナに思いっきり頬を引っ叩かれたことにより、感傷的になっていたからかもしれない。それとも、老人の眼光が鋭かったせいかもしれない。


「そうか、ならば儂のサポートをしてもらえんかの?」


老人はカインの話を全て聞き終わった後、そう言ったのだった。


「えっ!?どういうことですか??」

「いやなに、主の話を聞いて、面白いギフトをもっておるな、と思っただけじゃよ。サポートのギフトなぞ、これまで聞いたことがなかったからの」


そうして、老人は僕に、老人のギフトのサポートを依頼した。


「別にいいですよ。今は特に何かをしたいということはないので」


そして僕は老人のサポートをする生活を始めた。そして王都を出ていた。




――――――――10年後


僕は王都に帰って来ていた。

群衆から割れんばかりの大歓声を浴び。


だが、歓声は僕に対して行われているわけではなかった。


僕の横に居る、『勇者』に対して送られていた歓声だった。

僕は勇者の横に立っていた。魔王を倒したその勇者の横に。

僕は勇者が魔王を倒すのをサポートしてこの王都に帰還したのだった。


何故武闘大会で結果を出せなかった僕が勇者の横でサポートできたのか?ギフトを受け取った時に定めた目標を達成できたのか。


それは、あの時の老人をサポートしたからだった。


あの老人のギフトは『英雄指導者SS』だったのだ。そして、勇者の、僕の横に立っている勇者の師匠だったのだ。


勇者は、幼い頃にこの老人に師事され、勇者になったのだ。『勇者』のギフトを持っている勇者を師事するのだ。ただの指導者では務まらない。


そして、その勇者の師事を終え、王都で評判の酒場で飲んでいたところに僕を見掛けた。その事情を聞いた後に、サポートのギフトに興味を惹かれたのだった。儂がサポートしてやればどれほどのものになるのかを・・・。


そして、僕は老人をサポートした。サポートされた老人は僕を師事した。結果、英雄指導者SSのギフトをサポートすることによって僕は1人で鍛錬するよりも、それを遥かに上回る程の師事を得られた。それは勇者を師事した時と同程度の能力を発揮していた。


何故『英雄』指導者が僕を師事できたのかだが、これは老人の恐らくといった見解だけれど、僕のこのサポートのギフトはどうやらユニークギフトのようみたいで、だからこそ、同じくユニークギフトの老人のサポートをその効果での師事を得られたとのことだった。


そして、王国民が歓声を送る中に、僕は1人の女性の姿を見つけた。


僕がその女性を見間違える筈はない。その姿を見つけると、いつの間にか走り出していた。僕が走って来ることに気が付いた女性は後ろを向いて、僕から逃げるように走り出した。


「ちょ、ちょ…と、ま、待ってって!・・・ナナ!!」


僕は、英雄を一目見るために集まったその観衆の中を搔き分けるようにその女性を追いかけた。


そして、追い付くとその女性の腕をしっかりと掴んだ。


その女性は、僕の幼馴染のナナだった。

しっかり女性らしくなって、僕が思っていたように、とても綺麗な大人になったナナ。


「ひ、久しぶりだね…」


ナナは僕の方を見ないでそう言った。


「どうしてこっちを見ないの?」

「だって、あんな別れ方をしたのに、次は私の方がカインに会わせる顔なんてないよ・・・」


ナナは10年前、僕の顔を引っ叩いたことを気にしていた。


後から聞いた話なのだが、ナナは僕を叩いたことを後悔して、謝ろうと僕が働いていた店を訪ねたことがあるみたいだった。


けれども、僕は老人と共に既に王都を離れていた。ナナは王都中を探し回ったけれど、結局僕を見つけられず諦めていたのだった。

そして、いつかカインに会えると信じて住まいを王都に替えたのだった。


ところが、次にカインという僕の名前を耳にしたのは、それから数年後。勇者のパーティーの中に、カインという名前の人間がいると聞いた時だった。


ナナは名前が一緒の別の人物なのだろうと思ったのだが、次に耳にしたのは、そのギフト『サポート』だった。


ナナはそこでその人物が自分の知っているカインなのだと確信したのだった。


どうして僕が勇者と行動を共にしているのか疑問に思ったそうなのだが、そんなことはどうでも良かった。カインの居場所が分かった喜びと、僕が勇者と共に旅をしている喜びを感じることができたのだった。


そして、ナナがその話を聞いて、更に数年後・・・。


勇者のパーティーがとうとう魔王を討ち滅ぼしたと王都に噂が広がった。


そこには僕の名前もあったみたいだった。凄腕の冒険者でその稀有なギフト『サポート』を使って勇者のサポートをした。勇者のその右腕として、といった感じでナナの耳に入った、と。


ナナは一目だけ見ようと思ったようで、その人物が自分の知っている僕なのかを、その目で見てみたかったみたいだった。


そして僕だと確信したと同時に僕と目が合って、慌てて逃げだしたのだった。


「ナナ・・・、僕は・・・・・夢を1つ叶えたよ」

「凄いね、カインは。・・・・・・・・おめでとう」

「ナナ、僕にはもう1つ叶えたい夢があるのだけれど、聞いてもらっていいかな?」


「えっ!?」


ナナは何かまだあるのかと僕に向かって振り返った。そこで僕はナナを抱きしめた。


あの時できなかった、僕の弱さが原因でできなかった、その細い身体を抱きしめるという、ただそれだけの行為を・・・。


突然抱きしめられたナナは、ひどく驚いた様子で、「ど、どうしたの?み、みんな見ているよ!」と慌てて僕の腕から逃れようとする。


嫌がっているわけじゃない。照れているのは僕にはわかる。いつもナナを見ていたのだから。空白の10年があっても、ナナと今会話してわかった。ナナは何も変わっていない。恋人の証もその身体に付けていない。ナナはまだ1人だ。


大勢が見ていた。勇者の一行も、仲間である僕を見ていた。


僕は老人に師事され、勇者に老人から僕を紹介された後、旅を共にしていた。その魔王を討伐する旅の道中に、僕は身の上話、好きな女性が国にいるという話をしていたのだった。


そして、仲間はナナがその女性だとさっき知ったのだった。僕がナナを追いかけた時に。


「ナナ・・・、僕はあの時の約束通り、英雄になったよ。だから、・・・・・僕と結婚してくれないか?」


僕はナナにプロポーズしたのだ。


ナナは突然僕にプロポーズされたことで驚いたのだが、数秒後には大粒の涙を流して「はい」と僕の耳元で小さく返事をしていた。そして僕の背中に腕を回して、僕たちは人目もはばからず口付けを交わした。


その瞬間、僕たちのやりとりを静かに見守っていたその群衆は一斉に盛大な歓声をあげたのだった。


あの時、不安で泣かせたあの夜に、怒らせ流させた涙を・・・・・・、次は喜び涙する。3度目の涙でやっと僕はナナを安心させられた。


そして、僕たちに歓声をあげた人達は、魔王を倒した勇者を出迎えるために来ていた人達だ。そしてその主役はもちろん勇者だ。


けれども、ほんの短い時間だけれど、『サポートが僕のギフトだけれど、今この瞬間だけは僕は主役になった』のだった。


ほとんど自覚はなかったのだった。僕は目の前のナナにだけ集中していたので、その人生にたった一度だけ主役になれる時間が気付かずに過ぎていったのだった。


そして、その後は勇者の魔王討伐の話が中心になり、国中がその話題で盛り上がった。


僕は隅っこでその話が語られているのをただ見ていた。左手に繋がれたそのナナの手を握りしめながら。


次は、ナナの生活を、人生を、サポートして生きていくのだと、そう思う。


それは、僕がギフトのサポートできる『僕たちの人生』というギフトではないけれども、もう僕にはギフトをサポートする必要なんてない。


ナナの全てをサポートして生きていく・・・・・。



今他の作品を連載中ですが、ちょっとなんとなく思いついたので書き上げてみました。


良かったら連載の方もよろしくです!

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[気になる点] 28、29歳でお互いに結婚できる状況であること
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