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天才設計士の恋愛事情  作者: 滝神淡
特別機制作
28/121

第25話 余談

 勝負の真相が明かされ、微妙な空気に包まれる。

 愛佳は脱力した。

 そして安堵した。

 しかし、とミリーの方へ視線を向ける。

 ミリーは俯いて口を尖らせていた。拗ねてます、と言いたげだ。天国から地獄へ。その落差は計り知れない。

「そう言えば、〈DUS〉の部長を脅迫っていうのはいったい……」

 電志が質問すると、シャノがびくっと震えた。

 愛佳は確信した。どうせこいつだろう。でも『証拠がない』とかいって言い逃れする気がする。

 七星はそうすると、意外な人物を呼んだ。

「エリシア、いるか?」

「はい、ここに」

 エリシアは颯爽と現れた。

 まるで事件の解決の時に出てくる探偵みたいに。

調べ(、、)はついたか?」

「ええ、それはもう(、、、、、)

 それから、エリシアは隣にいるシャバンに目配せした。

 シャバンは頷くと、画面を出した。

 画面にはシャノの姿が映っていた。

 スキップして〈DUS〉の部屋から出てきたところだ。

『ふふー〈DUS〉部長の買収に成功♪ ヅラで脅迫しただけでオチるなんてちょろいですーふふふーこれでミリー班の勝利は確実ですー』

 終了。

 場が静まり返る。

 ミリーが低い声でシャノに迫った。

「シャノ、これはどういうことだ?」

「こっこれはですねーわたしに似た双子さんがー!」

 言い訳が苦しすぎる。

 周囲は皆白けた表情で見つめた。

「シャノ、ここにピーマンがある」

 何故かピーマンを取り出すミリー。

 シャノは戦慄した。

「ひいいっやっぱり双子じゃなくてわたしのもう一つの人格がー!」

 シャノは全力で逃げ出した。

 しかしその行く手を遮る影があった。

 それはサントス班の班長であるサントス。

「シャノ……お前に撮影された俺のプライベートが暴露されたせいで、俺は彼女にフられちまったんだ。『抜いた鼻毛を机に並べる人なんて嫌』って全否定されたんだぞ!」

「そっそれは遅かれ早かれ言われることだったのではー!」

 今度は別の方向へ逃げようとするシャノ。

 しかしその先にも人影。

 愛佳の友達エミリーだ。

「アンタが公開したわたしの動画のせいで、わたしすっごい恥ずかしい思いしたんだけど!」

「恥ずかしい自作の歌なんかやめた方が良いですー!」

 更に別の方へシャノは逃げようとするが、そこにも立ち塞がる者がいた。

 愛佳だ。ここはもう懲らしめる時だと思った。

「キミはあんな演技(、、、、、)でボクをハメようとしたんだよねえ……」

「あっあれはわたしを可愛いーく見せようとー!」

 三方向から迫られ、もはや逃げ道は一つしかなくなった。

 しかしその逃げ道からはミリーがゆらりゆらりとやってくる。

 混乱するシャノを三人で取り押さえた。

『さあ観念するんだ!』

「んひいっ助けて下さいー!」

 シャノはジタバタするが、逃れられない。

 ミリーはシャノの目の前に立ち、ピーマンを突き出した。

「シャノ、お前はいつか大きな地雷を踏むと危惧していた。審査の買収はダメだ。私の最も忌み嫌うデキレースを、お前はやった。それどころか、そこらじゅうで地雷を踏んでいたのだ。さあ、覚悟しろ……!」

「ピーマンだけは、ピーマンだけは赦して下さいですー! もががっ……あが、あががが、ああぁえぎゃあああぁ――――――――――――――――――――――――っ!」


 数分後、シャノは正座させられていた。さすがにこたえたようだ。

 七星が続きを話す。

「まあおかしいと思った俺がエリシアに調査を依頼したんだ。エリシアはけっこう情報通だからな」

「私には優秀な助手がいるのですわ。シャバンに調べさせたのです」

 得意気にエリシアがシャバンを紹介する。どうでもいいが、『丸投げ』という言葉が脳裏に浮かんだ。

 シャバンが調べたところ、〈DDCF〉のメンバーの一人が先程のシャノの映像の撮影に成功していた。

 そして〈DDCF〉内部ではいたるところでシャノが問題を起こしていたことが発覚。

 サントスやエミリーに協力してもらったのである。

「さて、シャノの方は身に沁みただろう。最後にミリーに教えておきたいことがある」

 七星は真摯な表情でミリーに言った。

「うん」

 ミリーは伏し目がちで応じる。

「ミリーが浪漫を追い求めるのは『パイロットのため』だと言った。確かにパイロットのために設計をするのは大事だ。それは間違ってはいない。だがな、それと同時に忘れてはならないことがある。設計というのは〈DDCF〉だけでやっているのではない。今回ミリーは〈DRS〉に無謀な実験をさせ、〈DDS〉には不可能な開発をさせようとした。これはいただけない。電志はどうしていた? 電志は〈DRS〉にも〈DDS〉にも無茶は言ったかもしれない。でも無謀でも不可能でも(、、、、、、、、、)ない依頼をしたはずだ(、、、、、、、、、、)。〈DRS〉とも〈DDS〉ともうまく意思疎通し、できる確信を得てから設計したはずだ。電志はこうした部署同士の繋がりを、大切にしているんだよ。〈DRS〉や〈DDS〉もあっての〈DDCF〉なんだよ……! そいつらを蔑ろにした【設計】なんて……有り得ないんだ」

 七星はミリーの肩に手を置き、丁寧に言い聞かせた。

 それはミリー以外にも聞いている者の胸に沁み込んできた。

 それだけ七星の言っていることは重要なことだった。

 ミリーは胸ポケットから棒菓子を取り出し、電志に差し出した。

「……お前の勝ちだ。好きにすると良い」

「は、はぁ……」

 電志が呆けた表情で受け取る。

 どうやら勝負の商品は棒菓子だったらしい。

 それからミリーの気持ちも明かされた。ミリーは勝利したら、電志よりも自分が七星の一番弟子だと認めさせるつもりだったらしい。

『関係をはっきりさせる』=ミリーと電志の上下関係をはっきりさせる。

『大人の場所に行く』=〈DUS〉に行き、七星に話す……だったらしい。何とも紛らわしいかぎりだ。

 愛佳は胸中で反芻する。部署同士の繋がりも大切、か。

 浪漫でもないとしたら。設計とは……


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