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天才設計士の恋愛事情  作者: 滝神淡
侵攻作戦

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32/121

エピローグ

 祝勝会。

 皆の喜びようは異様と言えるほどだった。

 それはひとえに抑圧からの解放がそうさせたのだろう。

 火星圏で壊滅的な敗北を喫し【アイギス】に篭城してからもいつ陥落させられてもおかしくない状況だった。

 何度も損傷を受けその度に大勢の犠牲者が出た。

 当然家族や友人、恋人を失う悲劇も日常のように巻き起こった。

 暗い牢で延々と打ち据えられ明日も見えないような状況だったと言える。

 皆辛さを口に出さないようになり、外見だけは普通にしていた。

 だが抑圧されていたのだ、ずっと。

 勝利と言うこの日は、十年分蓄積した負の拘束具を一気に脱ぎ去ることができたのだ。

 果てしなく軽くなった心が躍りだしてしまうのも無理からぬことだろう。

 そこかしこで酒を掛け合ったりテーブルに載って唄い出す者までいた。

 人口密度の高い場所ではとても誰が何を話しているか聞き取れない喧騒である。

 じっくり話したい者達はその輪から自然と離れ、各々がグループを作っていた。

 そのグループの一つに、電志達の姿があった。

 電志はテーブルに山のように置かれた軽食から控えめに手に取り口に運び、愛佳はジュースを飲みながら足をぶらぶらさせている。

 七星はハムスターみたいに口いっぱいに軽食を詰め込んでモリモリ食べていて、ジェシカはそんな七星をニコニコと眺めていた。


 電志は愛佳を助けに行った時のことを思い返していた。

 あの時銃撃で壁や床に穴が穿たれたのを見て、思ったのだ。パイロット達で〈コズミックモンスター〉を止められなかった場合、俺達の身も危ない。

 パイロット達と自分達(、、、、、、、、、、)は一蓮托生なのだ(、、、、、、、、)

 結局、パイロット達に良い機体を作ることは自分達の身を守ることにも繋がる。良い機体を作って敵を近付かせる前に倒してもらう。そうすることで、自分の命も、皆の命も守ることになる。WIN‐WINの関係だ。打算が無ければ動きたくないという者も、自分のためにもなると知れば考えが変わるのではないだろうか。

「……だから、【設計とは何か?】それは……【皆を守ること】なんじゃないでしょうか」

 そう電志は七星に言ってみた。確証は無いが、何か確信めいたものはある。

 七星は手近な椅子に腰掛け、優しい目になり語り始めた。

「十年前俺が考えてた事はな、『戦闘機とは何だ?』だったんだ。戦闘機とは何か? 戦うものだ。だが戦うと同時に守るものでもあると思った。何を守るのか? 【アイギス】だ、【アイギス】がやられないように守るものだ。【アイギス】にモンスターが到達すれば、多くの人が死ぬ。俺は【アイギス】の皆の事を家族だって思ってる。だから、パイロットが倒れる事は家族を失う事だし、パイロットが倒れれば【アイギス】を守る者が失われ……【アイギス】の皆という家族も失う事に繋がる。だから俺にとっての設計とは【家族を守るもの】になった」

 電志の脳裏に十年前のあの日が蘇る。

 穴が開いた通路。

 充填剤で穴が塞がれていくがその時モンスターは既に【アイギス】に到達してしまっていた。

 多くの人が死んだ。

 愛佳も話を理解し、聞き入っていた。

 そして十年前を思い出しているようだった。

 設計士は前線に出ていなくても、自分達の、皆の命に最終的に返ってくる重要な仕事をしている。

 パイロットが代わりに前線に出ているだけで、パイロットの戦いは即ち設計士の戦い(、、、、、、)なのだ。

 そこで電志は気付いた。

 戦い(、、)

 あの時七星が肩をごつごつした手でがっしと掴み、真っ直ぐ目を合わせて、言った言葉。

『これが、俺の戦いだからだ……!』

 そうかそうだったのか、と十年前の記憶と繋がった。

 超新星爆発と思える衝撃。

 電志は椅子の肘掛をこれでもかと掴み、感激に目を潤ませながら七星に迫った。

「十年前『これが俺の戦いだ』って言ったのはこの事だったんですね……! 家族を守るために、設計士の自分は設計で戦うと!」

「それプラス待ってる間にできる事は避難誘導とかだったからな。それも含めての戦いだ。戦いってのは殴り合いだけじゃない。自分のできる事を(、、、、、、、、)できる形で行う(、、、、、、、)。それも戦いだ。花形のパイロットと違って地味だが、裏方の俺らにはこれくらいが丁度良いだろう」

 そう言って七星は爽やかに歯を光らせた。

 その隣にいるジェシカが微笑すると、ポケットから棒菓子を取り出した。

 それを電志と愛佳に配る。

「これね、昔から出撃の後とかによく食べるの。手持ちがそれしか無いからあげるね」

「今回は二本だったな」

 電志が苦笑すると愛佳がふふんと不敵な笑みを見せた。

「電志は一本が良かったのかい? いやらしいなあ」

「これってミリー先輩も好物だったような」

 電志が尋ねると七星は視線を虚空に投げた。

「そういやそうだったな。中学の終わり辺りからか、ジェシカの影響だろうな」

 すると、該当する人物が緩く手を挙げてやってきた。

「や」

 ミリーは状況を一瞥すると、にやりと笑った。

 そしてポケットから棒菓子を二本取り出す。

 一本をジェシカへ渡し、それから七星へ向き直って胸を突き出した。

 胸ポケットに挿してある一本を取れと言わんばかりだ。

 七星は頭が痛いとばかりにげんなりとした表情になった。

「あのな……そっちの手に持ってる方をくれれば良いだろ?」

「これは私のだから」

 するとジェシカがするりとミリーの胸ポケットから棒菓子を抜き取り、七星へ渡した。

 ミリーは口を尖らせて唸った。

 棒菓子を渡すジェシカと受け取る七星のやり取りは、まるで日常の様に自然(、、、、、、、)だった。

 愛佳がそれを見て、ある事に気付いた。

「あの、ジェシカさん……棒菓子は昔から手持ちは二本(、、、、、、、、、)でしたか?」

 ジェシカは驚き、そして口に手を当てて笑い、首肯した。

 電志が疑問を口にする。

「え、何? どうしたの?」

「えっとねージェシカさんは手持ちが二本だったんだよ。それでミリー先輩は後から(、、、、、、、、、)棒菓子に目を(、、、、、、)付けたんだよ(、、、、、、)。しかもね、胸ポケットに入れているのは目立つから(、、、、、)なんだよ!」


 それでも電志は分からない。

 ジェシカには二本を分け合う相手がいたという事を。

 ミリーが思春期に棒菓子を目立たせてささやかな主張を七星に向けていた事を。


 七星まで「へぇ~」とよく分かっていない声を出していた。

 設計士達の恋愛事情も、色々だ。


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