秋雨と春と夢オチと
「どうして……どうしてこんなことするんですか、雨夜先輩」
「こんなこと? 春里さん、僕が君に何をしたんだい?」
「何って……自分のしていることが分かっているんですか! 毎日人を追いかけ回して! こんなよく分からない場所に連れ込んで、私を、どうするつもりなんですか!」
「君に言われたくないな。人を追いかけ回すと言うのなら、君だって同じことをしてきただろう?」
「それは……」
「まあ、安心するといいよ。別に酷い事をするつもりはないから。誰も、自分のモノを好き好んで壊したりは、しないだろう?」
「自分の……モノ?」
「そうだよ、今日から君は、ずっと、ずっと、ずっと。僕のものだ。誰も来ないこの部屋で、これから先、僕らは一緒に過ごすのさ。さあ、春里……いや陽菜、こっちにおいで」
「なにっ……んっ……」
***
「そうして、雨夜先輩は私の口を口で塞ぐと、貪るように私を」
「そこから先は言わなくていいよ!」
買い物帰りに、大学の講義を終わらせて戻ってきた春里陽菜とばったり出くわしたかと思うと、真っ先に講義で居眠りしたときに見た夢の話をされた。
内容は、僕がヤンデレの様に彼女を追い詰めて、色々するといった夢だ。その過激な内容は少なくとも、他の通行人もいる道端で話す内容じゃない。
「それで、雨夜先輩! これ、雨夜先輩のマンガになったりしませんか?」
ある意味で自分の願望が叶った夢を現実でも見たいのか、彼女は目を輝かせる。
「……そうだね、気が向いたらね」
適当にお茶を濁しておく。流石に、ここまで目を輝かせる女の子を否定出来るほど、僕は残酷じゃない。
「本当ですか! じゃあ、さらにこれ、現実になったりとかは……」
「それは流石にない!」
いくらなんでも、社会的地位を捨てる気はまだない。そんなに顔を赤くするなら言わなければいいのに。
「というか、告白はいまだに出来ないのに、そういう事を言うのは出来るんだね。春里さん」
「うっ……雨夜先輩のいじわる」
いじわるでもなんでもなく、普通のことだと思うのだけれどな。
それにしても、彼女の話を聞いて、少し驚いた。僕も、同じ夢を見たから。いや、正しくは同じじゃない。僕の夢はそこまで過激じゃなかったし、最初に迫ってくるのは彼女だった。でも、僕が彼女を求めるという意味では、同じだった。これはどういう事だろう。
オカルト的に、僕らの脳波がシンクロした? 彼女からの刷り込みの効果が出た? それとも、根本的に、僕は彼女の事を……
「はぁ……」
「ため息なんてついて、どうしたんですか? 雨夜先輩」
「なんでもないよ、さあ、早く帰ろう」
僕は彼女の手を引いて、足を速めた。最後の選択肢を、深く考えないようにするために。