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[脅威] : 刃の行方
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だんだんと生暖かい白霧が晴れてくる。確かに殺したはずだ。この一撃を避けられるはずがない。いや、なかった。
「よう、来たか」
馬車から半身を乗り出した男が呟いた。頚動脈に突き立てたはずのスプリッターの切先は、後ろを向いたままの男が二本の指で挟み、受け止めていた。驚異的な握力だ。俺が力一杯押し込もうとしても、逆に引き抜こうとしてもびくともしない。
男は頭を90度回転させてこちらに目をやった。
「お前が葬儀屋か。噂通り若いな。」
肌は浅黒く、髭とボサボサな髪が野性味のある暴力性を訴えかけている。
「貴様には死んでもらう。報いを受けろ!」
俺が言うと男がニヤリと笑う。急に周囲の空気が凍ったように温度が下がった気がした。俺は嫌な予感を感じて思いっきり馬車を蹴り、反対側に飛んだ。なんとかスプリッターを引き抜くことに成功し、距離を取る。男が完全に馬車から脱出し、こう唱えた。
「万物よ我が矢となれ」