<29> 万事休(ばんじきゅう)す
どんな人でも進退窮まる・・という状況がある。このような最悪の状態を、人々は万事休す・・と表現する。今の造形語風に略せば、バンキュ~である。^^ 決してオバQではない。^^
この危機的状況を分析すれば、意外とそうではないことが多い。その事実に気づくためには、[1]として、まず冷静に落ちつくことが求められる。[2]として、最悪の事態に立ち至ったとき、冷静に落ちつける心の鍛錬が必要となる。ダメになってから落ちついても意味がないからだ。
とある居酒屋である。一人の男がいい気分で酒を飲んでいる。いつも寄る店ならいいのだが、生憎その店が臨時休業だったため、その近くの店へ入ろうとした。ところが、その日に限って知り合いから頼まれた用事があった。用事といっても、多寡が知れた買い物だったが、念を入れられたのは今夜の八時までにという時間制限があった。腕を見れば6時過ぎだったから、まあ、時間はたっぷりある。あとにしよう…と男は軽く踏んで店へ入った。ところが、これがいけなかった。その店は多くの客で込んでいて、席が空くまで入口で待たされる破目になったのである。この時点でも、まだ男はそんなに困ってはいなかった。しかし、そう思った直後、異変が起こった。俄かに男の体調が怪しくなったのである。まず、全身に悪寒が走り、体熱が上昇、男は知らない店先で身動きが取れなくなった。万事休す・・である。
「ど、どうされましたっ!?」
店を出ようとした客がフラついて今にもその場へ倒れそうにしている男に声をかけた。偶然にもその客は医者で、こういう事態に場馴れしているのか、落ちついていた。
「うぅ! 調子が…」
男は、身体の異常をその医者に訴えた。医者はすぐに手持ちの往診かばんを開け、必要な応急処置を施した。
「私の医院はこの近くですっ! 歩けますかっ!?」
「はあ。まあ、なんとか…」
男は医者に抱きかかえられながら医院へと向った。
一時間後の八時過ぎ、男は医院で回復した。
「し、しまった!」
男は目覚めた診察ベッドの上で頼まれた用事を思い出した。
「ど、どうされましたっ!?」
ふたたび、医者は男に訊ねた。
「万事休す! です、先生っ!」
「なにがっ!?」
訝しげに医者は男を見ながら、その訳を訊ねた。
「なんだ…」
医者は、その訳を馬鹿馬鹿しく思った。
分析の結果、万事休す事態は、他人には分かりにくく、意外と万事休さない。^^
完




