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天才設計士の恋愛事情  作者: 滝神淡
終末の歌
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第98話

 セシオラはベータ班と共に進む。

 ベータ班だけで八人いるが、それが横一列になれるほど通路は広くない。

 二列になり、前列の四人だけが銃を撃つ。

 それでも火力としては充分だ、敵がバタバタ倒れていく。

 だが反撃もくる。

 ベータ班の前列の一人が弾を食らって倒れた。

 まあ食らってもスタン弾だ、しばらく痙攣して動けなくなるだけ……

 そう思っていたら、倒れた者の胸から血が湧き出してきた。

「えっ……?」

 セシオラは声をあげた。これはスタン弾じゃない、実弾……?!

 戦闘機格納庫では宇宙人たちに反撃を受けたという報告は出ているが、その時使用されたのはスタン弾という話だった。警備ロボットだって装備されているのはスタン弾だ。

 ベータ班は誰も気付かずに進んでいってしまっている。

 セシオラは慌てて追っていき、叫んだ。

「気を付けて、敵は実弾を使ってる!」

 ベータ班の者達は最初、首を傾げるような感じだった。

 しかし次の瞬間、また一人が銃弾を受けてうずくまった。

 その者が血を流しているのを見て、ようやくみんな気付いたようだった。

 相手がスタン弾だと思って余裕をもって行進していたが、間違いだった。

 命の危険を察知すると、みんな走り出した。

 広場に出てしまえば被弾率は下がるはず。

 この狭い通路から早く抜け出さなければならない。

 焦りは行動に表れ、乱射する者も出てきた。

 広場に出る。

 メルグロイ達も動き始めていた。

 ここで火力を集中させて一気に突破を図る。

 だがそんな時、セシオラ達の来たのとは反対側の通路に意外な人物を見付けた。

 意外な、というか、ずっと捜していた人物だった。

 ネルハと、その兄が広場に向かって走ってくる。

 セシオラは目を点にした。ネルハ、何してるの? こんな所に来たら危ないのに!



 メルグロイ達はベータ班がやってきたのに合わせて行動を開始した。

「ゴー! ゴー! ゴー! ゴー!」

 グウェニーの号令でまずレンブラ、メルグロイ、ムラファタが飛び出す。

 向かって右側の入口の方は敵の守備隊が瓦解し始めていた。

 ベータ班が来たお蔭だ。

 向かって左側の入口の方はまだまだ守備隊の人数が多く、反撃を注意しなければならない。

 メルグロイとムラファタは左側の守備隊を黙らせるべく銃口を向けた。

 そこで二~三発撃った時だ。

 非武装の少女が広場に駆け込んできて、その後を少年が追ってくる。なんだあれは……?

 ちょうど今メルグロイが撃って倒した男性を、駆け込んできた少女が助け起こそうとした。

 少女は泣きながら『お父さん!』と叫んでいた。

 メルグロイは何とも言えない気持ちになる。これは……悪いことをしたな……

 銃口を少女の方から逸らす。非武装の者は狙う必要が無い。

 だが、そんな簡単な判断もできない者達がいた。

 ベータ班は民間人を訓練しただけのやつらだ。

 広場に駆け込んできた少女を新手と思ってしまったのかもしれない。

 少女は追ってきた少年が覆いかぶさった所でまとめてサブマシンガンに撃たれた。

 なにも撃たなくたっていいのに……メルグロイは眉間にしわを寄せる。

 そうしたら、意外な人物の絶叫が聴こえてきた。

「ああああああああああああああぁっ!」

 あまりの迫力にメルグロイは振り向いた。

 そこには絶望に顔を染めたセシオラの姿があった。

 彼女がここに来ていたことにも、絶叫していることにも驚いた。



 セシオラは咄嗟に『撃つな』と周囲に言ったのに、誰かが撃ってしまった。

 ネルハは『お父さん!』と叫んでいた。

 きっと彼女は艦内の危険を知って、家族を捜したのだろう。どうやってかわたし達の目をかいくぐり、ここまで辿り着いたのだろう。

 セシオラは目を見開いたまま涙を流す。

 なぜ彼女は撃たれなければならなかったのだろう。何も悪いことをしてないのに。

 どうしてわたしの仲間は撃ってしまったのだろう。撃つなと言ったのに……!

「ああああああああああああああぁっ!」

 絶望は怒りへ変換されていった。

 セシオラは天に向かって吼える。

 この世界そのものを許さないとばかりに。

 実際、許さなかった。

「よくも、わたしの友達をおおおおぉっ!」

 サブマシンガンを向けたのはベータ班の面々。

 乱射。

 普通なら乱射は恐ろしく命中率が低い。

 だが至近距離で放った銃弾は次々ベータ班の者達に突き刺さっていく。

 セシオラは涙を零しながら考える。わたしはネルハを好きだった。この『好き』は本当のものだったのかもしれない。

 それほどの巨大な喪失感だった。

 すぐに反撃を受けてわたしは死ぬだろう。でもそれで良い。もう生きるための理由も無いのだから。

 予想通り、セシオラは反撃を受けて倒れた。

 セシオラは天井を見上げ、指一本動かす気になれなかった。

 これでネルハと一緒の所へ行ける。もう思い残すことはない。

 だが少しして、意識がはっきりしていることに気付いた。

 いっこうに意識が途切れない。

 ただ撃たれたところが痛いだけ。

 おかしい、致命傷を負ってないのだろうか……?

 そんな時、新たな銃声が響いた。



 メルグロイは絶叫するセシオラを見て心が揺さぶられた。ああ、あいつは本気だったんだな。本気で友達だったんだな……

 セシオラがネルハという宇宙人と友達になっていたことは知っている。縁を切らせたはずだが、泣く泣く距離を置いただけだったんだな……

 絶叫しながらセシオラは乱射し、反撃を受けて倒れた。

 その姿があまりにも切ないと思った。

 せっかくできた友達を仲間に撃たれて。

 本気……か。

 メルグロイは銃を強く握り締めた。俺も、俺も……本気だったんだ、エミリーに……!

 セシオラに対しては『本気じゃない』と言っていた。

 だがその時からずっと、本当は本気だったんだ……!

 そこで新たな銃声が響く。

 何だと思って見てみると、一人の女性がセシオラ達の来た道を走って来ていた。

 レンブラが急に倒れて痙攣し始める。

 これはスタン弾の症状だろうか?

 いや、それより……

 走りながら当てたのか(、、、、、、、、、、)

 それは正規兵であるメルグロイでも驚愕の技術だった。


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