<6> 先読み
将棋や囲碁のプロ棋士は必死に先を読む。読むのはいいが、読み過ぎて振り出しへ戻る・・ということもある。
「10秒ぅ~! … 20秒ぅ~~!! 1っ! 2っ! 3っ!」
と、急かすように時計係に告げられると、やかましいわっ! とは思わないのだろうが、恨めしく思え、思わずエエイッ! と、つまらない手を指したり打ったりする破目になる。分析すれば、不言実行の四字熟語が示すとおり、先読みをせず、浮かんだことをスンナリとやった方が上手くいく・・ということにもなる。まあ、これも程度もので、スンナリやり過ぎた挙句、失敗する・・ということも当然、起こり得るから、微妙な間合いの判断力が必要視される・・というのが分析結果だ。
通勤途上のとある男が、車を運転している。
『この時間だと…アノ道はいつも混んでるから、コッチだな…』
瞬間、そう思った男は、ハンドルを回して十字路を右折した。ところが、である。空いているはずの道路が車で数珠繋ぎになっている。男は思わず、ウゥ~~! と困ったような呻き声をあげた。先読みせず、スンナリと直進していれば、スンナリと職場へ到着出来たのである。結局、男が会社へ入ったのは、出勤20分遅れだった。
『シメシメ、誰もいない…』
男がそう思いながら辺りを見回したそのときだった。
「あとからでいいから、届け、出しときなさいよっ…」
徐に入ってきた上司の小声である。
「は、はいっ!」
男は身を竦めた。
「ははは…冗談だよ、冗談! 渋滞だろっ! 私も三日前、20分遅れさっ、ははは…」
「そうでしたか?」
「君は出張でいなかった日だ。先読みはいかんな。いや、いかんいかん…」
「ははは…なんだ、そうでしたか」
「仕事は先読みしてくれよっ!」
二人は賑やかな笑い声を上げた。
このように、先読みも分析すればケース・バイ・ケース[場合によりけり]なのである。^^
完