第28話
あれから凡そ1ヶ月、学内ランキング戦も大詰めであった。
本日は全勝同士の対決、実力からいって他の部隊よりかけ離れた強さを有する2つの部隊の戦いだ。
どちらの部隊もこの試合以外では負ける可能性が低いので、事実上の決勝戦といっても差し支えのない対決である。
それは他の学生や職員、試合を観戦している統合戦略室の面々も理解している。
否が応にも関心は高まるというものだ。
それは統合戦略室の名ばかりの指令である、佐藤にとっても同じであった。
もっとも佐藤にとっては、馴染みのないぽっと出の第23部隊など眼中にはなかった。
望むのはただ1つ。
現人神である皇神一族に太古の御代より仕えし、御盾の一族の長子が率いし部隊の勝利。
それだけだ。
同じ化物でも新人類ではなく、まだ影日向に皇族や錦の御旗を支えてきた旧家の方が、まだ信頼がおける。
歴史が、実績が違うのだ。
だからさっさと負けろと、モニター越しに睨み付けるのだった。
「まさか、第1部隊から申し出があるとは思ってもみなかったよ。しかも勝ち抜きなしの1対1の団体戦。その勝ち星の数によって勝敗を決めよう、だなんてね……」
「すまないね。色々条件を勘案したのだけど、これが一番勝率が高いと踏んだのでね」
「どうあがいても、そっちの勝利はないと思うけどね」
地下にある広大な平原のエリアの中央にて第1部隊と第23部隊は一堂に会し、お互いの参謀役である厚一と佐伯朱鷺が舌鋒を交し合っていた。
今回は総力戦ではなく、第1部隊の提案による個人戦による星取合戦になったからだ。
今まで第23部隊は総力戦においても、誰か1人、ないしは2人で敵部隊を相手にし、その全てに勝利してきたのである。
個人戦になった場合、更に勝率が下がるのと思うのが普通であるが……、
「君達なら1人でも、僕達全員に勝つのは難しくない。僕達にもそれぐらいの目利きはできるさ」
「それがわかっているなら、何でこんな面倒な提案をしたんだ? 時間の無駄じゃない」
「個人戦になった場合、君達なら更にハンデを設けると思ったのでね。君達はどの部隊との戦いも本気じゃなかった。それに加え修行をしているつもりなのか、試合によって様々な条件を設定していたね?」
「へえ……。よくみているじゃないか」
感心したような厚一の呟きが、朱鷺の推測を肯定していた。
第23部隊にとっては実力差がありすぎるので、毎試合毎に枷と課題を決めて戦っていたのである。
公言などしていないので、注意深く試合を見返し分析しないと解らないと思っていたが、中々どうして第1部隊はこちらに勝つための努力を怠っていないようだ。
喜ばしい事であるが、問題は実力そのものである。
猛が話を断ち切る様に口を開いた。
「俺達が夫々ハンデを設けているのは事実だ。それで勝てると思うのなら、試合で見せてくれ」
「はははっ、そちらの大将はせっかちだね」
「猛は無駄話が嫌いなのさ。まあようは、戦士なら実力で語れって事さ」
「その通りでござる。ハンデを貰うのは情けないでござるが、拙者達の実力不足でござる。そちらを責めるのは筋違い。後は戦いでどこまで肉薄できるか、拙者達の修行の成果を見せる時でござる!!」
腰に刀を差して女侍白凰麗華の決意表明で、第1部隊の面々がそれぞれ戦士の顔になった。
これはもしかしたら期待が持てるかもしれないと、猛も喜色満面になると先鋒の名を呼んだ。
「境子!」
「はい! 猛さん!」
境子が一歩進み出ると、第1部隊からも相手が現れた。
自分の背よりも大きな長槍を持った精悍な顔の生徒、狛居武彦である。
直ぐ様他の生徒が離れた場所に下がり、審判の掛け声で試合開始の段で、境子がにこやかに武彦に話しかけた。
「試合の前に、あなたの最大MPを教えて頂けますか?」
「……MP30000だ。それがおまえのハンデの内容か?」
「ええ、ハンデの1つです。その他にもありますがそちらは名言しませんので、気になるなら試合中に見つけてください。それより30000ですか……、猛さん!」
「もっと下げろ! もっとだ! ……よし、そのくらいだ!」
境子が能力を行使しその強さを猛に見てもらい調整した、というわけだ。
猛の第2階梯の能力は筋肉審美眼。
対象の戦闘力(MP)だけでなく、LVや階梯といった詳細な部分も見抜ける優れた能力なのだ。
「戦闘力をこちらに合わせ、武器も無し。そちらは能力的に後衛だろうに、この間合いで構わないのか?」
「私も一月前までは知りませんでしたが、前衛や後衛といった役割が有効なのはLVが低いうちだけだそうですよ。LVが上がるにつれて後衛だろうと身体能力が向上し、私達は超人になるそうです。だから何も心配いりません。全力で掛かってきてください」
相手の瞳を見つめながら、にこやかに答える境子の自信溢れた姿。
髪は肩口付近で切りそろえられ、目を覆い隠していた前髪も短い。
身に纏っていた陰気は欠片も無く、いっそ晴れやかで人を引き付けてやまないその魅力的な容姿。
彼女の過去を知る者なら、想像もできない様な変貌ぶりである。
1月、たった1月が彼女を変えた。
容姿や能力だけでなく、性格さえも変えた激動の1月であった。
今の彼女にあるのは、御影などといった過去の栄光を誇りにする一族ではなく、友と愛しい人への思いだけであった。
その思いが、どこまでも彼女を高みに昇らせる。
狛井も彼女の不敵さ、その余裕から何か感じ取ったのだろう、槍を腰だめに水平に構えると大声を発した。
「審判! はじめてくれ!」
「……両者悔いの残らぬように全力を尽くしなさい! それでは、はじめ!!」
審判の合図と共に戦いの火蓋が切られたのだった。
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