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天才設計士の恋愛事情  作者: 滝神淡
その目的は
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第51話

 未知に対しての捉え方は想像だ。

 それはファンタジーの世界と言っていい。

 想像が増殖し、現実から離れたところにイメージを形成するのだ。

 そのイメージは不確かながら確かな存在感を放ち、大きな副産物(、、、、、、)を生み出す。


 電志は真剣に考え込んだ。

『地球生まれ』という言葉は偏見だったのではないか?

 今まで気付かずに使っていた『地球生まれ』という言葉。

 そこには暗に種としての違いを意識していなかったか。

 彼らは全く別の環境で育っている、と。

 しかし、七星の何気ない一言で同じ空気を吸って生きている、と知る。

 何故今まで気付かなかったのか、と悔やまれる。

『地球生まれ』は巣の破壊作戦で【アイギス】に大量にやってきたが、普通に暮らしているではないか。

 空気の成分に違いがあれば、何かしらの対策が必要になるはずだ。

 逆説的に考えれば、地球にも同じ空気があると分かりそうなものなのに。

 元々地球で暮らしていた人類が宇宙へ進出していったのだ。

【アイギス】が地球を真似するのは当然のことである。

 知らないことが偏見を生み、知ろうとしないことが偏見を育むのかもしれない。

 もしかしたら、この極秘任務はそうした偏見の壁を打ち破ることが肝なのか。

 それなら、貪欲に知ろうとしなければならない。

 電志は七星へ疑問をぶつけてみた。

「それなら、大気圏という層があって、その下に空気で満たされている空間があり、その下に地表があるんですか?」

「いや、大気圏というのは特別な層じゃない。空気がある範囲だと思えば良い」

「大気と空気は、呼び方が違うだけ……?」

「そうだ。だから『大気圏突入』というのは、空気の中に機体を突入させることなんだよ」

「空気の中に機体を突入させる? ……それって、何が危険なんですか?」

 電志が持っているイメージでは、『大気圏』という熱を持った層があるというものだった。

 そこへ機体を突入させるから高温になる、それなら理解しやすい。

 だが『大気圏』とは単なる空気だという。

 それが何故高温になるのだろうか。

 原理が分からない。

 七星はそこで頭を掻いた。

「それが、俺もよく知らないんだ。空気との摩擦じゃなかったか。ほら、物をこすると熱が出るだろう?」

 へえー、と電志やカイゼル、シゼリオが感嘆の声を漏らす。

『大気圏突入』のイメージがガラリと変わった。

 これまでは『大気圏』という灼熱の層が地球を覆っているように考えていたが、違った。

 地表の上に空気の層があり、その上に『大気圏』という層が存在するという三層構造も崩れた。

 地表の上に空気の層がある、その二層構造だ。


 だが【アイギス】を基準に考えると、どうも腑に落ちない。

【アイギス】では〈コズミックモンスター〉の襲撃がある度に宇宙戦闘機が発進し、そして帰還していた。

 その時、帰還する戦闘機が熱せられたことなど無い。

 だが地球の場合は熱せられる……?

 それはシゼリオも感じた疑問のようだった。

「僕たちは何度も【アイギス】で発進と帰還を繰り返してきた。しかし機体が熱を持ったことは無かったような……」

 そこへカイゼルが考察を口にした。

「それは空気が【アイギス】の中にしか無いからじゃないかい? 発進する時はまず格納庫から発進用レーンへ機体を出す。その時扉を何度かくぐるハズだ。空気があるのは格納庫までで、発進用レーンは既に【アイギス】の外、空気の無い宇宙のハズだよ」

「うーん……そうか、確かに発進用レーンに空気は無い。帰還も発進の逆を辿るだけだから空気の中に飛び込むわけじゃない。でも待てよ……帰還して、格納庫に機体を戻す時には空気のある場所に機体が入っていくわけだよね。それは何故大丈夫なんだろう?」

「オゥそれは盲点だった! これは仕組みをよく知りたいところだね」

「摩擦ということは速度が関係しているのかな? 格納庫に入れる時は飛行中と違ってゆっくりだし。漫画では故障で胴体着陸することになった機体が激しい火花を散らしていたよ」

 シゼリオの提示したようなシーンは確かに漫画やアニメで見かけたことのあるものだった。

 だがそれも電志は奇妙だ、と思い始める。

「機体が胴体着陸する時火花が出るというシーンなんだが……それは物体と物体が擦れて起こっていることだろう? 物体と空気でもそれが起こるのか?」

 例えば、【アイギス】の中を宇宙戦闘機が飛べば熱せられるのだろうか? とてもそんなことが起こるようには思えないのだが……

 そうして三人で腕組して考え込む。

 まだまだ謎が多い。

 これに関しては継続して調査していく必要がありそうだった。


 翌日。

 電志は大気圏突入に関して様々な推測を重ねながら自室を出た。

 秘密の部屋にいる時以外は極秘任務に関する調査をしないルールになっていて、〈コンクレイヴ・システム〉で調べることはできない。

 だが興味は完全に極秘任務の方へ傾いており、脳内で想像の粘土をひたすらこねまわしているのだ。

 そのため周囲への注意は散漫になってしまう。

 ぼけっと歩き始めたところで人とぶつかってしまった。

「いたぁっ……!」

 相手が転んでしまい、女の子の声が聴こえてきた。

 電志は思った。何だこのベタなボーイミーツガールみたいな……

 とはいえ相手を転ばせてしまった以上、声をかけないわけにもいかない。

「済まない。だいじょう、ぶ、か……?」

 なんて言いながら電志は目を瞠った。

 転んだ相手は愛佳だったのだ。

 愛佳はニヤリと口の端を上げ、手を出してきた。

「ふふふ、どういうことだい? まるでベタなボーイミーツガールみたいな展開じゃあないか。電志はボクともう一度出会いたかったのかな? 自己紹介でもした方が良いかい?」

 電志は愛佳の手を取り、助け起こす。

「この宇宙はベタな展開がお嫌いらしい。それに俺は、新しく出会ってもチャンスをモノにできないだろう」

「ヘタレだね」

「普通だろ」

 たかがぶつかった程度で彼女ができるなら苦労しない。そもそもぶつかった時点で良い印象は持たれないだろう。口汚く罵られるか、気味悪がられて後ずさりされるか、というパターンが王道ではなかろうか。そんな状況では『あ、すいません……』と言ってその場を去るぐらいが関の山だ。

「で、何を考え事していたんだい?」

 突然愛佳が核心に切り込んできたため、電志は瞳を揺らした。

 極秘任務の話からはなるべく遠ざけなければならない。

「…………火星圏のことだよ。【アイギス】の姉妹拠点があっただろう。あれがどうなったのかが気になってな」

 火星圏は奪還できたものの、まだ分かっていないこともある。

 火星軌道上に【アイギス】と似たような拠点があったはずなのだが、その残骸が見つかっていないのだ。

〈コズミックモンスター〉に滅ぼされたという事実があるだけで、それが〈コズミックモンスター〉の巣になったのか、それとも食い尽くされてしまったのか、はたまた火星に墜落してしまったのか……

 巣の調査を行った時には拠点の残骸は発見されなかったので、少なくとも巣の核として拠点が使われたわけではないのだろう。

 そんな話を振ってお茶を濁した。

 隠し事をするのも大変だ。


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