<25> 成(な)りゆき
やろう! と思ってもいないのに、ついつい、その場の雰囲気に流されてやってしまうことがある。人はその状態を、成りゆき・・と表現する。成りゆきを分析すれば、そこには本人の主体性の欠如、心の不安定な乱れなどの条件に、哀れみや同情心が加わることにより発生する確率が高いことが窺えるのである。
とある喫茶店である。一人の男が、のんびりとコーヒーを啜っている。そこへ、もう一人の男が外から入ってきた。
「おおっ! 久しぶりだなっ、村川!」
「なんだっ! 町山じゃねぇ~かっ!」
「偶然ってのは、あるもんだなっ!」
「ああ…。よかったら、どうだっ、これからっ! 具合悪いかっ?」
村川は手指を猪口に見立て、飲む仕草をした。
「いや、そんなことはない。小一時間、潰そうと思ってたところだ…」
よし、決まった! とばかり、二人は店を出ると、行きつけの飲み屋へと歩を進めた。
「小一時間って、ゆっくり出来ねぇ~のかっ?」
「いや、そんなこともねぇ~んだがっ。うちのカミさんが五月蝿くってなっ!」
「ははは…相変わらず敷かれっぱなしかっ?」
「ああ、相変わらずなっ! ははは…」
二人は、成りゆきで飲むことになり、成りゆきに任せて時を過ごした。そうこうするうちに酔いもいい具合に回り、二人は成りゆきのように出来上がっていった。成りゆきとは恐ろしいもので、町山にすれば小一時間のつもりだったものが、三時間を優に超していた。
「こ、こりゃいかんっ! 俺、帰るわっ!」
町山は腕を見て時の経過を知り、ギクッ! と驚いた。
「そうかっ? せっかく盛り上がったのになっ!」
「ああ、またなっ! ぅぅぅ…今日はこの後が辛いっ!」
「ははは…今日もだろっ! 支払いは俺がっ!」
「すまねぇ~なっ! いつも…」
「ははは…いいってことよっ!」
町山は村川と飲むとき、いつも成りゆきに流れることにしていた。その訳は単純で、支払いの心配がなくなるからだった。
成りゆきを分析すれば、格好いい股旅時代劇ではないが、足の向くまま気の向くまま・・そのまま流れに任せた方が割合、スムーズにいく確率が高く、好結果が得られるようだ。^^
完




