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天才設計士の恋愛事情  作者: 滝神淡
その目的は
57/121

第52話

〈DDCF〉では新たな課題が出された。

 それは『何でも良いから新しい機体を作れ』というもの。


「うわー雑な指示だなぁ。まるでとってつけたような課題だよ」

 そんな風に愛佳がぼやくのを電志は隣で聞いていた。

 課題が出されたこと自体は歓迎すべきことだった。

 遊びに行こうにも【グローリー】の艦内では限界がある。

 暇なら何か新しいことにでも手を出してみるか、という発想もあるが、急には思い浮かばない。

 作曲や作画がすぐにできるのなら挑戦してみても良いのだが、ゼロから始めるのには少々腰が重い。

「まあ、適当に何か作るか」

 電志がそう言うと愛佳は机に頬杖をついた。

「じゃあ『愛佳LOVE』ってでかでかと書かれた機体を作って」

「却下だ」

「適当って言ったじゃあないか」

「何でも良いわけじゃない」

「それなら電志の恥ずかしいメモ帳からもう一機、作ろうよ」

「それも却下だ」

「でもあの恥ずかしいメモ帳から【黒炎】が出来上がったんじゃあないか」

「『恥ずかしい』を連呼するな。実際見られると恥ずかしいんだが。それに、あのメモはボツになった機体ばかりだ。その中から【黒炎】を見付けたのは奇跡に等しい」

 正直、愛佳があの中から【黒炎】のモデルとなる機体を選び出した時には驚いたものだ。俺のメモをいつの間にか盗み出していたりパスワードも突破したり……なんか機体選び以外にも色々と凄かったな。

「ボクには奇跡を起こす嗅覚がある」

「犬か」

「ふふふ、ボクの可愛さは犬にも負けないということだね! さあ例のメモ帳を」

 愛佳がいそいそと画面を出したので電志は彼女の腕をがしっと掴んだ。

「まだ削除してなかったのか」

「削除する理由が無い」

「いや、あるだろ。それ俺のファイルだし」

「ボクの記録領域に置いてあるんだから、ボクのものだ」

「盗人猛々しいとはこのことだ」

「仕事ではよく『先輩の仕事を盗め』と言われるじゃあないか」

「本当の意味で盗む奴はいねえよ」

「それにキミは先輩ではなかったね。さあこの手を放すんだ。それとも『センパイ(はぁと)』とでも言われたいのかい?」

 愛佳は笑顔で操作を続行しようとする。

 そしてそれを阻止し続ける電志。

 二人とも腕がぷるぷる震えていた。

「それは魅力的な提案ではあるが、こんな所でメモを大公開されちゃかなわない」

「へえ、それなら外に出れば良いのかい?」

「いや、駄目だ」

「もー……ケチだなあ電志は。本当にケチだ。ケチが服着て歩っているようなものだね」

 愛佳が不承不承といった感じで折れる。

 彼女の腕の力が抜けたことで電志も手を放した。

「ケチじゃない。とにかくそのメモを開かなければ良い」

 すると愛佳はメモを閉じ、画面に絵を描き始めた。

「というか、ボクはもう何度も見返したからどこに何が書かれているかも大体分かっているんだけどね」

 鼻歌交じりに描き上げていくそれは、電志が中学一年生の時に妄想から生み出した機体だった。

「お前には何を言っても無駄なのか……」

 電志は力が抜け、うなだれてしまった。本当にコイツは、これと決めたら執念深いな。犬ではなく蛇かもしれない。


 夕方になるとまたエリシアと一緒に〈DDCF〉を出た。

 途中ですれ違う者や、たむろしてお喋りしている一団などが噂話に興じている。

 やはり『総司令が地球に侵攻しようとしている』というものだ。

 電志は胡散臭そうにそれらを眺める。

「あまり現実的じゃない」

「そうね。でも……あり得ない話でもないと思うわ」

 エリシアがそう言うので、電志は歩きながら彼女の方へ目を向ける。

 彼女の前髪は歩調に合わせきびきびと揺れていた。

「そうか?」

「もう十年も前に地球は【アイギス】へ増援を送ってこなくなった。そしてこの十年間、【アイギス】は宇宙機を進化させ続けた。この意味は分かる? 十年分も技術が離れたのよ、地球と【アイギス】で」

 靴音が通路に響く。

 電志は顎に手をやって考えた。

 十年分も技術に差が開いていたとしたら。

 通常のペースでも宇宙戦闘機が一~二世代、代替わりしているはずだ。

 特にこの十年は途轍もないサイクルで代替わりしたので、八世代も代替わりしている。

 地球がもし昔のままの機体しか保有していないのなら、八世代も前の旧型機ということだ。

 そんな旧型機と【アイギス】の機体を比べたら、自転車と自動車で相撲をとるようなものだと思えば良い。

「十年分か……そのまま差が開いているとは考えにくいが……向こうも【アイギス】を見捨ててから戦闘機をどう進化させたんだろうな」

「【アイギス】を見捨てたくらいだから、少なくとも宇宙での性能は度外視したんじゃない?」

「それもそうか……」

 それでも性能差で数を覆せるかは微妙なところだが、無謀であると一言に切って捨てるほどあり得ない話でもないのか、と思い始めた。


 秘密の部屋に到着すると、調査の続きとなる。

 電志は早速〈プレーン〉に収められている資料を読み漁った。

 大気圏突入時、何故高温にさらされるのか。

 その仕組みについて解説している箇所が無いかと探す。

 そうしていると、意外な記述を発見した。

「何だこれ……『大気圏突入で高温になるのは、摩擦熱ではない』……?!」

 電志が声を挙げると、カイゼルもシゼリオも集まってきた。

 書類を作成していたらしい七星も振り返り、宇宙機のシミュレーターマシンの整備をしていたゲンナもちらりと目を向けた。

 カイゼルが電志の右肩から顔を出して画面を覗き込む。

「むむっ……摩擦熱というのはよくある誤解だって?」

 シゼリオが電志の左肩から顔を出して画面を覗き込む。

「『断熱圧縮』……これが熱の正体か」

「そうらしいな……」

 解説を目で追いながら電志は呟いた。


 大気圏突入時、超高速の機体は前方の空気を押し潰す。

 押し潰された空気中の分子同士が激しくぶつかり合い、熱が発生する。

 これを『断熱圧縮』という。


 空気は一気に膨張させると温度が下がり(断熱膨張)、圧縮させると温度が上がる(断熱圧縮)という性質があるらしい。

 エアコンの冷房と暖房もこの原理を用いているようだ。

 燃え盛る大気圏突入の話がエアコンになってしまい、一同は呆然としてしまった。


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