<93> 影(かげ)
光が射せば、必ず物には影が出来る。お月さまの影踏みなんかだと、たいそう風情がある。そこへいくと、「フフフ…そちも、なかなかの悪よのう」「いいえ、お殿様ほどでは…」「こやつ、言いよるわっ! フフフフッ…」などという会話が交わされる時代劇なんかの影ともなれば、これは捨て置けない。^^ その逆で、鼠小僧の参上なんかだと、長屋に小判が投げ込まれ、「ぅぅぅ…お、お鼠さま、有難うごぜぇやすっ! ぅぅぅ…」と貧しい長屋の衆が咽び泣く・・といった具合で、同じ影でも偉い違いを見せる。善悪関係なく、情報を探る忍びの者という影だってある。^^ 現代だとスパイによるミッション・インポッシブルといったところか。^^
ではここで、影の実体を分析してみることにしよう。
とある写真館である。記念写真を撮ろうと、年老いた夫婦がカメラの前に立っている。
「はいっ! では撮りますっ! よろしいでしょうかっ!?」
「あっ! ちょっと待ってくださいっ! あの…私、被ってるんですが…。取った方がよろしいでしょうか?」
老人は自分の頭を指さした。
「? …何をっ?」
訝しげに訊ねる店主に、老人は禿げ隠し用の鬘をスッポリと脱いだ。すると、ものの見事に禿げ上がって光輝く初日の出・・ではなく、禿頭が現れた。
「あっ、そうでしたかっ! いや、どちらでも結構ですよっ!」
「そうですか? では、私、光頭会の会長も務めておりますので、取って・・ということで…」
「ああ、どうぞっ!」
写真館の店主は、どっちでもいいだろうがっ! と少し怒れたが、口には出さず、思うに留めた。そして、いざ撮ろうとカメラを覗き込んだが、ハレーションのため上手く撮れない。急遽、店主は自分の妻を呼び寄せ、影役として輝きを均等に和らげるレフ板を持たせる破目となった。その後、影役の妻のお蔭で、撮影はなんとか無事に終わったが、店主は『被ったままお願しますっ!』と言えばよかった…と、後悔した。
影を分析すれば、何かと結果に±[プラスマイナス]の影響を与えることが分かる。^^
完