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第3話-廻る回想︰巡る喫驚-

 ぼんやりとする意識が浮上し薄っすらと目を開けると、俺は電話したまま寝てしまったのだと思い出す。

 ベッドにうつ伏せの状態になり首は入り口の方を向いて、片手にはスマートフォンを握っている。しかしどれだけ頑張っても体には全く力がは入らず見動きがとれないのだ。

 


──くそうどうなってんだ俺の体は……




 俺の脳裏にある出来事が蘇る。

 それは自殺の現場を目撃した時に見た女の悍ましい死に顔や、ここ最近つきまとう視線や黒い人影のようなもの。

 霊感など皆無な俺だが実際に起きているのだから信じるしかあるまい金縛りと言うものを。


 静寂な暗い部屋の中にはエアコンの風が吹き出る音と時計の秒針が動くカチカチという音だけが鳴り心臓の鼓動がドクドクと高鳴っている。

 


──おかしい、山田と通話してた時は電気はつけてたし消した覚えはない。それに寝てしまう前にはテレビの音も聞こえていた。



 すると、どこからか布が擦れるズズズズという、何かが床を這っている様な音が聞こえてきたのだ。


 暗闇に包まれた何も見えない部屋の中でズズズズと言う音が響き破裂する程心臓が高鳴り、全身に冷や汗が滝のように湧き出てきた。

 どうやらその音はベッドの下から聞こえるようだ。しかも、俺の目線からではベッドが死角になって下が見えない。




──どうするどうするどうする……どうすればいいんだ。こんな時はお経でも……お経なんかわかんねぇ! やばい殺される殺される殺される殺されるどうしたら……たすけてたすけてたすけてたすけてたすけて





 恐怖のあまり頭の中がパニック状態となり巨大なストレスと理解不能な身体的異常により思考が停止し、極限まで脳に負荷がかかると俺は糸が切れたように気を失っていた。




 

****






──ピピピピピピッ




 薄目を開けると部屋の照明が眩しく目を覚ました。眩しい白色の光に照らされ白いクロスがより一層白く見えた。ベッドに仰向けの状態になり酷い頭痛と首の痛みがする。背中は汗でぐっょりと濡れていてすごく気持ち悪い。




──夢……か。それにしてもいやな夢だったな。

 



 目覚まし時計の高いデジタル音が鼓膜に響いて余計に頭痛に拍車を掛けた。俺は苛立ちながら目覚まし時計を見て思い出す。




──そういやこの時計山田が買ってくれたんだっけ。あの頃俺は遅刻ばっかりしてたからな。当時はだいぶ世話に……ん! 目覚ましセットしたっけ?


 


 俺は昔遅刻魔であったが山田のお陰もあり目覚まし時計を使わなくても起きれるようになったのだ。それからは目覚ましがなくても必ず1時間前にはおきることができることができる。

 従って目覚ましをセットすることは余程な大事な用がある時でないとまず使わない。

 


──いやでも何かの拍子にアラームのスイッチ入っちまったかな……それとも酔って入れたかだな。昨日は飲みすぎたしどっちもあり得るよな。


 

 俺はあまり気にせず着替えようとした時、首筋に嫌な感触があった。手で首筋に触れてみるとヌメッとしており、付着した粘液を見てみると透明で何とも表現しがたい悪臭がする。



「何だこれ……むっちゃ臭えし……うわ」



 先に居室のダンボーをいくつか漁り頭痛薬を探し出しす。

 洗面所に行き二粒ほど口に入れ飲み込むと、壁掛けのタオルハンガーからフェイスタオルを取り首筋の粘液を拭き取った。そしてフェイスタオルは洗面台脇の洗濯パンへ投げ捨てる。



 急いで身支度をすると部屋を出て鍵を閉めいつもと同じルートで会社へ出社した。

 オフィスへ入ると冷房の快適な風が全身に当たり外での纏わりつく暑さを忘れる程快感である。


 自分のデスクにつくと佐久間が何時もと違い少し深刻そうな顔つきで挨拶をしてきた。

 

「よぉ、今日も始業時間ぎりぎりだな」


 ──どうしたんだろうか、いつもなら小馬鹿にしてくるのに今日はやけに大人しいし元気がなさそうだ。



 「おっおう、そんなシケた面してどうしたんだ?」


「実はさ、昨日……帰り道にやな事があってさ……」


 何かを言いたげだが躊躇ってる様にも見える。昨日帰り道? そえあえば俺も帰りがけに妙な視線を感じたっけか。まさか佐久間のとこにも現れたのかな。


「佐久間もしかして……」


「あぁ……そうだよ」


 無理もない。誰かの視線がずっとつきまとっていたら気が滅入るのも納得する。俺もそうだったしな……



 「お前も誰かに見られてる視線を感じたのか?」


 佐久間の肩を掴み真剣な顔をすると俺はそう言った。すると佐久間があっけらかんとした顔をして答える。


「は? 何言ってんだお前は」


 壮絶な俺の勘違いである。話を聞くと昨日帰りがけに金井部長から追加の案件入ったから明日なんとしても仕上げ出て報告書を提出してくれとの事だったのだ。


「なんだよそんな事か」


「そんな事とは何だよ、今日は彼女の誕生日だから早く家に帰るって約束してんだよ」



──なるほど……佐久間らしいな……昔っからそんな理由で落ち込むとか羨ましいな……ちょっとまった……彼女?


「お前いつの間に彼女出来たんだよ!」


「あぁ言ってなかったな。事務の櫻井友香だよ。転勤してからちょくちょく飲みに誘ってさ、それから話が合うもんだからそのまま付き合い始めた感じよ」


 確かに佐久間は割りとイケメンだし完全にノーマルな俺と違って持てそうだからそりゃ惹かれるよな。と内心あまり祝福していない俺だが事務の櫻井と言えば転勤初日に色々と親切に説明してくれた人だ。




──たしかに櫻井と佐久間はいい組み合わせだな……爆発しろや。




「そこで三神さんよ一生のおねげぇだ。俺の仕事やってくれねぇか?」



 佐久間は頭を下げると藁にすがる思いで手を合わせ俺に頼み込んでくる。そんな佐久間のお願いを払いのけるほど俺も鬼じゃない。

 俺は仕方なく佐久間の引き受けることにした。


「わかったよ……ただし今度奢れよ?」


「おう、さすが三神様だよな。心の友よ」


 時間は刻々と過ぎ、定時である17時になると佐久間はあがり俺はというとひたすら仕事に追われ、仕事が片付いた頃には20時40分をまわっていた。


 急いで会社を出て、帰りがけにコンビニに寄って弁当を購入するとズボンのポケットに入れたスマホが振動する。

 手にとり画面を見ると着信の文字が表示され山田という名前がでていた。面倒だし疲れてるしそのままポケットへとスマホをしまうとコンビニをでる。



──今日は視線を感じなかったな……



 気づくと自宅の前まで着いておりポケットを探り家の鍵を取り出し鍵穴に指すと、再びズボンのポケットにしまったスマホが振動を始める。嫌な悪寒が走りスマホをとりだて画面をみるとやはりそうだった。



──またお前か……いい加減言ってやりたい。今ものすごく疲れてんだよ……ほんといい加減にしてほしいわ。



 振動するスマホを片手に持ったまま鍵を開けると、寝室へ行きベッドにスマホを叩きつけるように投げ洗面所へと足を運んだ。


 顔を洗い冷蔵庫で冷やしたビールをとりだし一気に飲みの干すと空きを缶を握り潰す。そして買ってきた弁当を食べ風呂に入るとテレビとエアコンをつけ涼みながら再びビールを飲み始める。



──今日も最悪だったけどこうしてビールを飲んでいる時は幸せだな。基地外女も遠くにいるしここは平和でいいな。



 突然俺の体は力を失い仰向けにベッドへと倒れ込んだ。



──一気飲みしたせいでアルコールまわりすぎたのかな? 疲れてる時に飲む酒はかなり効くってよく言うけどまさにこの事なのか……やばい瞼が重くなってきた。





****






 妙な寒気がして俺は目が覚めた。

 電気は消えついていたテレビも消え、時計の秒針の音とエアコンの吹き出し口から漏れる風の音が部屋に響く。

 寒気がするのも当然だ、体の火照りを冷やす為に設定温度を20度まで下げたのだから。



──しかし電気もテレビも消してないぞ。それにやはり体が動かない。これ夢だよな……



 


 





 


 


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