[休息] : 隠れ家ディナー田舎風、情報屋を添えて
ルークとジェンキンスの隠れ家はグリズルを狩った山の麓にある。壁にもたれかかると倒れそうなボロ家だが、小さな客人一人を招き入れるだけの余裕はあった。
「流石はアルバートさん、その辺に買い物しに行くような格好のワカモノとは格が違うわね。あれだけの魔物を仕留めてかすり傷で済むなんて。」
クレアは落ち着いた風に嘯いたが、目が泳いでいる。まだ動揺しているようだ。
「だからアルバートって誰だよ。」
「私のことですよルーク様。アルバートは外向きの名前でして。」
ジェンキンスは傷を消毒しながらそう答えた。外向きの名前か。あるいはアルバートが本名ではないか、とルークは漠然と考えた。考えてみればジェンキンスの素性は殆ど知らない。
「で、ジェンキンス、この失礼な赤髪は誰だ?」
「私の愛人です。」
「は!?」
「はあぁ!?」
二人同時に素っ頓狂な声を上げた。
どんだけお盛んなんだこのジジイ!孫娘レベルのロリコンをカミングアウトしやがった!
「はっはっは、冗談で御座いますよ、この方はトール&クライス商会のエージェント様に御座います。」
「商会?何か売りに来たのか?間に合ってますけど?」
横目でクレアを見ると、先ほどの愛人カミングアウトが効いたのか、赤い顔をして顔をしかめていた。
「商会はタテマエ、実際には大陸最大の諜報ギルドなの!そのくらい知ってろバカ!」
諜報ギルド、早い話がデカい情報屋だ。様々な情報を集め、必要な者に売りさばく。そのクライアントはゴシップ好きの貴族夫人から国家にまで及ぶ。
「まったくもう・・・。」
クレアは少し不機嫌そうに腕を組み、椅子の前足を少し浮かせて体を揺らした。その子供っぽい仕草と過剰反応が少し可笑しくもある。
「ふふ、私としたことが、乙女に対し無礼な冗談を口にしてしまいましたな、お詫びにご夕食でも如何ですかな?」
ジェンキンスがちゃっかり人数分用意していた皿を運ぶ。肉をハーブソルトでローストし、ラズベリーソースをたっぷりと添えた手料理だ。別皿にはライ麦パンと山羊のチーズが乗っている。
「た、食べ物で釣ろうとしたって・・・。そんなに食い意地が張ってるように見える!?」
・・・料理を凝視しながら言っている。明らかに食い意地が張っているようだ。
「・・・釣るような料理でもねぇよ。一人分多いんだから食っとけ。」
それを聞いたクレアは口角をぐっと広げたにやけ顔になり、
「そういうことなら遠慮なく!」
と言うとぱくぱくと料理をを口に運び始めた。
「お、おいしい!アルバートさん王宮料理人レベル!」
クレアは目を輝かせて感嘆した。・・・見事な食いっぷりだ。
「はは、ただの執事ですよ。喜んで頂けたようで光栄です。」
クレアの機嫌は戻ったようだ。今食べている肉がさっきのグリズルだと知ったらどんな顔をするだろうか。
あっという間に料理を平らげた彼女は、ルークの皿を物欲しそうに見つめている。
「・・・やらんぞ。」
クレアは複雑な顔で睨んできた。
ジェンキンスは皿を片付けながら、クレアが派遣されてきた経緯を説明する。
「前々から商会には大金を積んでルーク様のご両親を殺害した犯人を探しておりました。この度、専任の担当者を付けて頂けることになりましてな。」
「それが私!クレア・カロライナ上等分析官というわけよ!」
話によると、トール&クライス商会は情報の売買だけでなく、諜報員のアウトソーシングも行っているようだ。
「クレア様はブラック・チェンバー(注1)の中でも優秀な方とお聞きしております。」
「コイツが?」
「何よコイツって!これでもトール&クライスアカデミー主席卒(注2)なんですけど!」
ジェンキンスがとっておきの茶葉とティーカップを用意しながら微笑む。
「ルーク様、クレア様のお二人ならば必ず仇の居場所を突き止められる、そんな気がしてきますぞ。」
「そうよ、私に見つけられないものなんて何も無いんだから!」
クレアは再び、ビシッとルークに人差し指を突き付けながら、謎の自信に満ちた二重否定をした。
(注1): ブラックチェンバーとはトール&クライス商会の中核部門で、情報の収集と分析を得意としている。
(注2): アカデミーでは潜入、諜報、分析・解読術、交渉術など情報ギルドで必要な技術を教え込まれる。その課程は過酷で、完全な実力主義が根付く。拉致に近い強引なスカウトでも有名。




