秋雨と春とコンビニ
部屋の中でのネーム作業中。だけど、その作業に重大な支障をきたす現象が僕を襲っていた。
「暑い……」
座っているだけなのに汗がにじみ出る。温暖化の影響なのか、まだ梅雨を迎えてないのに夏のような暑さだ。おまけに、暑さでアイデアが出ないだけじゃなくて、汗でネーム用の紙がにじむ。こんなんじゃ、作業にならない。
「だめだ、これは一回中断しよう」
気分転換にコンビニに出かけることにした。もちろん外も暑いけど、風が吹くぶん室内よりはましだ。
コンビニの店内は、当たり前だけど空調が効いていて涼しい。ああ、この中で作業できたらどんなに楽か。
冷たい飲み物とアイスを何種類か買い、レジへ向かう。レジの向こう側にいたのは、高校生くらいの、素朴で可愛げのある女の子だった。その愛嬌のよさに少し癒やされる。
支払おうと思ったら、小銭がまったくなかったので、千円札を差し出す。
「お釣り、300円になります」
店員さんからお釣りを差し出される。店員さんの柔らかい手が触れる、鼓動が少しだけ高鳴る。鼓動の高鳴りを感じたまま、店外に出る。
そういえば、よくあるストーリーだけど、こういうのから始まる恋愛っていうのも有るんだよな……今度やってみようかな。
「そんなにニヤニヤして、みっともないですよ雨夜先輩」
曲がり角を曲がった先でばったりと春里さんに出くわした。いや、待て、この場合は出くわしたというよりも、先回りをされたの方が正しいのか?
「何時から着けていた?」
「雨夜先輩が部屋のドアを出たあたりからです。さっきの店員さんにデレデレしていたところもバッチリ見ました」
彼女は手を双眼鏡の形にして、どこか不機嫌そうに答えた。気持ちは分かるけど、勝手に着いてきて、勝手に気分が悪くなられても、流石に困る。
「……他の女の子と僕が触れるのが嫌なら、次からは後ろじゃなくて、ちゃんと横を歩けばいいじゃないか」
「いいんですか?」
彼女は目を丸くする。いいもなにも、他の女の子と触れる度に理不尽に機嫌を悪くされるのは、たまらない。それなら、最初から横にいたほうが楽だ。
「ありがとうございます! 雨夜先輩」
彼女は絡みつく様に、僕の腕を抱いた。いや、横を歩くってそこまでの意味じゃないんだけど。うわ、人肌って妙に熱い。おまけに彼女の身体の柔らかさが腕から伝わって、さっきより鼓動が高鳴る。
「……春里さん、アイスいる?」
「はい、ありがとうございます」
買ったアイスを一つ渡すと、彼女は上機嫌で受け取った。涼しそうにアイスを舐める彼女の横で、部屋に戻るまでの間、僕は日差しと体温の二つの暑さに悩まされ続けた。