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天才設計士の恋愛事情  作者: 滝神淡
誰が為に地球はあるか
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第75話

 地球への回答まで残り七日。


 カジノ奥の通路はやはり寂しい。

 メルグロイは壁に背を預け、通路の奥に視線を向けた。

 綺麗に磨かれていて、つまらなくて、うら寂しい通路。

 故郷ではうら寂しい通りなど一人では歩けなかった。

 いや、二人や三人でも被害者が増えるだけか。

 艦内という限定された空間ではさすがにそこまで治安が悪くなることはない。

「ちょっと、聞いてるの?」

 不満げな声が聴こえてくる。

 それは正面に立つセシオラの声だった。

「ああ、悪い悪い。何の話だったっけ」

 メルグロイは調子よく返事をする。

 そうするとセシオラは年頃の女の子らしく頬を膨らませる。

 こうした仕草がほほえましく、可愛らしいと思った。ぜひその可愛らしさで良い相手を捕まえてほしいものだが……つい最近まで友情に振り回されていたからな、まだまだ愛情を追いかけるのは先か。何せ、愛情を追い求めるようになると友達もライバルになるからな。出し抜いて出し抜かれて、それでも表面上は仲良しだ、おおこわっ。まあそれはどうでも良い。本当に何の話をしていたんだったか……

 最近ぼんやりすることが多くなった気がする。時間が大切だというのに……

 そんな自分に微かな苛立ちを覚えたところでセシオラが次の言葉を紡いだ。

「だから、地球からのメッセージにみんな怒って戦うべきだって声がいっぱい挙がってるんだって」

「ああそうか、その話だったな」

 メルグロイはようやく現実に引き戻された気がした。そうそう、地球からのメッセージが来てからというもの、ずいぶんな騒ぎになっているようだ。単純だねえ。

「まったく、他人事なんだから……このままみんなで戦おうって空気になったらどうするの? 七星さんの地球侵攻を応援しようって人達も出てきているのに」

「ははは、噂なんて信じて、このまま戦いの空気になってくれるのも良いかもしれないよ」

 茶化すように言うと、セシオラは首を振った。

「七星さんはやる気だよ……噂なんかじゃない」

「何だ、君も噂に感化されちまったのか? まあ嘘も百回言えば真実のように思えてくるものだし、自己暗示みたいになってしまったんじゃないか?」

「違う違う! そうじゃない、七星さんの業務日誌にも書いてあったんだって!」

 切実に訴えてくるセシオラも妙にほほえましく思えた。

「セシオラ、そう思ってるからそう読めてしまうんだよ。どうとでもとれる言葉だって思い込みで都合の良いように読めてしまう。良いかい、これだけは忘れちゃいけない……我々は翻弄する側であって、される側じゃない。もう作戦まで近いんだ、しっかりしてくれ」

「むー……メルグロイだってしっかりしてよ。ぼんやりしてばっかり」

「おっと、これは一本取られたな」

 メルグロイは道化のようにおどけてみせた。

 それからようやく真面目に相手するように考える表情を作って続ける。

「まあ、結束されちゃ困るのは困るんだよな。地球艦隊が負けるなんてことはないんだろうが……混乱したままサクッと終わってくれるのが一番良い。何せ、ここの機体は地球のより遥かに世代が進んでいるからな。結束してハッスルされてしまうと地球側も大きな被害を受けるだろう」

 宇宙へ上がってから一番驚かされたのは機体の性能の高さだ。

 地球で訓練してきたものの、それとは比べ物にならないほど【アイギス】の機体の性能は高かった。

 きっと【アイギス】は生き残りをかけて死に物狂いで機体を生み出していったのだろう。

 地球は結局のところ、十年前から一世代しか進んでいない。

【アイギス】からデータをもらいながら研究は続けていたものの、国同士のパワーバランスとか、紛争とか、そんなことを考慮に入れていたら宇宙専用機を作るのはやめようという動きに途中で方針転換したり。

 危機だというのにアホなことをやっていた結果、なかなか話が進まなかったのだ。まあ、俺は国がアホなことをやっていようがさして興味も無いが。自分が何とか生活していくことくらいしか考えられなかったし。今日の昼食をどうするのか、という方が重要な関心事だ。

「それに、なんか凄い兵器も持ってるみたいだよ……」

 セシオラがもごもごと不安を口にしたので、メルグロイは頷いた。

「ああ、あれね。特別な機体があると言われている。隊長が【アイギス】の上層部にもかけあってみたんだが、『何か凄い機体』という情報以外出てこなかった。隠しているというより本当に知らないって感じだったようだな。それが巣の破壊をしてきたみたいだけど、謎だよな」

 謎の機体があることは地球にメッセージを飛ばしてある。

 地球からメッセージが届いたということはこちらから送ったものも受領しているはずだが、情報が足りない以上、対策のとりようがないだろう。何せ俺達も対策のとりようがない。脱出する時についでに奪えないだろうか?

 それは余裕があったら、で良いか。作戦は途中で変更を加えたりすると崩れやすいしな。



 セシオラは〈DUS〉に向かいながら考え事をしていた。

 さきほどの話ではメルグロイに勘違いされてしまった。凄い兵器がある、と言った時に彼は特別な機体のことを思い浮かべていたようだが、わたしが言いたかったのは『電磁爆弾』のことだ。

 その後メルグロイが一人で長々と喋っていたために結局言い出せず終いだった。

 これが使われたら地球艦隊はひとたまりもないだろう。

 ちゃんと言った方が良かっただろうか。

 地球艦隊にも伝わっていた方が良いんじゃないのか。

 ちょっと不安になってしまう。

 通路に目をやると、そこかしこで地球との対決を語り合う人達が見えた。

 そうした中に地球人は混じっていないのだが、それだと妙に目立ってしまう。

 語り合う人達の横を素通りすると、見られているような気がした。

 地球人という肩書きのせいで疎外感を覚えてしまう。でも、地球人なのに『地球と戦うべき』なんて話に入るわけにいかないじゃないか。

 セシオラは下を向きながら自然と速足になった。

〈DUS〉に到着すると、入れ替わりに五~六人の一団が出ていった。

 その一団は残念そうにしていた。

 セシオラがジェシカの席に行くと、ジェシカが溜息をついて迎えてくれる。

「いらっしゃい、本当に疲れるわ」

「どうしたんですか?」

 するとジェシカは入口の方を指差す。

「いま一団が出ていったでしょ? あの人たちはホシさんに会いに来たのよ。この際ホシさんを総司令にして地球と戦いましょうってね。ホシさんはいないし、お帰りいただくのも大変だったわ」

 セシオラは入口の方に目を向け、そうだったのかと納得した。すれ違った一団は七星さんに直訴しに来ていたのか。

「七星さん、みんなにモテるんですね」

 そんなことを言うと、ジェシカが苦笑いで返した。

「ホシさん、全然つかまらなくなっちゃって困っちゃうわ。じっくり話したいんだけど、さっきの一団みたいな訪問者が次から次へ尋ねてきてホシさんがそれを宥めるのに必死になって、最後には『対応するのが面倒だから、あと、頼むわ』なんて言って逃げちゃうし」

「じゃあ……けっきょく訊けず終いなんですね? 業務日誌のこと」

「うん、そう。でも妙なのよね。戦おうって人が会いに来てるのにホシさんは追い返してしまうんだから」

 両腕で頬杖をついてジェシカが呟く。

 セシオラも変だな、と思った。

 単に計画を最後まで隠しておきたいだけだろうか。

 それともやっぱり、噂は噂?

 いったい彼は何を考えているのだろう。


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