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天才設計士の恋愛事情  作者: 滝神淡
終末の歌
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第101話

 セシオラはぼんやりと目の前の出来事を眺めていた。

 生き残ったのは良いが、かといって希望も無い。

 もうネルハはいないのだ。

 七星はジェシカに対し一緒に戦おうと言った。

 そして、共に王国を作ろうとも。

 それに対し、ジェシカは一瞬、目を見開いた。

 だがすぐに険しい表情になり、首を振った。

「ホシさん……今からでも遅くない、さっきの宣戦布告を取り消しましょう? きっと罰則はあるかもしれないけど……でも、そこまでの罪にはならないと思うわ」

 それは拒絶だった。

 セシオラはジェシカの様子を観察する。

 ジェシカの顔は強張ったものだ、だが我慢しているのがセシオラには分かった。

 それが何だか腹が立った。何言ってるの、嬉しいクセに……

 七星は説得を続ける。

「あいつらは武装解除してもどの道攻め込んでくる。ジェシカ、このまま黙って奴らにやられるつもりか?」

「武装解除した相手に攻撃したら国際法違反よ」

「そんなものあいつらが守るとでも?」

「まずわたし達が戦う意思が無いのを示すのが必要よ」

「ジェシカ、お前なら分かるはずだ。大人の世界はそんなに甘くないことを」

「それより、なぜ隠していたの? 総司令までそそのかして」

「このまま帰れば総司令も命が無い。というか、少なくとも地球は【アイギス】の大人を誰一人として生かして帰すつもりは無いだろう。目ぼしい技術者を数人捕虜にして、後は抹殺するはずだ。都合の悪い情報を歴史から消すために……!」

「ホシさん、それは妄想よ。きっと疲れてるのよ。だから」

ジェシー(、、、、)、俺と一緒に来い。俺はお前が欲しいんだ」

 七星は力強くそう言った。

 それは告白だった。

 利用するための告白。

 これまで決して踏み込むことのなかった一線。

 それを、目的達成のために一気に踏み越えてきたのだ。

 だがそれでも良いじゃないか、とセシオラは思った。だって、求められていることには変わりないんだから。

 ジェシカは俯き、目に涙を溜めた。

「無理よ……! だって地球に帰る最後のチャンスかもしれないのに」

「そのチャンスがお前に掛かっているんだ、ジェシー……分かってくれ!」

 七星は渾身の力で言葉を重ねた。

 それをジェシカが何とか振り払う。

「駄目、それ以上言わないで。今のホシさんを見るのが辛くなるから」

「ジェシー……お前の力が必要だ、【黒炎】に乗ってくれ」

「嫌よ」

「お前ならやれる、駄々をこねるな」

「嫌だから……!」

「……はあ……ジェシー、みんなが犠牲になるのと、少ない犠牲で地球へ帰るのと、どっちが良いんだ? もうこれが最後だ。選べ……!」

 ジェシカは拳を震わせ、しばらくの間黙っていた。

 それからやっとの思いで声を絞り出した。

「…………分かった。さよならね……」

 答えはやはりノーであった。

 セシオラは傍で見ていてイライラした。本当は誘われて嬉しいくせに、拒否するなんて。

 その反発心からか、セシオラは自然に口を開いていた。

「それなら、わたしは戦う。七星さんについていく……!」

 そうしたら七星は口の端を持ち上げた。

「よく言ったセシオラ。そうだな……戦わない者は不要だ。脱出艇に押し込めておこう。他の者はどうだ? 戦うか?」

 すると大人達は皆、頷いた。

 そうした中から少年少女が這い出すように出てきた。

 二人はがっちり手を繋いでいる。

 その二人を見ると七星が問いかける。

「電志、お前はどうするんだ?」

 ああ、あの人は……とセシオラは気付いた。七星さんの弟子だという人。一度宇宙人に絡まれている時に助けてもらった。でもその時は別の女の人を連れていた気がするけど……

 電志は俯き気味に答えた。

「俺も……戦うのは賛成できないです」

 そうしてジェシカの所へ少女を伴ったまま歩いて行った。

 七星は肩を竦める。

 それから、一人だけ宙に浮いている状態だったメルグロイの方へ目を向けた。

 するとメルグロイは微妙な表情で言った。

「俺は、まあ、戦う方が良いと思いますよ。まあ、うん」

 何だかはっきりしないが、消極的賛成のようだ。

 七星は全て決まったのを受け、全艦に命令を出した。

「戦わない者は脱出艇へ押し込めろ。敗退する地球艦隊へプレゼントしてやる。全艦戦闘準備だ……! 俺が勝利させてやる!」

 付近にいた大人達はみんな拳を突き上げて声を上げた。

 セシオラは七星の隣に行き、甘えるように寄り添った。

 そうしたら七星がセシオラの肩を抱いた。

 セシオラはジェシカに視線を投げ、優越感に浸った。まるで悪女になったみたいだ。



 通路を歩きながら、メルグロイは何だかなあと思った。

 こんな状況でも一つにまとまることはできないんだな、と。

 メルグロイはアサルトライフルは取り上げられたが、スタン弾のピストルは与えられた。

 そして今、電志やジェシカにピストルを向けて前を歩かせている。

 隣のセシオラもサブマシンガンの代わりにスタン弾のピストルを持っていた。

 もう艦内で人殺しは起こらない。

 それはメルグロイにとってだけでなく、みんなにとってほっとする話だろう。

 メルグロイは退屈しのぎに、ジェシカに尋ねてみた。

「なあ、ちょっと訊いてもいいかい?」

「なに?」

「何で頑なに戦うことを拒んだんだ?」

「戦わずに済ませたいからよ」

 ジェシカは煙に巻くかのように言った。

 本心じゃないな、とメルグロイは思った。

 だから敢えて本当のことをぶつけてみたくなった。

「こっちに戦う意思が無くても、向こうは攻めてくるぞ?」

「あなたもそんなことを言うのね」

 味気ない通路に靴音が響く。

 無為なやりとりをしているとその音も寂しげに聴こえる。

 何故だかメルグロイは本心を聞きたくなった。

 普段は他人のことなどどうでも良いと思っていたのに。この後地球艦隊と戦って死ぬかもしれないからかね。命の危険が迫っていると無駄なことをしたくなくなり、意味のあることを成そうという気持ちになる。

「俺は正規兵としてここにやってきたんだ。作戦だってだいたい知ってる。ミスター七星の言ってることが全部妄想だと断じるなら、あんたは大人の世界を知らなすぎだね」

 何せ地球艦隊がここでどれだけの殺戮をしようが、他に見ている者がいない。地球の住民にはどうとでも報告できる。【アイギス】艦隊が仮に武装解除して何の抵抗もしなかったとしても、『【アイギス】艦隊が卑劣な騙し討ちをしてきたため反撃』と発表してしまえばそれが歴史となる。歴史とは都合の積み重ねだ、本当のことなんて無いと思った方が良い。

「わたしはそうした世界は知らないわ」

「嘘だね」

「なんで?」

「あんた、俺達と同じだろう(、、、、、、、、)?」

 メルグロイは核心を突くように言った。

 するとジェシカから一瞬、表情が抜け落ちた。


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