<10> 出来事
日々の出来事は千変万化する。その事象は人の意思とは関係なく起こるから、人力でどうこう出来る筋合いの話ではない。それらを分析すれば、悪い方では天災、人災、弔事など、いい方は幸運な出来事や慶事などとなる。これらが様々(さまざま)に形や時を変え、人を取り囲もうとする。家の中は未だしも、一歩外へ足を踏み出せば、吉事、凶事は別として、起こそう起こそう! と、いろいろな出来事が待ち構えている訳だ。^^また、何かが起きなければ、人の世は面白くも可笑しくもない訳で、味気ない世の中になってしまうから困ったものだ。
先々(さきざき)に起こる出来事が分かれば、なんの問題もないが、残念なことに人にはそれが分からないのである。
とある地へ旅した中年の旅行客が、チケットが取れず、空港の待合室で途方に暮れている。
「…どうかされましたか?」
声をかけたのは、気のよさそうな一人の旅行客だった。
「はあ…。帰りのチケットが満席で取れなかったんですよ」
「ああ! 事故で乗り換えがありましたからねぇ~。乗り換え客が優先でしたか…」
「ええ、まあ…」
「どこまで帰られるんです?」
「鶏殻です…」
「味見の鶏殻ですか? なんだ、同じじゃないですかっ! よかったらコレ!」
「えっ!? それじゃ、あなたが…」
「実はチケット、もう一枚あるんですよ。家内が急用で一緒に戻れなくなったもんで…」
気のよさそうな旅行者はもう一枚のチケットを背広の内ポケットから取り出すと、中年の旅行客に見せた。
「地獄で仏だっ! ありがたいっ!!」
「ははは…そんな、大げさなっ! 困ったときはお互いさまです」
「それじゃ、コレ…」
中年の旅行客は財布から紙幣を取り出すと、航空運賃を支払おうとした。
「いいんですよっ!」
「いや、それではっ!」
「…弱ったなぁ~。なら、着いた空港レストランで奢って下さるということでは?」
「はあ! それでよろしいですか? でしたら、それでっ!」
押し問答の挙句、この出来事は美味しいもので目出度く一件落着した。
分析の結果では、美味しいものが出来事を好転させる効果がある・・ということになる。^^
完