表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クルーウェル・ワーカーズ  作者: 七篠敏明
3/16

[迎撃] : 人殺しの夜

◇◇◇◇◇

扉が静かに開き始めたと思うと、ロングソードを構えた男が扉を蹴破った。


ジェンキンスが侵入者の一歩目に合わせるように飛び出し、衝突する。


いや、違う、流れるような動きで侵入者に致命的な一撃を加えている!ロングソードを構えたまま、突入の勢いで侵入者が前に倒れこむ。

首には深々とペティナイフが突き刺さっていた。


「クソッ!」


カンテラを持ち、後ろに控えていた男が一歩引いて間合いを取った。カンテラから漏れる光が魔法陣を描き、物理魔法(注1)による反撃を試みている。

しかしジェンキンスは一人目を屠った不安定な体勢のまま、次の攻撃に入っていた。利き手に持ったナイフを、ダーツを投げるように鋭く最小限の動きで放った!


ナイフが両目の間に突き刺さり、男は力なく倒れる。魔法陣は火が風に吹かれたように揺らめいて消えた。


一瞬の出来事であった。しかし、ルークには一生忘れることのできない初めての「人殺しの夜」だった。


「ルーク様、ルーク様」

いつの間にかジェンキンスがルークを呼んでいる。


「お騒がせしました、急な来客がありましてな。」



・・・



母は、父の屍に折り重なるようにして絶命していた。両親を襲った犯人は、ルークの家に侵入した二人とは別の二人組だったようだ。ツーマンセルの2チーム体制(注2)。おそらくプロの仕事だ。

残る二人は結局捕まらなかった。


葬儀は三日後、大雪の降る日に行われた。

何人もの知らない大人がルークに同情と、暴漢への怒りを口にした。ルークは両親がもはやこの世にいないという実感のないまま、ジェンキンスの側にずっと立っていた。


「・・・お母上が自らを犠牲になさらなければ、四人に囲まれ、私もルーク様も無事では済まなかったでしょう。」


ジェンキンスが参列者の列を捌きながら言った。


「ルーク様、実はお母上がお亡くなりになったときには目撃者がいました。暴漢に殺されたその瞬間です。」


不意に目眩がする。


「暴漢に痛めつけられて尚、息子・・・ルーク様は見逃してくれと叫び続けたそうです。暴漢に切り刻まれながらです。」


あの優しい母を、力強い父を奪った犯人への怒りと悔しさから、ルークの目に涙が溢れた。


「幼いルーク様にこのような話をするのは酷です。・・・しかし・・・話しておかねばならぬのです。怒りを劣化させないために。」


ジェンキンスはルークの手を握った。


「この年老いたジェンキンスめの代わりに、ルーク様、あなたがご両親の仇を取ってくだされ。それがご両親に出来る唯一の弔い・・・!」


ルークはジェンキンスの、皺だらけながら大きな手を強く握り返した。


執事になった経緯は分からないが、元腕利きの暗殺者、それがジェンキンスの正体だった。昔はクルーウェル・ワーカーズという暗殺ギルドに所属していたとルークに語った。街を離れたルークは、それから数年間、ジェンキンスに暗殺術を叩き込まれることになる。


(注1): 物理魔法と聞くと、どこか矛盾しているように聞こえるが、ニュートン力学的なエネルギーを発生させる魔法の総称程度に考えて問題ない。本文中の魔術師は高周波による物体破壊を得意としている。


(注2): 少数精鋭チームによるヒット&アウェイ戦術でよく用いられる編成。片方が囮または大火力による戦闘を担当し、もう片方がサポート、奇襲、情報収集を担当する。全滅を避け、確実に戦況を報告する目的もある。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ