逃走
いきなり目が覚めたような感覚だ
さっきまではまるで夢を見ているような感覚だった
思い出してみると、多分今食べている殻から自分は産まれて、お腹が空いて食べるものがこれしか無かったから殻を食べているのだろう
でも、なぜ自分は殻という存在を知っているのだろうか?なぜ自分は食べるという存在を知っているのだろうか
自分ってなんだ?
なぜ知っている?
なぜ?なぜなぜなぜなぜなぜなぜな
ドスッ、ドスッ
グギャォォォッ!
本能が逃げろと叫んだ。だから逃げた
だけど何から逃げているのか知りたかった。だから後ろを見てしまった
まず感じたのは大きな体
とても大きな体だ
五メートルはあるのではないか。五ってなんだ。メートルってなんだろう、いや、今はいい
そして恐ろしい顔、ギラギラと獲物を狙っている目に、ニチャ、と大きく開かれた口。大きな牙が上の犬歯から生えている
口からダバダバと涎が出てて、地面についたら煙が出ている。酸性なのだろうか
ゴツゴツしている岩のような外皮。筋肉の塊の四肢
見ているだけで本能が逃げろと連呼している
それなのに、そんな恐ろしい生物が自分を見ている
先程まで逃げろと言っていた本能が、もう諦めろ、そう言っているような気がした
アイツとは五十メートルほど離れているのに一足で五、六メートルは近づいているだろう
本能がそう言うのも無理はない
だけど、こんな訳もわからない所で死ぬのはごめんだ
逃げる。必ず逃げ切ってやる。こんな訳のわからないまま死ねるわけが無い
走った。ただひたすらに走った
後ろで何回も岩か木を破壊しているような音がしたが気にしてはいられない
走れ
走れ走れ
走れ走れ走れ!
脚が千切れるまで走れ!
どのくらい走っただろうか
もう、意識が朦朧としている
音が何も聞こえない。息が苦しい。腹が減った
もういないんじゃないか
後ろ見ても大丈夫なんじゃないか
逃げ切ったんじゃないか
そう思い後ろを見ると
真後ろにイヤらしく笑みを浮かべるアイツが
絶望した
アイツはずっと遊んでいたんだ
アイツにとってはオレはオモチャだったんだろう
アイツから見たオレはさぞ滑稽だっただろう
悔しい。悔しい!
オレがもうすぐ死ぬ事ぐらいわかっていた
だから、死ぬならせめてコイツに一泡噴かせてから死ぬ!
「ガアァッ!」
直感的に手が動いた
オレの手は三本の指に鋭そうな爪がついていた
これなら少しは、そう思い振るった
しかし
カンッ
と音がして爪は弾かれた上に痛みを感じる。ヒビがはいったのかも
傷は付けれなかったが不快そうに顔をしかめた
「グガァア!」
アイツが腕を振る
バカみたいなスピードだった。全く見えなかったが体が勝手に動き、上半身と下半身が別れることはなかった
だけどどう見ても重症だ。お腹がパックリ裂けている
血液がドバドバと出て行く
こんな訳もわからない所で死にたくない
いやだな
ニヤニヤと嗤いながらアイツが近づいてくる
その時、遠くからピカッと何かが光りアイツは拘束された
あれは、ワイヤー?
疑問に感じている間にも何本かアイツにワイヤーが刺さり、絡まる
切ろうとしているがなかなか硬いのか全く切れていない。だがそれも時間の問題だが
ワイヤーに拘束されているうちにどこからか「撃てっ!」という声が聞こえてきた
そして四方向から銃撃やら光の光線やら爆発などの攻撃が行われた
あんなに恐ろしかった奴が攻撃を受けていく度に、目に見えるほど弱っていく
一斉攻撃を四回も受けたらもうアイツは呆気なく死んでいた