第26話
「敵MC出現! あっ、いや、出現した端から消滅していっています!!」
「確認しました! 出現時の姿と敵MPから、おそらくはイツマデ、フケイ、アオサギかと思われます!」
「新たな出現は見られません! 敵MCは出現から数秒以内に全て討伐されました!!」
「そうか……」
オペレーター達が忙しなく動き回る中、榊副指令はそっと諦念の溜息を吐き出した。
学内ランキング戦が始まったからといって、MCとの戦いが無くなるわけではない。
戦守学園は普段と変わらず、恐ろしき神話の怪物達との熾烈な生存競争を繰り広げていたのである。
ただし学園の地中深くに設けられた統合戦略室では、常ならば戦場の如き緊張感に包まれている筈が、今回は呆れというか、理解不能の現象に出くわした時の様な驚愕に支配されていた。
戦場、戦守学園で対MCを想定して創られたバトルフィールドでは、第23部隊が敵そっちのけでトレーニングに励んでいるようにしか見えなかった。
しかし隊員は誰もMCに見向きもしていないのに、出現から極短時間で討伐された事だけは、まごうことなき現実なのだ。
しかも、第23部隊は今なお特訓に勤しんでいる。
おそらくは特訓の邪魔だからと、修行の片手間に討伐されたのだ。
圧倒的実力差をもって……。
「……敵は、どうやって倒された?」
「高速度カメラの映像から、イツマデは殴られたと思われる、無数の攻撃を受けたように見受けられます!」
「フケイは外部を炎に包まれた後、同様に大量の打撃痕が現れ消滅したようです」
「アオサギですが……、一瞬上から圧し潰されかけた後直ちに内部からも膨張し始め、内外両方から加わる力に耐えかね破裂したように思われます。あっ、失礼しました。こちらについてもやはり殴った様な、無数の攻撃の痕が見られます!」
「……」
榊は天を見上げた後、頭痛を堪えるかの様に頭に手を置くとまた盛大に溜息を付いた。
通常、誰がどの敵をどの様な方法で倒したのかなど、一目瞭然なのだ。
戦場の至る所に仕掛けられた高速度カメラは0.01秒の変化でさえ捉えるのだから。
だが、それでもわからない。
わからないのだ
それほどに第23部隊の面々の攻撃が迅速、かつ、端から見て誰がやったのか判断できないほど秘匿性が高いのだ。
こんな事、第1部隊でも実行は不可能だろう。
「つまり、どういう事だ? 解析班、推測で構わないから初見を述べてくれ」
「はっ! おそらくなのですが、フケイへの炎は発火能力者の燎原、あるいはガス使いの墨谷。アオサギを押し潰す様な外圧は重力使いの御影で、内部膨張は大量のガスを送り込んだ墨谷だと思われます」
「謎の打撃痕については、そんな事可能かわかりませんが、肉体強化者の雄忍か高部かと……。あるいは、高速で圧縮空気弾を墨谷が発射した可能性も考えられます!」
MCは討伐されると消滅する。
証拠はカメラの記録映像しか残っていない事になる。
その映像からも、誰がやったのか推測でしかものはいえないのだから……、
「とんだ実力者達が隠れていたようだな」
「はい、彼等は未だ実力を隠しているようで、数値が不規則に変化して正確な値が測れていません。それでも、全員がMP10万を超えているようです!」
「おいおい、全員が戦闘ランクA以上って事っ!?」
「MP10万……、それってランキング1位の御影聖也より、全員が上って事じゃない!?」
「隠していたのか!?」
「何だ、此奴らっ!?」
あちらこちらから、驚愕や混迷の声や巻き起こった。
それも仕方がない。
彼が率いる部隊だからだ……。
彼を知っているのはこの統合戦略室含め、国や皇室の関係者の中でも極僅かだ。
副指令である榊は以前、極限られた者達と共に立ち会った事はあるが、今でもあの時受けた衝撃は忘れられない。
彼の驚くべき年齢、いやこの場合は幼さというべきか。
それに反して完成された戦闘向きの肉体。
デモンストレーションを兼ねた模擬戦闘で見た、信じ難きMPと隔絶した強さ。
如何なる攻撃も寄せ付けない、比類なき無敵の身体。
文字通り目で追えぬ、眼にも映らぬ神速の動き。
そして、全てを打ち砕く圧倒的な力。
もし戦の神や武神が降臨したなら、彼の様な人を超え、英雄さえも超えた絶大なる力を持つ違いないと、ただただ言い知れぬ畏敬の念を抱いたものだ。
そんな彼が学生に混じり、実際に部隊を率いるなんて反則ものだろう。
彼等の実力を初めて見た職員が、驚愕覚めやらぬのがいい証左だ。
そもそも本来ならば、彼は他の真なる強者と同様の義務が生じるべきなのに、年齢に加え、彼のグループが屁理屈をこねて、気楽な学生生活を満喫させているのだ!
能力者はその強さに見合った献身を行うべきなのに!
その思いが、勝手に口を突いて出た。
「やっと表に出てきたか。だが、気に入らないな……」
「あらっ、何が気に入らないのかしら? 私達はきちんと義務を果たしているのだから、誹られる謂れはないわ」
「凡愚の思考。いや、愛国者の歪んだ忠誠心を、僕等に押し付けないでもらいたいな」
「!? 生命帰還に真闇影もか……」
疑義の声と共に2人の美女が、何の脈絡も無く戦略室の中央に突如現れた。
1人は新雪の如き純白の肌に女神の如きプロポーションを誇る金髪の美女。
もう1人は、片目を髪で隠した漆黒の衣装に身を包む男装の麗人だ。
付け加えるならば2人ともこの日本有数、いや、世界でも最上位の力を有する畏れるべき強者達だ。
そんな強者達がこちらの心を見透かし、冷たい笑みを浮かべて狐疑してくるのだ。
急激に身も心も凍て付き二の句を継げなかった。
「もう一度聞くわ? 私もご主人様もきちんと義務を果たしている。そこに何の咎があるのかしら?」
「いっ、いや、すまない。つい愚にもならない言葉を吐いてしまった。ただ、彼にはもう少し協力的になって欲しいと思ってね」
「協力、ねえ? 裏ランキングの者が緊急出動するなんて、月1回もないはずだよね? あるのは面倒な待機義務だけど、この僕がいるのだから必要なのは居場所の定期連絡だけのはずだけど?」
「ええ、あなたの影跳躍なら、例え世界の反対側からでも一瞬でここに戻れるものね。やっぱり、何が問題なのか理解できないわ」
「彼だけでなく君達にも、政府主導の実験や開発に参加して欲しいのだよ。君達程の実力者の協力があれば、成果も見込めるだろう」
「「……、ぷっ。 はははははは!!」」
そんな副指令の言葉を美女2人が訝しみ顔を見合わせた後、その意味に思い至ると大笑いし出したではないか!!
「何がおかしい!!」
「くっ、はははははっ! いや、ここは真面目ばかりのお堅い職場だと思っていたけど、中々どうして……、ぷっ、くくくくくっ!」
「ふふふっ! ええ、まさか副指令に道化の趣味があるとは! いえ、これは場を和ませるジョークというべきなのかしら?」
「私は本気だっ!! 力持つ者こそ皇国への献身を、もっと多くの献身をすべきなのだ!!」
「はあっ、旧家の連中はこれだから……」
「無能者、いえ、少しばかり力ある善意の愚者だからこそ始末に負えないわね」
「何だと……」
あまりといえばあまりな物言いに言い返そうとしたが、2対の双眸にただ見詰められただけだというのに、生物そのものの隔絶した格の違いを強制的に理解させられ居竦んでしまった。
乾いた口から言葉が出ない。いや、出せないのだ。
このまま己が主張を続ければ、訪れるであろう絶望の未来に、脳が、体が畏れ、いう事をきかないのだ。
「まず、君の主張する政府への協力はあくまでお願いであって義務ではない。義務ではないものへの参加の是非は、あくまで僕達の自由意思に依るべきものだ。決して他者からの強制であってはならない。そんな事もわからないのかい?」
「それに無駄だとわかっているものに協力するなど、私達も酔狂ではありませんわ」
「ぐっ! たっ、確かに画期的な成果と呼べるほどのものはないが、着実に成果を上げている。そこに彼や君達の協力が加われば、更なる成果が見込めるじゃないか」
「愚か、あまりに愚鈍。自分の関与しない分野だと、旧家の者といへどここまで無知とはね……」
「政府主導の実験内容や開発物を精査してみなさい。二番、三番煎じの模造品。しかも、そんなものでさえ多大な時を掛けねば模倣できない無能者共……。そんなものに、この私やご主人様が、何故貴重な時間を割いてまで協力しなければならないのかしら?」
「……」
知らなかった。
それ程に技術が遅れていたのか……。
しらず、榊のほほから汗が流れ落ち始めた。
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