拾った娘が男の娘で、更にはヤンデレに育ってしまった
辺境として有名な街<セハクラ街>。
至って平凡な街なこの街のとある二階建ての家。
パタパタと階段を駆け上がる軽快な足音がなる。
その足音を鳴らす主は頭には花の髪飾りをし、ストレートな金髪は高級な絹糸のように輝いている。身体つきはとても細く、肌は雪白でシミひとつない。鼻はすっと美しく、唇はプリッと艶のいい桃色。くりっとした目は翠色で宝石のように美しく更にはその耳はピンっと尖っている。この美少女はエルフであった。
その顔を喜色満面にしながら、一度扉の前で止まり、近くの窓で変なところはないかと髪を弄って確認し、中に入る。
「お父さん、朝だよー」
ガチャリとドアを開けるがベッドの上に包まる男性は起きる気配がない。
「…おきてないのかな? 」
美少女はそのままこそこそと同じ布団に入る。
「えへへー」
近くに体温を感じだらしなく顔を緩める。そのままスンスンと匂いを嗅ぐ。ここまでは日課だ。いつもならここで男性が起きるが今日はまだ起きていない。
「…今なら大丈夫だよね? 」
そのまま唇を、男性の唇に近づける。
「あぁ、私のファーストキスは今ここで…」
「やめなさい」
「あっぷ」
キスする直前に手で顔を抑えられる。
「お父さん、いつ起きたの? 」
「あれだけ隣で騒がられば嫌でも目が醒める」
「ぶー、しょうがないなぁ。もう朝だよ? ご飯だって出来たんだから冷めないうちに食べないと」
「そうだな」
茶髪の、髭残しのある男性は起き上がる。
「おはよう、ミズキ」
「おはようお父さん」
いつも通りの挨拶。だが美少女は心底嬉しそうに頰を緩めた。
「ところで何だその姿は? 」
「何って裸エプロンだよ? 男の人ってこういうの好きでしょ? 」
美少女ーーミズキはベッドから降りるとくるりと振り返りポーズをとる。ミズキが身を包むのはピンク色のエプロンのみで他は一切身につけていない。そのまますすっと裾を掴むことでちらりと見えるか見えないかの隙間をつくる。更には健康的なふとももを見せつけるのも忘れない。顔をほんのり赤らめるのは恥ずかしいからだろうか。
男の夢である光景が目の前にはあった。
だが見せられた男性は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
「そうだな。女がそれをやるのならば良かった。だがお前は男だろう」
誰よりも少女らしいエルフ、ミズキ。だがその性別は男である。
2年前、俺ことバイセ・シャルクはとある国に使える騎士だった。騎士副長とそれなりに偉い立場の人間でもあった。腕もそれなりで魔獣を一閃でなぎ倒すことから、白銀の鎧と合わせて<銀閃>と呼ばれるまでになった。正直恥ずかしい異名だったが皆が囃し立てるので悪い気はしなかった。
だが、唯一不満があったのは騎士団は野郎所帯であった為出会いが全くなかったことだ。
更には俺の騎士団の隊長。女の癖に誰よりも男らしく、そして紳士だった。むさくるしい男たちよりも若く優しい隊長は、まさに物語に出てくる王子様のようで数少ない王宮で働くメイドたちを魅了した。だからいつも女に囲まれていた。女なのに。
それを間近で見て、仲間と共に血の涙を流したことも少なくない。
そんなある日、隊長と共にいつも通り王都を警備していると暴漢たち絡まれている婦女子がいて俺は颯爽と暴漢たちを捕縛した。
するとなんと! 助けた婦女子が俺にお礼がしたいからこの後お食事でもと誘われた。隊長は訝しんだようだが、すわ俺にも遂に春がと若い俺は舞い上がった。
だからだろう。
罠だと気付かず俺はほいほいとひっかかってしまった。
だって、仕方ないじゃん。良い雰囲気になって、一緒に酒を飲んで「今夜帰りたくないの…」とか上目遣いで言われたらそーゆー事だと思うじゃん。
結局それは俺を疎ましげ思う連中の策略だったようでことに及んですらいない間に、部屋に押入られ拘束された。
あれよこれよという間にやってない事まででっち上げあれ騎士副長の役目も解任され、辺境として有名な<セハクラ街>に更迭されてしまった。
隊長の「女は時として魔獣よりも怖いぞ」という言葉が痛いほどそのとき理解できた。
純粋な男心を弄ばれた俺は悲しみと失意に満たされた。
同じ過ちをするものかと山で修行を行なっていた時、俺はミズキと出会った。
山中で倒れていたミズキはボロボロで周りを魔獣どもに囲まれていた。すぐさま俺は魔獣を一閃し、薙ぎ倒した。その後行き場のないミズキを俺は家に向かい入れた。そこに下心はなかった。ほんの少しばかり可愛らしい花を見て心の傷を癒したかったくらいだ。
当時のミズキはまだ今よりも幼く、髪も長かったから女だと思った。…思っていたんだ。
「いっただきまーす」
「…いただきます」
俺は嬉しそうにパンを頬張るミズキを見る。
片手にはポストに入っていたチラシを読み、裸エプロンだったが今は着替え、フリフリのフリルのついた黄色いワンピースを着ている。何処からどう見ても女の子にしか見えない。
まぁ、現実は男だが。
「ね〜ね〜! すごいよこれ! 街の工房がまた新しい衣装を販売したんだって。いいなぁ〜、お父さん私これ欲しい! 」
「ダメだ。お前は男だろう。もっと男らしい、防具や武器を見なさい」
「え〜、だって男の人が好む防具とかってどれも厳つくて可愛くないじゃん。もっとフリフリのフリルとか付いていて露出度が高かったら良いんだけど」
「身を守る為の鎧なのに肌面積増やしてどうするんだ。とにかく駄目なものは駄目だ」
「ぶ〜。…パ〜パ、お願い? 」
「ヤメロォ! お前がまだ男だと知らない時にそう言われて感動のあまり咽び泣いた俺を今すぐ殺したくなる! なぜ俺はお前を女の子だと思ってしまったんだ…! 」
「ひどいなぁ。私は今も可愛い女の子じゃない」
「女には生えていない! 」
「ナニが? 」
「ナニがだ! 」
頭を抱える俺。
くすくすと笑うミズキは何度も言うが見た目だけなら本当に女の子にしか見えない。
何せミズキは美人だ。元々美形の多いエルフだがその中でも輪をかけて美しい。男だけど。
この料理だってミズキが作った。どれもこれも絶品かつ手間のかかるやつばかりで相手のことを思っているのが分かる。きっと結婚でもすれば良い妻になるだろう。男だけど。
十人中十人が選ぶ(見た目は)美少女、それがミズキだ。…男だけど!!
さてここで問題がある。俺は結婚をしたい。歳ももう27歳と結婚適齢期としては遅いので焦りもある。
だが幾ら息子と言い張ろうと女を上回る美貌を持つミズキが側にいて、自らと比べない女性がいるだろうか? 答えは簡単いないはずがない。
したがって俺が告白しようとも殆どの女性が気後れする。
酒場の女の子に告白した時も「私はミズキさんみたいに美しくないし、それにバイセさんにはミズキさんがいるじゃない」と断られる始末。そんときの俺は家に帰ってやけ酒した。
俺は女の人がいいんだ! 決して男が良いわけじゃない!
ミズキといる限り俺は結婚できないだろう。
しかしミズキは俺の元から離れるそぶりはない。…一度出て行かないかと婉曲に伝えたらこの世の終わりみたいな顔をされたから俺からはもう言えない。
エルフの寿命は数百年。つまりミズキもまた向こう数十年はこの美しい容姿のままということになる。このままでは俺は一生独身で過ごすことになる。
なんて事だ。俺の息子のせいで、俺のもう一人のムスコが使われることなく死んでしまうのか?
だが俺にはまだ希望がある。
「すいませ〜ん、バイセさんいますかぁ? 」
「は、はい! ただいまっ! 」
「あっ、むぅ」
最近隣に引っ越して来たレミアさん。
彼女はミズキが男と知って尚普通に接してくれる聖人だ。黒い髪に、柔らかい雰囲気。美人だしそれに胸も大きい。好みだ。正直めっちゃムラムラする。
俺は扉を開ける。
「あ、よかったですいらっしゃって。こんな朝早くにすいません。あの、実はですね。パンを焼いたんですけど、つい焼き過ぎちゃって…。あの宜しければ貰ってくれませんか? あっ、ご迷惑じゃなければなんですけどっ」
モジモジと上目遣いに、顔を赤らめながらこちらを見上げてくるレミアさんは凄く可愛くて。
決めた。俺、告白する。
決意を抱いた俺は早まる鼓動を抑え、告白に踏み切ったーー
☆
私の父さんは強くて、優しい。
エルフは森と共に生き、自然と精霊とともにあるがままに暮らす気高い種族だ。
だけど私は男なのに女みたいに振る舞うから仲間からは異端で異常とされた。私が同世代の他のエルフの女の子よりも可愛かったのもいけないかもしれない。おかげで男のエルフからも告白された回数は十じゃきかない。このままではエルフ存亡の危機と、私は里から追い出された。食料とかは最低限の仲間としての同族意識から与えられたけどそんなの何の役にも立たない。
空腹と疲労で倒れ魔獣に囲まれた時はもうダメだと思った。
あぁ、私はこのまま死ぬんだと。
そんな時、お父さんと出会った。お父さんは周りを囲む魔獣を手に持つ剣で一閃するだけで倒し尽くした。すごくかっこよかった。
その後私はお父さんの家に居候し始めた。それはとても幸せに満ちた時間だった。私の心が段々と恋心に変わっていったのは当然の帰結だと思う。
お父さんはそれくらいカッコいい。
ただ、私のことを女だと勘違いしていたのはいただけないけど。あの時の狼狽っぷりは半端じゃなかった。いいじゃない、私は男の娘だよ? 愛に性別は関係ないの。
ないの!
お父さんに関しては全て大好きな私だけど一つだけ多いに不満がある。それはお父さんが惚れやすいということ。ちょっと女性に優しくされたり、気があるそぶりを見せられたらすぐ勘違いする。
前に女性のせいでこんな辺境に飛ばされたって来たって聞いたのに全然懲りてない。ぷんぷん。
女なんておっぱいと穴があるだけじゃん。胸はないけど私にだって穴はあるし。…あるし。
「あの、レミアさん俺…いや、私は」
おっとあれはいけない。父さん告白するつもりだ。何回も見てきたから分かる。父さんは元騎士だったせいか重大な話をする時は「私」になり、キリッとした顔になる。正直すごくカッコいい。
でも私にしてくれたことはない。私はいつでもウェルカムなのに。
何はともあれ、その先の言葉を続かせない為に私は割り込む。
「お父さん、今日はモホさんとの約束があったでしょ? 行かなくて良いの? 」
「えっ、あ。だ、だが」
「また怒られたいの? 今度遅れたらお父さんのベッドの下にある本ーー」
「すぐに行ってくる! すまない、レミアさん。帰ったら大切な話があるんだ。少しだけ待っていてくれ」
「えっ、あ。はい! 」
さりげなくあの清純を装うビッチの手を握る。
むぅ。あんな年増の手より私の手の方がすべすべなのに。あんな清純ビッチの手に触れるなんて。後でお父さんの手を消毒しなきゃ(使命感)
お父さんは大慌てで出ていった。
「バイセさんもお忙しいのですね。あ、ミズキさんもパンいかがですか? 自信作なんですけど」
「そーゆー演技は良いよ。で、本題は何? 」
その言葉に清純ビッチの先ほどまでの柔らかな雰囲気が消え去り、鍛錬を積んだ戦士特有の雰囲気になる。
「…バレていたか。まぁ、いい。私は王直属の隠密部隊<白百合>の一人だ。王の密命を受け、この地へとやって来た」
「あっそ。そうだろうと思った。今時パン焼きすぎたからお裾分けとか時代遅れにもほどがあるし。どうせまた王からの戻ってくれないかの要請でしょ? 」
「そうだっ。<銀閃>ことバイセ・シャルクは今戦争中の我々の国には必要不可欠だ。既に罠に嵌めた女と貴族は断罪した。後は彼に戻るよう通知すれば良いだけなのにお前が邪魔をするせいで全く上手くいかない。お前のせいで一度直接要請に行った使者が帰って来たと思ったら『おれ…いや、ワタシ新たな道に目覚めたんですの』と謁見の間で言われた王は今まで見たことない顔になってしまった。どうしてくれるっ」
「そんなの知らないよ。一度そっちの都合で追い出しておいて、戦局が悪くなったら呼び戻そうとか自分勝手が過ぎるよ」
過去にお父さんへの手紙が届いた際、私は中身を見た。勝手に拝見して良いのかって? 私はお父さんの娘だよ? だから良いの、分かった?
そして内容を読んだ私はそれを燃やした。その後来た使者も目の前の清純ビッチの言った通りだ。
私からお父さんを奪おうなんて許せない。
「こうなったら…」
「へぇ。パン籠の中に短剣なんて隠してたんだ。それで私を殺す気? 」
「案ずるな。気絶してもらうだけだ。その後に付近にいる仲間に強盗が入ったように見せかけ攫い、それをあの国の手の者によるものだと誤認させる。そうすれば<銀閃>は戦場に舞い戻り、お前を見つけ出す為に相手を倒し続けるだろう」
「色々と穴だらけの計画だと思うけど」
「ふんっ、問題ない。<銀閃>は確かに強いがバカだ。少し色気を使えば容易く騙されるだろう! さぁ、分かったら抵抗せずにお縄につけ! 精霊魔法は間に合わまい! 」
エルフの精霊魔法は確かに強力だが発動までに時間がかかる。だからこそレミアの行動は正しい。詠唱よりも剣の方がこの場では早く届くのだから。
だが
「バカ? 今お父さんのことバカっていった? 」
この時のそれは愚策であった。
私はお父さんの置いていった剣を取り、一閃する。 清純ビッチは短剣を跳ねられ、吹き飛ばされる。
「ぐはぁっ、そ、そんなっその動きはまるであいつの…。いやそれよりも剣は使えなはずじゃ」
「ふーん、何処で知ったか知らないけど、そうだよ。私は剣を使わない。お父さんの前では、ね」
「なっ、嘘だったのかっ」
「だってさ、剣なんて振るうような物騒な女より、か弱い女の方が可愛いじゃん? 」
ウィンクする私を見て清純ビッチは絶句する。
父さんは私が男だと分かった後剣を教えようとした。だけどお父さんの前では可愛らしい女の子でいたかった私はワザと攻撃を受けた。そしてポロポロ泣くとお父さんは慌てたように「大丈夫か、痛かったか。今日の授業は終わろう。そうだ、好物のスープを作ってやろう。なっ? だから泣き止んでくれ」と凄くうろたえた顔になる。
ふふっ、男として私を育てる、厳しくすると豪語しているのにちょっと目を潤すだけで前言撤回するなんて本当お父さんはばかだなぁ。
でも、赤の他人がお父さんをバカ呼ばわりするのは許せない。お前はお父さんの何を知っている。あの優しさをバカにしたのか? 何だこいつは。
殺したい。殺さなきゃ。殺す。コロス。
おっと。だめだめこんな怖い顔していたらお父さんに嫌われちゃう。お父さんの前では私は可愛い女の子なんだから。笑顔笑顔っと。
何か目の前の清純ビッチが勘違いしたのか怯えた声を出したけど知らない。
「さて、前にも使者が来たんだけどその時は、彼の玉、潰しちゃったんだけど女の貴方にはどうしようかなぁ。そのおっきな胸を潰しちゃおうか? 駄肉とはいえ、私にはないもので父さんを誘惑しているのを見ると不愉快なんだよね」
「ひっ、や、やめてっ」
「何、天下の隠密部隊様も流石に女性としての象徴は失いたくないって? まぁいいや。死にたくなかったらさ。帰ってよ。そして王様に伝えて。『次誰か送り込んだら貴方のその粗末な〇〇〇二度と立たないようにするよ? 」って」
レミアは顔を青ざめコクコク頷くと慌てて家から出ていった。
私はふぅと、ため息を吐く。
「お父さん、悲しむだろうなぁ。でも大丈夫、私が慰めてあげるからね…」
国が相手だろうと関係ない。
誰にも私とお父さんの楽園を汚させないんだから。
「うぐっ、ひっく…」
「も〜やけ酒やめなよ〜。明日また後悔するよ? 」
「うるせぇっ! これが飲まずにいられるか」
まだ朝の時間帯だが俺はやけ酒をしていた。
あの後急いで家に戻る最中にすれ違ったら「急な都合でこの街を離れることになった。だからさよなら」と引き止める言葉を言う暇もなく一方的にそれだけ言って馬に乗り、レミアさんは去っていった。
俺の決意は伝える機会なく砕け散った。
「告白もしてないのに、こんなの…こんなのあんまりだろぉぉおぉぉ! 」
「はいはい、よしよし」
くそう。ミズキが俺の頭を撫でてくる。見た目歳下の女の子に撫でられるのは男のプライドがちくちく痛むが正直安らぐ。傷心の俺には花が必要なんだ。
だが側にある花は茨の道薔薇だけだ。触れてはいけない。…だけど今は少しだけミズキの存在がありがたかった。
「うっぷ、飲み過ぎて気持ち悪い…」
「ほらやっぱり。お水持って来てあげるから吐かないでね。お薬も持って来てあげるから」
「頼む…」
嫌な顔一つせず、台所に水を取りに行ってくれるミズキは気がきく子に育ってくれた。感動していると薬を取りに行くその際にフワッとワンピースのスカートが捲れ、白いパンツと形の良い尻が見えた。
…あいつ良い尻してるよな。何故男なのに白いパンツ穿いているんだと突っ込むよりも不覚にもどきりとしてしまった。
「もういっそのことミズキがいれば結婚しなくても…って、俺は何を考えているんだ! あいつは娘だ! いや、娘じゃなくて息子だけれどもっ。そうでなくても息子のような存在に劣情を抱くなど騎士として…! って俺もう騎士じゃねぇか。あぁ、でもミズキがいるせいで俺は結婚できないんだし、もうミズキがいたら…ダメだダメだ! あいつは男だ! 俺は断じてホモではない! 」
その後も誤魔化すように酒を飲んだ俺はミズキが戻る前に撃沈した。
台所に立ち、バイセの葛藤を聞いていたミズキは歓喜に身体を悶えさす。
「あはっ、親としての感情と男としての本能がせめぎ合っている父さんも可愛いなぁ」
ミズキはわざと目がつくよう丈の短いワンピースをはいていた。それを今弱っているお父さんに見せつけることで、男と女の差なんて些細な事だと思わせるためだ。実際バイセはミズキに劣情を僅かにだが抱いた。その手応えに笑みを浮かべる。
あぁ、可哀想な父さん。寄る女の人全てが貴方を堕落させるための淫魔なのよ。
本当は父さんに本気で惚れる娘もいた。だけどわざと私との仲を見せつけることで自発的に諦めるように促した。その後別の娘に惚れていた男に慰めたりするように唆して、仲を急接近させ、娘には完璧に吹っ切れるようにした。
おかげで前の酒場の娘もお父さんの告白を受けても自ら辞退した。全ては私の計画通り。
容姿だって問題ない。
私はエルフだ。人間である父さんが寿命を迎えるまで若く美しい姿を維持出来る。すぐに歳をとる年増の女なんかに負けない。
「んふふっ、女狐たちに絶対お父さんは渡さないんだから。そのためにはもっとも〜っと父さんを私の魅力に取り憑かせるんだから。そうだ、新しく一部の界隈で有名な『騎士を殺すセーター』を明日着ようかな。お父さん、どんな表情浮かべるかな」
唯一愛する男性を想い、ミズキは笑う。艶やかに、誰もが見惚れるほどに。
「絶対に誰にも渡さないよ。おと〜さん♡」
よく男の娘は大人になったら悲惨と聞きますがエルフならばその問題を解決できる。つまりエルフの男の娘は最強。
ミズキの由来は「ハナミズキ」。意味は「永続性」「逆境にも耐える愛」「私の想いを受け入れてください」