[因縁] : Battle sounds
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「万物よ我が矢となれ」
男はそう唱えた。一瞬の静寂があり、その後に一切の静寂は無かった。男の周りに散らばった馬車の破片、金属片、砕けた石、さらには首の骨を折って絶命した馬の肋骨までもが、浮き上がって男の周りに浮遊し始めた!
覚悟はしていたが、かなりの手練だ。クレアの話では、王家親衛隊クラスと思われる。それが本当だとすると絶望的な実力差だが、負けるわけにはいかない。ジェンキンスのためにも・・・!
「貴様が新しい葬儀屋、だな?今降伏するならば命までは取らん。ナイフを捨てろ。」
俺は答えずスプリッターを構える。
「そうかそうか。串刺しになる覚悟はできたようだな?」
男が実に愉快そうに不愉快な笑みを浮かべた。破壊された馬車の上で、黒いマントが揺らめく。こいつが両親を殺した男の一人だと思うと複雑な気持ちだ。夢で見た顔のない悪魔が、急に実体を得て目の前に現れたのだ。
「お前は・・・10年程前に こ の 街 で 二人の男女を殺したのを覚えているか?」
そうだ、この街なのだ。盲点だった。こともあろうか、こいつらは両親や俺、ジェンキンスが昔住んでいたこの街に潜伏していた。それをクレアが見つけてくれたのだ。
「ああ・・・覚えてるとも。俺にとって最高の夜だった。もう一度殺してやりたいぐらいだ。惨めな死に様だったぜ!特に貴様の馬鹿な母親はな!」
「後悔・・・させてやる・・・!」
「させてみろ!葬儀屋!レッドレイクの生き残りよ!」
男が叫ぶと、宙に浮かんで静止していた木の破片が、強烈な加速で俺の心臓を狙って飛んだ。
バン!
一瞬で音速を超え、サウンドバリアを破る爆音が響く。俺はスプリッターを両手で構え、これを迎撃した。両手に重い衝撃が走り、木片の軌道を変えることに成功する。木片は誰かの家の壁を貫通したようだ。手にはピリピリとした痺れが残った。
男の周りの浮遊物はさらに増えていた。前後左右、頭上さえ浮遊物に囲まれ、全てルークの動きを追っている。攻撃だけでなく、防御にも優れた能力だ。
「伝説から蘇りし葬儀屋よ!再び伝説へと消えろ!」
男の周りから何本もの鋭利な浮遊物が俺に向かって飛ぶ。俺は高速で飛来する"矢"を、スプリッターで弾いてから体を反らして避け続ける。その様はまるで舞を踊るかのようだ。雪に包まれながら、永遠とも思える演舞が続く。ルークの防戦一方かと思われた。
しかしある刹那、"矢"の連撃が弱まり、一本の太い木材がルークに向かって飛び込んできた。連撃で疲労したのと、手頃な"矢"が無くなったことで、大きな物体を動かさざるを得なくなり、鈍化したのだろう。その瞬間を見逃さなかった。
俺は姿勢を低くして男へと駆ける。木材がルークの頭を吹き飛ばそうと向かってくるが、そこに、スプリッターによる突きを叩き込んだ。ナイフ術で体組織を破壊するための"ひねり"を手首に加えることで、木材はバリバリと音を立てて分断された。二つに割れた木材の間をすり抜け、俺は男の急所を突いた。
ドス!
熱い血がナイフを伝い、すぐに冷えて垂れ落ちてゆく。
「ほう・・・いい踏み込みだ。」
しかし男の傷は浅い。スプリッターを掌に刺し、受け止めていたのだ。男は無防備になったルークの腹を蹴り飛ばす。決死の覚悟で懐に入ったのに、また距離を取られてしまった!
「少し貴様を甘く見ていたようだ。レッドレイクの息子よ。」
男は手の傷に対し微塵の興味も示さずに言った。蹴り飛ばされた俺は雪の上で体制を立て直す。
何かが光った。
男の周りで、無数の小さな光を認識した瞬間、俺は胸にドンと強い衝撃を感じて仰け反った。息ができない。雪が一層強さを増して俺と男を包む。そうか・・・あいつは・・・あの男は空から降る雪の一粒一粒を圧縮して氷の散弾を作ったのだ。俺の意識は冷たい雪の中に沈んでいく。
だめだ・・・勝てない・・・




