<95> 完全(かんぜん)
この世の中は曖昧な出来事、状態や状況が罷り通ることが多い。完全だと具合が悪い場合だ。『えぇ~~っ、前向きに取り組み、対処いたしたいと存じます…』などとご答弁の政治家諸氏が語られる常套句もその一つだ。『前向きに取り組むのは当たり前だろうがっ! どう取り組むんだっ!』と質問された議員諸氏が怒られる訳だが、はっきりと完全に答えれば、揚げ足を取られるからである。^^ このように、完全は危うく、曖昧をもってよし! とする場合が多いのだ。そこで、この完全という言葉を分析してみたい。どうでもいい…とお思いのお方は、熱いお茶で寿司などを摘みながら寛いでいてもらいたい。^^
とあるうどん専門店である。かけ[す]うどんから各種のうどんに至るまで、多くの品書きが店の側面に張られ、店内には二人の客しかいない。その二人の客が、ああでもないこうでもない…と、うどんを啜りながら語り合っている。
「いやいや、この味はいつもの完全な味じゃないぜっ!」
「いや、これがこの店の味さっ!」
「そおかぁ~? 俺は少し味薄だと思うんだが…」
「いや、完全にこの店の味だっ!」
そこへ、店奥から年老いた店主が熱いお茶を淹れに現れた。
「ははは…うちの息子が煉ったもんで…」
「道理でっ! だろっ!?」
「そうですか…息子さんが」
「出汁は、私ですがねっ!」
二人は思わず口を噤んだ。
分析すれば、完全という内容も、やはり曖昧なのである。^^
完