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雨降る四月

久しぶりに投稿しました。趣味で書きました。恋愛ものだと思います。よろしくお願いします。

“ ある雨の降る日、一匹の猫が家に迷い込んだ。”



「すみません。雨宿りさせて下さい」

インターホンが鳴って寝間着姿のまま玄関を開けると、そこには少女が立っていた。


桜が満開になると近所の公園には連日花見客が詰めかけた。僕も何度かサークル仲間と花見をしに行った。それに、ここ最近は晴れの日が続いて、雨の気配なんて全く感じさせていなかった。なのに今日になって思い出したかのように大粒の雨が降り出した。季節風も相まって小さな嵐のようになっている。これでは桜はほとんど散ってしまうだろう。

まるで桜に見惚れていた神様が過ぎてしまった時期を急いで終わらせようとしているかのように。



「雨宿りさせて下さい」

首元で切り揃えられた黒い髪は朝から降り続く雨に濡れていた。

セーラー服はすっかり濡れて重く張り付いている。前髪からのぞく少女の眼はどことなく昔飼っていた猫を連想させた。

冷えているのか肌が少し青白い。傘を渡して帰らせようかとも思ったが、この前電車に忘れてきたのを思い出した。

「……別にかまわんよ」

部屋は散らかっているが、そんな所にまで気を遣えるほど僕は優しくない。

「ありがとう、ございます」

少女は俯向くように小さく頭を下げると玄関に足を踏み入れた。


「まぁ適当に座ってよ」

少女は鞄を部屋の隅に置くと言われた通りクッションを下に敷いてコタツに足を入れた。そして馴れた手つきでコタツに腕を入れて温度調節を回す。

「ね。コンセントついてる?」

部屋に入った途端、少女の態度は一変して砕けたものになった。

座れと言っておいてなんだが、もう少し遠慮したらどうか。

僕はため息まじりに言った。

「……で。今日は学校じゃないの?マツリ(・・・)ちゃん」

「まあね」

鞄に手を伸ばし小さな鏡を取り出すと、彼女は前髪を整えはじめた。


彼女の名前は比奈乃まつり。近所の私立高校に通う高校生だ。学校自体は真面目な校風だが不真面目な生徒はいるもので、どうやら彼女はその一人のようだ。

「まあねって…もう昼だぞ」


ため息をついてベッドに腰掛けると、目の前に白い手が伸びた。

「……ん」

窓から差す白い光が彼女の濡れた髪をぼんやりと照らし出す。手を伸ばす彼女の姿につい意識が移ってしまう。

「タオル」


「……ああ。はいはい」

ハンドタオルを黙って受け取ると彼女は僕の足元に落ちていたドライヤーを手に取った。

「なんでもいいけど学校にはちゃんと行けよ?」

言うと同時にドライヤーの音にかき消された。声のボリュームを上げてみるが、気にもとめず濡れた髪をさらさらと乾かしていく。

「え?なんか言った?」

乾かし終わると彼女の髪はふんわりとした空気をまとった。艶のある髪が鞠のようにきれいな丸を形作った。

「……昼飯は喰ったのか?」


「くってない」

僕の口調を真似て言う。

やれやれと呟いて僕は簡単なパスタを作った。台所から戻ると彼女はセーラー服を脱いでジャージ姿になっていた。鞄に入れてきたのだろう。濃い緑色をした趣味の悪い体操着は僕の母校のものと同じだった。

「懐かしいなそのジャージ。去年まで使ってたのに、もうどっかいっちゃったよ」

「私がもらったんじゃん」

昼間の猫のような目で睨まれた。

「あ…そうだっけ?」

タイミングよくパスタから立つ湯気で眼鏡が曇った。なんだか情けない図だ。



「学校……」

パスタをフォークに巻きつけながら彼女は独り言のように呟いた。

「なんだかなぁ……」

マツリは独り言のようにぽつりと言った。


フォークを皿の上でくるくると回すがパスタを上手く巻きつけることができない。

「ねえ聞いてる?」

コタツの中で蹴りを入れられた。

「え?」

「え?じゃないし。なんだかなぁって言ったらどうしたんだい?って返さなきゃ」

どうしたんだいだなんて日本に喋る人は存在するのだろうか。

「……どうしたんだい?」

「って聞いてもらっても上手い言葉が思いつかないんだよねぇ」

意味がわからん、と言って僕はパスタをフォークですくいずるずると啜った。しかし彼女の学校に対して抱いている不満は分かるところがある。僕も高校の時分は何とも形容しがたい不満を感じていたものだ。クラスには独特の空気が流れていて、僕はその匂いが苦手だった。

「何となくだけど分かるよ」僕は言った。「クラスメイトとか担任とか、別に誰が悪いってわけじゃないけど、なんだか灰汁が強いって感じ……だったな、僕の場合」



「……そう」

彼女はぼそりと呟くとパスタをツルツルと啜った。


ここまで読んでいただき本当にありがとうございます!

約1年何も投稿しておりませんでした。何も書けなくなってしまったからです。本当に情けない限りです。

これから不定期ではありますがポツポツと投稿できればと考えております。よろしくお願いします。


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