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天才設計士の恋愛事情  作者: 滝神淡
誰が為に地球はあるか

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第84話

 大勢を助けて一人を見捨てるか、一人を助けて大勢を見捨てるか。

 それはセシオラの中で決まっている。

 助けたい人はそんなにいない。

 関係の無い人間なんて助けるつもりはない。助けてほしいならまずわたしに優しくしてほしい。世界がわたしに優しかったなら、考え方も違ったんだろうな。

 育った環境で考え方が変わるのは当たり前だと思う。人に優しくできるのは自分が大切にされている環境で育った人だけだろう。

 ……じゃあ、ネルハは? みんなに大切にされているのだろうか。

 それは少し寂しいというか、やっぱりわたしとは違う世界に住む人なんじゃないかと沈んだ気持ちになってしまう。

 いや、そうでもないんじゃないか。彼女はわたしと一緒にいることで周囲からどういう扱いを受けていた? 大切にされていなかったじゃないか。

 じゃあ何故、人に優しくできるのだろう。分からない。

 理解できない感覚だ。

 それはいくら考えても分かりそうにないと感じた。

 考えてもしょうがない、深く考えるのは苦手だ。

 いっぱい考えることはあるけど、浅く広く、なのかもしれない。


 トレーニングルーム近くの休憩所。

 セシオラの目の前にはジェシカの姿。

 トレーニングを終えた彼女はタオルを首から下げている。

 シャワー後なのか、髪の艶が強くて綺麗だった。

 セシオラのことづては単純だった。

「ネルハに、地球への回答日の朝七時に脱出艇格納庫まで来るように言って下さい」

 すると、目の前で聞いていたジェシカは小首をかしげた。

「脱出艇格納庫……?」

 疑問に思うのも当然かもしれない。

 セシオラはあらかじめ用意しておいた理由を述べる。

「どうしても見せたいものがあるんです。普段人が近付かない場所が良いと思って」

「ふぅん……まだみんなの前では会えないの?」

「はい。みんなの目を盗んで行くので、わたしはちょっと遅れるかもしれません。でも、何があっても絶対そこで待っていてほしいと伝えて下さい」

 そうすれば助かるから、と心の中で付け加えた。

 元々、全滅させる作戦ではない。

【アイギス】の技術を吸収しなければならないし、この十年間何があったかを体験した人間に語り部となってもらうことも必要だ。

 だからある程度の人間は地球に迎え入れることになっている。

 ジェシカは不思議そうにしながらも、分かったと頷いた。

「あなたのことづてって分からないことばかりね。ネルハとあなたでだけ通じる暗号みたいなものなの?」

「そんなところです」

「まあ、余計な詮索はしないわ。ちゃんと伝えておくから安心して」

 詮索しないでいてくれるのは助かる。

 話の分かる人で良かった、とセシオラは安堵した。


 そうしていったん二人は別れたのだが、すぐにまた合流することになった。

 ジェシカから通話があったのだ。

〈DUS〉に戻ってみたら七星を捕まえることができたという。

 消息不明な状態が続いていたが、ようやく話ができそうだ。

 セシオラは急いで〈DUS〉へ向かった。


〈DUS〉の部屋の中はざわついていた。

 普段はオフィス的な雑音がする程度で、割と静かな方なのだが。

 原因は明らかで、噂の中心人物たる七星の存在だ。

 更に、その七星を椅子の上で正座させて説教しているジェシカも注目を集める大きな要因となっている。

 多くの者がなんだなんだと囲いを作っているのだった。

 セシオラは囲いを縫うようにして突破した。

「だからさあ、本当に忙しかったんだよ」

 武骨な顔を弱らせて七星が弁明している。

 それに対し、ジェシカはニコニコしながら怒っていた。

「へえ、忙しかったんですかあ。それなら睡眠時間を削って〈DUS〉で本来の仕事をすれば良かったんじゃないですか?」

「いや、既に睡眠時間は削り気味というか」

「寝なければ良いんじゃないですか?」

「そんなことしたら俺死んじゃうよ」

 同情を誘う七星の訴えに、ジェシカは顔色一つ変えない。

 彼女は画面を出すと、何かのメモを読み上げていった。

「昨日は〈DDCF〉の今後の方針と要員計画についての叩き台作成。【アイギス】到着時の宴会計画。一昨日は〈DPCF〉の中期スケジュール作成。中学校の教育カリキュラム見直し。その前の日は〈DDS〉からの修理報告纏め。〈DUS〉の席替え手伝い。これ、ぜーんぶわたしがやったんですけど、本当は誰がするべき仕事でしたっけ?」

「…………」

 七星はすっと視線を逸らした。

「しかも、頻繁にホシさんを訪ねてくる地球侵攻派の人達の対応をしたのもぜーんぶわたしなんですけど?」

「…………」

 七星は落ち着きをなくしそわそわし始めた。

 ジェシカは大仰に脚を組み、わざとらしく髪の毛を弄りながら言った。

「ホシさんってどんなお立場でしたっけ? 決める権限を持っている人がいないと困ることっていっぱいあるんですよねえ。あーわたし、大変だったなあ。これ、誰のせいなんでしょうね? ねえホシさん?」

 射すくめられたネズミのように七星は小さくなった。

「俺のせいだね、ハハ……」

「『ごめんなさい』は?」

「ごめんなさい。正座はもう解いてもいいかな?」

「これまでいったい何をしていたんです?」

「それはちょっと言えないというか」

「じゃあ、正座を続けて下さい」

 ニコニコと目だけ笑っていない笑顔でジェシカは言い放った。

 これを見た野次馬たちからは妙な推測が出始める。

『言えないことって、まさかホシさん、別の女のところへ……?』『修羅場?』『そりゃジェシカさんも怒るよな』『ホシさんがねえ、意外ー』

 どうやら痴話喧嘩にしか見えないようだ。

 セシオラから見ても、確かにそういうようにしか見えない。

 というか、若干そういう(、、、、)面もあるのかもしれない。まあ、七星さんに限って女性問題を起こすことはないんだろうけど。

 何だかいたたまれなくなってセシオラは進み出た。

「あの、とにかく場所を移して話しませんか?」

 ここだと目立って仕方がない。

 七星から聞き出すにも、まずは場所を移さなくては。

 そうしたら、野次馬たちには更なる誤解を与えてしまったようだった。

『なに、新しいコ?!』『おいおい、今度はちっちゃい女の子が出てきたぞ!』『ホシさんパネエっす! どうやって知り合ったの?!』『いいぞやれやれー!』

〈DUS〉はお祭り騒ぎになってしまい、野次馬にこなかった人達からは迷惑そうな咳払いが聴こえてきた。

 ジェシカもそれを見て冷静になったのか、同意を示した。

「仕方ないわね……ほら、ホシさん、行きますよ」

 そうして七星は歓声の中、女二人に連行されていった。


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