表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

日向に老婆 日影に向日葵あり

作者: いわなです




 ふと、窓の外に目を向けた。

 じりじりと太陽の光が照りつける夏の昼、屋根もない吹きさらしのベンチに一人、老婆が座っているのが目についた。

 そこは先月廃線になったバス停だった。

 老婆はそこから動く気配はなく、しきりに時計を気にしているようだ。

 バスが廃線になったことを知らないのだろうか。少し思い悩んだが、もしかしたら人を待っているのかもしれないと、手元のスマートフォンに意識を戻した。


 その後、特にその老婆のことを思い出すこともなく、家の中でゆったりとした時間を過ごしていると、バイクの音が聞こえてきた。夕刊の配達のようだ。

 夕刊を取りに外に出ると、クーラーや扇風機のある室内とは違う、高い湿気と射すような日光を感じる。

 夕刊を取り出し、家の中に戻ろうとすると、話し声が聞こえた。

 振り返って庭の外に目を向けると、新聞配達員と昼に見たあの老婆だった。

 話の内容が気になり、一歩踏み出すと、二人はお互いに会釈をして、その場を後にした。


 とぼとぼと、肩を落として歩いていく老婆を見やる。

 その姿が見えなくなってもなお、新聞を手にしたまま立ち尽くしていたが、ふいに大きくなったセミの声に意識を引き戻された。

 家の中に入ると、せっかく取りに行った新聞を読むこともせず、玄関に座り込んだ。

 あの老婆はやはり、バスを待っていたのだろうか。

 自分があの時、声をかけてさえいれば、炎天下の中で来るはずのないバスを、あの老婆が何時間も待つことはなかったのではないか。

 たらればを考えたところで意味はない。

 それでも考えずにはいられない。

 胸の奥から湧いてくる、罪悪感にも似た不快感から意識を逸らそうと周囲に目を向けると、ついさっき取ってきた新聞の天気予報欄が目についた。

 明日もまた、一日中晴れるらしい。


 ふと、窓の外に目を向けた。

 まだ外は明るいが、かなり日が傾いてきている。

 昼間は老婆にばかり目がいってしまい気が付かなかったが、庭にある数本の向日葵が少し萎れているようだ。

 新聞を置いて再び外に出る。

 明日の向日葵はきっと、背筋を伸ばして生き生きと咲き誇っていることだろう。




最後までお付き合いいただきありがとうございます。

タイトルが俳句になっているのですが、5・7・5の定型を崩した句またがりの対句表現になっているので、俳句と言われてもなかなかピンと来ないかもしれません。


俳句や小説について感想などありましたら、参考にさせていただきますので、どうぞよろしくお願いします。


なお、俳句に小説を添えてみました第2弾を掲載しましたので、よろしければそちらもお読みください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 日向に老婆日影に向日葵あり これは面白いと思います。 語調を整える方法はいくつかあります。 例えば、日向をひむかいと読む。 例えば、「日向に老婆」を上五の字余りとして整える。 日向に老婆日…
[良い点] この物語に美しさを感じた。短編というのがもったいないぐらい、素晴らしい。 [一言] 私もなろう小説で「みちのくの星空の下に」を連載しています。よろしければ読んでいただけると幸いです。 お…
2018/07/03 21:10 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ