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天才設計士の恋愛事情  作者: 滝神淡
終末の歌
113/121

第106話

 脱出艇格納庫のゲートが開いていくのを、電志は厳しい目つきで見詰めていた。

 そろそろだ。

 ゲートが開いたということは、そろそろ【黒炎】が発進する。

「ねえ電志」

 隣から愛佳が声をかけてきた。

 電志は【黒炎】の方に目を向けて応じる。

「何だ?」

「もしかして、シゼは【黒炎】に乗ってるんじゃない?」

「…………あ」

 重要なことを忘れていた、と電志は気付く。

 そうだ。その可能性を忘れていた。シゼリオは極秘任務に参加していたじゃないか……!

 ということは、今【黒炎】に乗っているのはシゼリオである可能性が非常に高い。

 ではシゼリオが搭乗していると仮定しよう。

 しかし、そうしたら……捕まえられるだろうか?

 ナキの腕をもってしても、不安になってきた。

「電志、不安そうな顔しないでよ」

「お前が不安にさせたんだろ」

「何でも人のせいにすれば良いってものじゃあない」

「ナキなら大丈夫だろう、きっと」

「もっと確証が持てるような言い方してよ。不安だなあ」

「不安そうな顔するなよ」

「『お前が不安にさせたんだろ』」

「真似すんな」

「『真似すんな』」

「小学生かよ」

「『小学生かよ』」

 愛佳はわざとイラつかせるように変な声で真似してくる。

 そして素直にイラつくのが電志だ。

 電志は愛佳の頬をつねった。

 愛佳もつねり返してきた。

「ハイ、ストップ! こんな時にじゃれあってる場合じゃないでしょ」

 ジェシカが割り込んできたことで電志が我に返る。

「そうだった! 見逃すわけにはいかない」

 全員宇宙服を着るようにアナウンスが入る。

 脱出艇が発進可能状態になった以上、ここから先は何が起こるか分からない。

 脱出艇自体は生存環境が整備されているが、航行途中に被弾した等で船体に穴が空いてしまうこともあり得るのだ。

 宇宙空間と同じつもりで乗っていなければならない。

 他の者達が宇宙服を着ていく中、電志はぎりぎりまで待った。

 そして、その時は来た。

【黒炎】の置かれている辺りが激しく発光する。

 始動だ。

 電志は即座にナキへ通話要請。

【黒炎】がゆっくり動き出す。

 通話が繋がる。

「動いた! 【黒炎】が出るぞ!」

『分かった!』

「シゼリオが乗っている可能性が高い。絶対に捕まえろ!」

『……ホント?! じゃあ絶対捕まえる!』

【黒炎】の動きが急激に速くなる。

 脱出艇格納庫内に轟音が響き渡る。

 振動。

 通話を終了させる。

 後は祈るだけだ。

 振動、轟音、振動。

 そして。

 その巨体は飛び立って行った。

 電志は宇宙服を着ると、腕組みして目を閉じた。

 もうこちらができることは何も無い。ナキを信じる。ずっと一緒に戦ってきた【スクーラル・スター☆】のメンバーを信じる。きっとあいつらなら、やってくれるはずだ。もう戦いを止めるチャンスは、ここで最後だ、絶対成功させてくれ……!

 愛佳も、ジェシカも、カイゼルも、沈黙して待った。


 知らせはすぐに来た。

 だがとても神経をすり減らす三十秒だった。

 ナキから通話要請が入る。

『電志、捕まえたよ!』

「本当か!」

 電志は思わず立ち上がった。

『本当! 【黒炎】がそっちに戻っていくよ!』

 電志は拳を握りガッツポーズした。

 愛佳達も声を上げて喜びを露わにした。

「よくやった! さすがナキだ!」

『えへへ。これでシゼと会えるね』

「そのはずだ。コックピットから引きずり出して抱きしめてやれ」

『うんそうする!』

 でもね、とナキは考えるような口調で言葉を続けた。


『おかしいなあ……【黒炎】ってこの一機だけ?』


「えっ……?」

 電志は凍り付いてしまった。

 即座に【黒炎】が置いてあった方へ視線を走らせる。

 無い。

 他の機体が、あるはずの残り五機が……無い!

 暗がりでもさすがに存在自体は視認できるはずだ。

 しかも今はゲートが開いて自然光も入ってきている。

 だからはっきりと分かる。

 無い。

【黒炎】は全部で六機、存在する。

 では、残りは、いったいどこへ行ってしまったのだろうか?

 思いもよらない事態にどうしたらいいのか分からなくなる。どういうことだ? 発進の時、何機飛び立った? そこまで意識していなかった。どうする、どうすれば良い……?

 考え込む電志の肩にジェシカが手を置いた。

「電志くん、何よりもまず捕らえた一機を使うことが先決よ」

「でも、残りの五機がどこかに隠れていて、狙われるかも……」

 電志は不安を口にする。

 予想外の出来事が起こっている以上、この先が心配になろうというものだ。

 ジェシカはその不安を払拭するように、大らかに笑ってみせた。

「その時はナキ達が何とかしてくれるわ。今は考えられる時間が残されていない。考えてもしょうがない時は、進みましょう。ね、愛佳ちゃんもそう思うでしょ?」

 話を振られた愛佳は頷いた。

「電志、ボクの直感は『進め』と言っている」

 根拠ゼロだな、と電志は苦笑した。

 相変わらずだ。

 だが、その相変わらずな感じが何よりも頼もしいと感じた。

【黒炎】を作るキッカケをくれたのは愛佳だ。

【黒炎】を止めるキッカケをくれたのも愛佳だ。

 彼女の感情論は重要なところで俺の助けになってくれている。

 それなら。

 電志は愛佳に頷き、ジェシカに向き直った。

「……やりましょう。七星さんを止めて下さい。お願いします……!」

 ジェシカはしっかり頷くと、脱出艇の出口へ向かっていった。


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